表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣の娘  作者: 田中
第五章 密造銃と暗殺者
40/123

フクロウの正体

 フクロウを確保したカミュたちは、ロランに報告するため一度ステラに戻ることにした。

 フクロウは暴れることなく素直に従った。


「随分大人しいわね。観念したの?」


 カミュの言葉にもフクロウは反応することはなかった。

 彼らが宿に着くと、カイルが迎えてくれた。


「お帰りカミュ。全員怪我とかしてないか?」

「ただいま、カイル。ええ皆無事よ。ロイ様は二階?」

「おう、雪丸と一緒にいるぜ」

「わかったわ。ありがとう」


 一行は二階に上がり大部屋に入った。

 大部屋にはロランと雪丸の他、アルバもいた。


「子爵様、ただいま戻りました。雪丸さん、アルバさんただいま」

「カミュ殿お帰りでござる」

「お帰りなさい。皆さん」

「うむ、皆大事ないか?」


「はい、三人とも無事です。そうだ、貴女の薬が役に立ったわ。ありがとうアルバさん」

「いえ、お役に立てたなら幸いです」

「して、こやつがフクロウか?」

「そうです。何とか生かして捕らえることが出来ました」


 カミュはフクロウの猿轡を外した。

 アルバはフクロウの顔を見て驚きの表情を浮かべた。

 フクロウはアルバの声を聞き顔をそむけた。


「まさか!? ユリウス兄様!?」

「その声はアルバか!?」


 カミュは二人の様子に驚き、アルバに問い掛ける。


「兄様? アルバさんのお兄さんなの?」

「実の兄ではありません。同じ奇術の師匠の元で修業した兄弟子です」

「兄弟子……」


「はい、兄様は容姿と奇術の技で貴族の女性達にも大変人気が有ったのですが、その人気に嫉妬したある貴族に、濡れ衣を着せられ捕らえられたのです」

「濡れ衣だと?卑劣な真似を……」


 ロランがぼそりと呟く。


「捕らえられた兄様は、顔を焼かれ、視力も奪われました。その後、釈放されたのですが、兄様は失意の中、行方不明になりました。まさか暗殺者になっていたとは……」


 カミュたちは驚いたようにフクロウを見た。

 ロランがフクロウに問いかける。


「フクロウ、貴族に恨みを持つであろうお主が、何故叔父に味方する?」


 フクロウはしばらく黙っていたが、ロランを見えない目で睨むように語り始めた。


「……復讐のためさ。俺を陥れたクソ野郎共は随分と高い地位にいるもんでね。普通に近づくことも出来ん。メンデルは奴に近づくための踏み台さ」


「なるほど、叔父を足掛かりにさらに上に食い込むという事か」

「しかしその計画もそこの女に阻まれた。もうどうでもいい、さっさと処刑しろ」

「兄様!」


 アルバが悲痛な声を上げる。

 ロランは目を閉じ何やら思案しているようだったが、おもむろに口を開いた。


「確かにお主の罪は追及せねばならん。人を操り命を奪ったことは許されるべきではない。だが横暴な貴族を放置していた国にも非はある。…フクロウ、私に協力する気は無いか?」


 ロランの言葉にデイブが口を挟んだ。


「子爵様! こいつは暗殺者ですよ!衛視隊の人間も殺されているんです!!」

「分かっている。殺人については必ず償わせる。しかしそれは死に依ってではない。フクロウ、お主が調べた貴族の情報が欲しい。まずは叔父を男爵から退ける。その後、他の者たちの排除する」


「ハッ! たかが子爵風情が何を言う。一体なにが出来るというのだ」

「確かに私は子爵だが、子爵領の生み出す物がこの国に与える影響はそれなりに有る。大貴族を動かすほどにな。今は帝国の脅威に対抗するため国が一丸となって当たらねばならん。その為に俗物の存在は邪魔以外の何物でもない」

「俺が貴族に協力すると思うのか?」


 カミュはそれを聞き口を開いた。


「ねぇフクロウ。貴方、黒鋼騎士団って知ってる?」

「帝国軍の騎士団の一つだな。それがどうしたというのだ?」


「あいつらは……いえ団長のジャハドという男は、目的のためなら村一つ平気で皆殺しにする男よ。そんな男を重用している帝国も推して知るべしだわ。貴方は地位や暴力で人を虐げる者を憎んでいるんじゃないの? ……この国に大切な人は一人もいないの?」


