(三)-1
すっかり日が落ちた夜の八時半。いくら大人とは言え女の先生を一人で帰らすのも危ない気がして先生の家まで自転車の後ろに乗せて送って行くことにした。道中、先生はクラスの生徒の情報をこと細かく訊いてくる。それはもうかなり面倒臭い。
「先生ってさぁ、教師になって何年目なの?」
「私ですか? 今年が初めてなのですデス」
「だったら、もっと気楽にやんなよ。そんなに根を詰めてたらストレスで潰れちまうぜ」
信号待ちの時に耐えきれなくなって言ってやったんだけど、先生は「とんでもない」と後ろから声を上げた。
「生徒たちにとって私はたった一人の先生なのですデス。常に真剣に向き合わなければ絆は作れないのですデス」
「絆って……。先生が熱くなれば熱くなるほど冷める奴だっているんだよ。俺は流れに任せた方がいいと思うけどな」
「そんなことはないのですデス! 一生懸命に頑張ればきっと先生の心はみんなに伝わるのですデス!」
「……先生がそう思うならそれでいいけど」
先生は好意をグイグイと押し付けてくるから鬱陶しいけど、悪い人じゃないのは分かる。だから俺は敵意や悪意を持って接する事はしないけど、小森たちはどうだろう? あいつらはやけにスカしてて、先生みたいなキャラをウザったがるから下手をしたら厄介なことになりかねない。だけどそれは先生の問題だから先生が解決するしかないか。
目の前の信号が青に変わって自転車を出す。でも先生の言うように先生の気持ちがすんなりと伝われば、それでなんの問題もないんだよな。そうなって何事もなく平穏無事に事が進めばそれに越したことはないんだから。教室内がゴタゴタするのは嫌だから今はただ、ひたすらにそれを祈ろう。




