(二)-2
「久瀬君、ご飯は食べましたデスか?」
「まだですけど」
「それは良かったですデス。今日は先生が栄養満点の料理を作って上げるのですデス」
先生はネギのはみ出たエコバックを持ち上げて見せた。
「そ、そんなの良いですよ。ちゃんと自分で作れるし」
「子供は遠慮しないものなのですデス。先生、こう見えて料理が得意なのデスよ」
先生は言うなり戸を引き開いて俺の横を抜けて部屋に上がろうとした。当然、俺は阻止するために先生の体に抱きつく格好になった。
「く、久瀬君、い、いけないのですデス! 私たちは生徒と教師なのですデス! ですからこんな不潔な行為はやめて欲しいのですデス!」
「ち、違う! これは先生が勝手に人の家に上がろうとすっから」
しかしここで照れて離したら部屋の中に入られてしまう。それだけは阻止しなければ。
「何を騒いでおる? 食事の用意は進んでいるのか?」
まったく、お前の存在を隠すために頑張ってるってのによぉ。っておい。
「ミズル、ジーパンはどーした?」
「窮屈だから脱いだ」
こ、この野生児がぁ。Tシャツが大きいからなんとか隠れてはいるが、きっとこいつは下着もはいていないに違いない。
「久瀬君……? この娘はいったい?」
華ヶ崎先生はミズルの格好に衝撃を受けたらしく、俺を振り払うと顔を真っ赤にして「ズ、ズボンをはきなさいデス!」とミズルを指さした。
「修介、こいつは誰だ?」
「俺の新しい担任だよ」
「私を無視しないで欲しいのですデス! 久瀬君、あなたは、あなたは、なんてふしだらなっ! 先生が来るまでいったい何をしていたのです!」
「ご、誤解だって。何も変なことしてないよ」
「だったらこの子はなんなのですか? 久瀬君とは一体どのような関係なのですデス!」
先生は握った両拳を上に振り上げてジタバタ動かし説明を求めてくる。まるで漫画。
「私とこいつとは主従関係だ。こいつは我が下僕、至らぬところは多いが、そこは私の器の大きさで大目に見てやっておるがな」
「いや、ミズルは黙っててくれ。先生、こいつは父さんの知り合いの子供なんだよ。ほら、俺の父さんってアメリカに行ってんでしょ? その仕事関係の子でこっちに知り合いがいないから俺が世話してんの」
「本当なのデスか?」
「ほ、本当も何も先生が生徒を信じなくてどうすんのさ。先生、俺の目を見てくれよ」
そこで俺は気合いを入れて先生の目を見つめた。すると先生もジッとこちらを見つめてくる。うう。なんだかとてつもなくやましくて心が痛く、目を逸らしちまいそうだ。でも頑張った甲斐があった。先生は「そうデスね。私が生徒を信じなくてどうしますか。ごめんなさい久瀬君。先生はあなたを信じますデス!」と目を輝かせた。
「ふぅ。だったらこれで良いでしょ。そろそろ帰って……」
「いいえ。それでも子供たちだけでは大した食事はしていないのでしょう? 今日の晩御飯は先生に作らせて下さい」
「でもハンバーグのタネを作っちゃったし」
「いいえ、今日は栄養たっぷりの百合ちゃん鍋を食べて頂きますデス!」
「この時期に鍋って……。それにミズルもハンバーグを食べたいだろう?」
「作りたいのなら作らせれば良いではないか。どれほどの量でもペロリとたいらげてくれる」
「だからお前は黙ってろよ」
「そちらの子もそう言っていることだから、作っちゃいますデス。お鍋をお借りできますか?」
「鍋ならその上の棚だぞ」
ミズルのせいで先生が鍋を見つけやがった。もうどうでもいいや。好きにしてくれ。
「わかったよ、先生。何か手伝うことない?」
「だから子供は気を遣わなくても良いのですデス。久瀬君と、えーっと、ミズルちゃんでしたっけ? 二人は部屋で休んで待ってて欲しいのですデス」
「そうかそうか。では待っていようではないか。修介、この者の邪魔をしてはならん。行くぞ」
「分かったよ」
投げやりに言ってリビングへ。はっ! 床にヴァゴスがいる! こいつが見つかるとまた面倒なことに……。そう思った俺はそっとタオルケットをかけてヴァゴスを隠すのだった。




