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剣の娘  作者: 田中
第六章 貴族の誇り
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リンデ・ミリディア

 馬車は順調に男爵領を進み、途中目が覚め暴れていたリンデは、暴れ疲れたのかしばらくすると静かになった。

 カミュたちは休憩時に床下を除いてみたが、リンデを含め四人とも眠っているようだった。

 そして日も暮れ、一行が街道側の林で、野営の準備を行っている頃、馬車の中で喚く声が聞こえてきた。

 カミュはデイブと二人、焚火を離れ馬車に向かった。

 床板を上げ中を確認すると、四人とも目を覚ましもがいていた。


「狭い所に閉じ込めてごめんね。気分が悪い人はいる?」


 カミュの言葉に猿轡をかまされたリンデが、もごもご言っている。

 衛兵二人はカミュを睨みつけ、侍女は怯えた目で二人を見つめた。

 衛兵の一人が言う。


「ここはどこだ。お前たちの目的はなんだ?」

「ごめんなさい、それは言えないわ。それにやましい事がないなら、しばらくしたら解放されるはずよ」

「それは本当ですか!?」


 カミュの言葉に侍女が飛び付いた。


「ええ、やましい事がなければね。用が足したい人は言って頂戴」


 四人とも催していたようだったので、マイクを呼び見張りをしてもらい、侍女はカミュがそれ以外はデイブが付き添ってそれぞれ用を足してもらった。

 リンデが暴れて逃げ出そうとしたが、すぐさまデイブに取り押さえられたようだ。


 その後、焚火の周りに座らせる。

 リンデは猿轡を外すと、口汚く喚いていたが、カミュが静かにするよう、低い声で言うと大人しくなった。


「大人しくしていれば手荒な事はしないわ」

「縛り上げて拉致るのは手荒じゃねぇのかよ」


 リンデが小声で文句を言っていたが、カミュがリンデと低く言うと口を閉じた。

 リンデ達四人には手かせを嵌めたまま、全員が焚火の周りに集まった。

 衛兵はロランに気付き表情を硬くした。侍女はフクロウの仮面を見て不安そうにしている。

 焚火に集まった全員を見回し、ロランが口を開いた


「衛兵の二人と侍女は余罪がなければ、事が済み次第解放しよう。それまでは申し訳ないが拘束させてもらうぞ」

「我々はどこに連れて行かれるのだろうか?」

「とりあえずはミダスだ」

「おい、フクロウ! お前こいつらに暗示をかけたんじゃねぇのか!?」

「それは芝居だ。俺は子爵に付いた」

「なんだと……」


 リンデは絶句してフクロウを見た。


「すまんな、リンデ。あんたの親父についてるより、子爵の方が俺の目的には早くたどり着けそうなんでな」

「てめぇ! 誰に向かって口聞いてんのか分かってんのか!?」

「男爵の息子のエロ餓鬼だろう」

「殺し屋風情が!!」


 リンデは立ち上がり、フクロウに掴みかかろうとしたが、介助の為フクロウの隣にいたカミュが、彼の前に立ちふさがると怯えたように後退った。


「リンデ、座りなさい。フクロウも無駄に挑発しないで」

「クソっ」

「かしこまりましたよ、侍女殿」


 リンデは小さく悪態をついて座り、フクロウも口を閉じた。


「さて、話を続けてよいかな?」


 ロランはとくに意見が出ないようなので、話を続けた。


「では続きだ。そち達四人には男爵領を抜けるまでは、床下でいてもらう。急げば明日には子爵領に抜けられるだろう。手かせは外せんが床下からは出すつもりだ」

「我々が邪魔だと言うなら何故殺さない?」


 リンデと侍女が発言した衛兵を見る。

 リンデは睨むように、侍女は目を見開いていた。


「その方法が一番楽なのは私も知っている。だがお主らも王国の国民だ。法を無視して害する事はしたくない。罪あれば法に則り然るべき罰を与える。地位をもって個人を裁く等あってはならん」


 侍女がおずおずとロランに尋ねる。


「ミダスについた後はどうなるのですか?」

「しばらくは城に居てもらおう。監視はつけるが、牢につなごうとは思っていない。暴れたり逃げ出そうとすればその限りではないがな」

「しばらくってどの位……?」

「おそらく二週間程だろう。その間に個々人の罪状についても調べる予定だ」


 それを聞いてリンデが声を上げる。


「罪状って俺は何もやってねぇぞ!!」

「リンデ、そちは叔父が何をしているか、ある程度知っておろう? それに近隣の村で、娘らに乱暴を働いたのではないのか?」

「うるせぇ!! 親父が何やってようが俺には関係ないだろうが!? あと領地の人間は俺ら貴族の所有物だ! どうしようが俺の勝手だ!!」

「ふぅ、それは誰の教育だ? 貴族は国から領地の運営を任されているにすぎん。人が集まるから国が出来る。国があるから人が居るのではないのだ。国とは集団を効率良く回していくための形態にすぎんのだ」