 フクロウはアルバに一瞬、顔を向けたがすぐに逸らし、やがて口を開いた。


「……俺の目を奪ったのはアルベルト・カールフェルト。カールフェルト侯爵の息子だ。奴と取り巻きを始末出来るなら、協力を約束しよう」


「カールフェルト侯爵か。疑惑の多い人物ではあるな。裏で帝国と繋がっているという噂もある。息子のアルベルトも父親の権力を笠に着て、領地では好き放題やっているようだな」


 ロランは顎に手を当て考え込んでいる。


「どうした。相手が侯爵と聞いて怖気づいたか?」

「いや、失脚させる方法を考えていた。良いだろう、アルベルトの件は了承した。裏をとり、確認が取れ次第手を打とう。フクロウ、侯爵についてなにか情報はあるか?」


 フクロウはロランの言葉に少し啞然としていたが、我に返り答えた。


「……侯爵が帝国と繋がっているってのは本当だ。戦争が始まった当初の、帝国軍の快進撃はそれが理由さ。わざと家柄だけの無能な将軍を推挙して当たらせたらしい。もっとも派手にやり過ぎて、最近じゃ口を挟めなくなっているらしいがな」


 フクロウの話にカミュは思わず呟く。


「じゃあロイが死ぬことになったのは……」

「ロイ。カミュが私の偽名として使った名だな」

「はい、戦争で行き場を無くした私を拾ってくれた恩人です。彼も孤児だったけど私のために兵士になって、お金を稼いでくるって……」

「そうか……」


 沈黙が部屋を支配した。それを破ったのはロランだった。


「カミュの恩人なら、私にとっても恩人だ。やはり侯爵は排除せねばならんな。兵が無能な指揮官の下で無駄に死んでいく等、許す事は出来ん……侯爵の見返りは帝国がこの国を支配した後の統治権といったところか?」


 問いかけられたフクロウが答える。


「あ、ああ、そうだ。それとハミルトン商会がつくっている銃とやらを作る資金も、出所は侯爵だ」

「侯爵から叔父経由でハミルトン商会という流れか。それで完成した物を侯爵が帝国に渡す訳か」


「その通りさ。たしか連発式の銃の設計図。試作品の物だがあれも男爵の手に渡っていたはずだ。侯爵は軍の人事に口出し出来なくなっているから、別の成果として完成を急がしていた」