「お前、一体何を言ってるんだ? 貴族は平民より尊いんだ! 平民なんぞ俺達に使われる家畜だろうが!!」


 ロランはため息を吐いて首を振った。


「人に上も下もない。貴族等、管理者にすぎんよ。傅かれる内に自分が偉いと錯覚しているだけだ」

「話にならねぇ!」


 リンデは吐き捨てるように言うと押し黙った。


「子爵様、リンデに何を言っても無駄じゃないんですか…」

「切り捨てる事はしたくない。リンデにも何か可能性があるはずだ」


 カミュの言葉にロランはそう返した。

 その言葉にフクロウが口を挟んだ。


「ロラン。こんなクソガキが何かの役に立つと思っているのか?」

「それは分からん。だが見限ってしまえばそれまでだ。私は人は変われると信じている」

「甘い事だ」

「そうかもな……さて、これ以上質問がないなら食事にしよう」


 ロランの言葉で、カミュたちはパンや干し肉、野菜スープをそれぞれに配った。

 衛兵たちは何も言わずに食べていたが、リンデは不味いし量が足りないと不平を口にしていた。


「文句があるなら、別に食べなくていいでござるよ」

「俺は貴族だぞ。こんな平民が食う物を食えるか!」

「リンデ、男爵領の領民たちにはこれでさえ贅沢なのだ。お前が日々食している物は、そういった人々の犠牲の上に成り立っているのだ」

「うるせぇ!! 俺に説教するな!!」

「お主は一度、民の中で暮らしてみるべきかもしれんな」


 感情のはけ口を求めるように、パンを噛み千切ったリンデを見て、ロランはそう呟いた。

 その後、二人ずつ交代で見張りを務め、ロラン達は馬車で、リンデ達は焚火の傍で、手かせをしたまま寝て貰った。

 リンデは小声で何か言っていたが、しばらくすると静かになった。

 カミュは一緒に見張りをしていたデイブに話しかけた。


「デイブ、貴方もリンデと同じ男爵家の子供なんでしょう?」

「はい、まあ僕は三男なんで、よっぽど功績がないと領地のない騎士どまりですけどね」

「でも、貴方やアイン、子爵様もリンデのように偉そうじゃないわ」


「父は学者として国に仕えているし、先代の子爵様とも懇意にしていたから、その影響が僕にも伝わったのだと思います。隊長は子供の頃、よく家を抜け出して、街で遊んでいたからじゃないかな? 子爵様はお父上の教育の賜物でしょうね」

「環境は大事だって事?」

「ですね。世の中がどんな風に動いているのか知らず与えられる情報だけを鵜呑みにすれば、それが正しい事だと認識してしまうのではないですか?」

「なるほどね。孤児院にもそういう事を教える人が必要かも……」


 デイブは焚火に火をくべながら、思いついたように言った。


「カミュさん、もしよければ僕の兄を紹介しましょうか?」

「貴方のお兄さん?」

「はい、一つ上の兄、次兄は貴族の子弟に勉強を教えているんですが気位の高い子が多くて、いつもぼやいているんですよ。僕と同じであまり身分とかは気にしないから、熱心に勉強する子なら喜んで教えてくれると思うんです」

「そうね。でもどんな子が集まるか分からないから、子供たちを見てから考えるわ。でもありがとう」

「優秀な子がいれば、専門分野を教えてみるのも、いいかもしれませんね」

「なんにしても、選択肢が広がるのは良い事だわ」


 そう締めくくり、カミュは焚火を見つめた。

 男爵の事が落ち着いたら、孤児院についても進めないと。

 カミュがそんな事を考えている間に夜は更けて行った。



 ■◇■◇■◇■



 翌朝、食事を済ませた一行は、子爵領を目指し馬車を進めた。

 御者台にはデイブと雪丸が座り、車内にはロラン達が座り、リンデ達には床下に入ってもらった。

 リンデは文句を言う気も失せたのか、カミュ達を睨みつけるだけだった。

 床下に入れられた後は、何かぶつぶつ言っていたようだが……。


 夕方近くに男爵領を抜け、子爵領に入った。

 カミュはリンデ達を床から出し、椅子に座らせた。


「無事、抜け出せてよかった」

「今夜からは宿で眠れそうですね」


 ロランの言葉にマイクが笑みを浮かべそう言った。


「おい、どこに泊まるつもりだ?いい加減、美味い飯を食わせろよ」


 リンデの発言にフクロウが呆れたように言う。


「お前、自分がどういう状況なのか分かっているのか?」

「なんども言わせんな! 俺は貴族だぞ! それなりの待遇は受けて当然だろ!」

「ベッドを提供してくれるだけでも有難いと思わんのか?」

「なんで下僕が俺の寝る場所を用意する事を有難がらなきゃいけないだ!?」


 この二日床下で、リンデの愚痴を聞かされ続けた衛兵と侍女は、死んだような目で彼を見た。


「リンデ様、いい加減ご理解下さい。我々は子爵の恩情で生かされているだけなのですよ」

「フンっ! こいつには誰かを殺すなんて勇気はねぇよ!!」

「リンデ、子爵様を侮辱すると許さないわよ。彼は領民のために危険を承知で敵地である男爵領に乗り込んだのよ。誰にも勇気が無いなんて言わせないわ」


 カミュの視線に耐え切れず、リンデは押し黙った。


「とにかく、あと三日程で城に着く。そうすればお主の言う美味い料理も提供できよう。それまで辛抱してくれ」

「やれやれ、最年少の子爵が一番、大人の様な気がするな……」


 フクロウの独白が馬車の中に響いた。


 子爵領の旅はいたって平穏で、村で宿に泊まる時、質素な食事や固いベッドに、リンデが文句を言った以外は順調に進んだ。

 そして三日後、馬車はミダスに辿り着いた。

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