「連発式……デイブの話に出てきたな。あれが帝国に渡れば戦争の形自体が変わる。戦いではなく一方的な虐殺になるだろう。急ぎ叔父を止めなければ……」


 ロランの言葉が終わりかけた時、ドアがノックされた。


「アインです。ただいま戻りました」

「アインか、入ってくれ」

「ハッ!」


 ドアを開けて、フルプレートを着たアインが部屋に入って来た。

 鎧が凹んでいる。


「アイン怪我はないか? 他の者は?」

「しくじって一発撃たれましたが、鎧のお蔭でなんとか無事です。隊にも負傷者は出ましたが、重傷を負った者はいません。ラルゴは確保しました」

「そうか、ご苦労。こちらもカミュとデイブ達がフクロウを捕えてくれた」


 ロランはアインにフクロウから得た情報を一通り話した。


「状況は分かりました。では早速詰め所で取り調べを」

「いや、フクロウには協力してもらうことにした。無論、罪は償ってもらうが、まずは叔父の件を片付けたい」


「協力!?子爵様の命を狙うやもしれません。賛成できかねます」

「もう決めたことだ。それにフクロウを生んだのは、この国の腐敗が原因だ。爵位を持つものとしてそれを放置していた事への責任の一端はあると感じる」


 アインは苦虫を噛み潰すような顔でフクロウを見た。

 盲目のフクロウにはその表情は伝わらなかったが。


「わかりました。どうなさるおつもりで?」

「フクロウの話では、叔父は連発式銃の設計図を持っている。それを押さえ叔父を引退させる。その後、以前から考えていたように、従兄弟のエンデに男爵位を継いでもらおう」


「しかし、仮にも男爵の城です。一体どうやって入り込むつもりですか?」

「フクロウに引き入れてもらおう」

「フクロウに……? どういう事です?」


 アインの困惑を他所にロランは話を続ける。


「フクロウ、私を連れて叔父の元に行ってくれ」

「子爵様! 何を言い出すんです!男爵のもとに行けば殺されて終わりです!!」

「確かにそのまま行けば殺されるであろうな」


 カミュはロランに目を向ける。


「何か考えがお有りなのですか?」

「フクロウに操られたことにすればよい。叔父は古参の家臣が邪魔なはずだ。自由に操れるなら私を使い邪魔者を排除して、自分は影から子爵領を支配することを選ぶはずだ」


「なるほど、すぐに殺されることは無いという訳ですね」

「うむ、私と衛視何人かを操ったことにして叔父の城を探る。マイクは計画に必須だな」

「俺ですか!?」

「そちの鍵開けの技術はこの計画に必要だ。危険だが協力してくれ」

「りょ、了解です」


 アインは強硬に反対した。


「それでも危険です! 子爵様が出向く必要はないはずです!! そもそもフクロウを信用できません!!」

「叔父を油断させるためだ。ふむ。フクロウ、この計画に乗るか?」


「この状況で断れるのか? それより本当に俺を信用していいのかい? そっちの男がいうように裏切るかもしれないぜ」

「どのみち設計図が帝国に渡れば、連発銃が兵に配備されるだろう。そうなればこの国は終わりだ。帝国は支配した地域の統治者は一族を含め皆殺しにするそうだ。私も殺されるだろう」


「……俺が帝国に加担しているとは考えないのか?」

「もしそうなら、設計図を奪い帝国に行けばいいだけだろう。わざわざ叔父に取り入ろうなどと、回りくどい事はしなくても良い。お主、自分の手で直接アルベルトと決着をつけたいのではないのか?」


 ロランの言葉にフクロウは自嘲気味に答える。


「……それが出来るならな」

「私に協力すれば、最短距離でお主の願いを叶えよう」

「本気で言っているのか?」

「貴族などとふんぞり返っていても、領民あってのことだ。民を守るためなら私は何だってする」


 フクロウはロランに顔を向けた。


「変わった子爵様だ。男爵から十歳と聞いていたが、とてもそうは思えん……良いだろう、口車に乗ってやる」

「決まりだな」


「……子爵様、私も連れて行ってください」

「カミュ、そちは私の部下ではない。いいのか?」

「はい、この国には私の大切な人たちが暮らしています。彼らが苦しむ姿は見たくありません」


「分かった。ではカミュ、デイブ、マイクはフクロウに操られたことにしよう。それなら話の辻褄が合う」

「僕もですか!?」


 いきなり名を呼ばれたデイブが驚いたように声をあげた。


「兵がマイク一人では無理があるからな」

「……分かりました」


 デイブは少し不安な表情で頷いた。

 アインが真剣な顔でロランに声を掛ける。


「子爵様、どうあってもお考えを改めるおつもりは無いのですか?」

「アイン、ラルゴが捕らえられた事が伝われば、試作品とはいえ叔父は侯爵に設計図を渡すだろう。それは何としても阻止せねばならん」


 ロランの意思が固いのを見て取ったアインは、不承不承といった様子で承知した。


「……分かりました。デイブ、マイク。命がけで子爵様を守ってくれ。カミュ、傭兵のお前に頼むのは心苦しいが子爵様を頼む」

「了解です。隊長」

「分かったわ。必ず守ってみせる」


 話がまとまりかけた所で雪丸が口を開いた。


「拙者もご一緒してもいいでござるか?」

「雪丸、そちはこの国の人間ではない。わざわざ命を危険にさらすことはあるまい」

「子供は国の礎でござる。特にロラン様のような聡明な方となれば命を張る甲斐もあるというものでござる」

「そうか……感謝する。では食事でも取りながら計画の詳細を話し合うとしようか」


 カイルに頼んで料理を部屋に運んでもらい、彼らは計画を煮詰めていった。

2018年、読んでくださった方ありがとうございました。

拙い文章ですが、来年もお付き合いいただければ幸いです。

ではよいお年を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