表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶望的魔人奇譚2  作者: 星六
PR
10/19

(三)-3


 くそっ! せっかく日常が返って来たってのに、なんでこんな事になってる? 人間として生きて行くんだと誓ったのに、どうして電線をまたいで、信号から信号に飛んで、車が走る四車線の道路を飛び越えている?


 俺は近くの七階建てのビルの側面から一気に飛んで自分のアパートの屋根に突き破りそうな勢いで着地すると、ベランダの大窓から自分の部屋へ逃げ帰った。


「はぁっ! はぁっ! はぁっ! はぁっ!」


 床に寝転びながら大きく開け放たれた大窓から外を見る。見る。見る。ジッと見る。奴の姿はない。見る。見る。見る。やはり姿は見つけられない。


「やった……。逃げ切れた」


「随分と元気に帰って来たもんだな」


「お、俺だってこんなわんぱくな帰宅はしたくなかったぜ」


 呼吸を整えながら起き上がる。いてぇ。体中に黒い羽根が突き刺さってやがる。


「はっはっは。明日のご飯のために鳥でも追い回していたのか?」


 ミズルは笑いながらコーヒーゼリーをパクリと口にして、そのうまさに身もだえした。まったく、なんとものんきな奴だ。こっちは死ぬ思いで逃げてきたってのに。


「たぶん悪魔だ。この街にお前以外の悪魔がいるぞ」


「そりゃいるだろうよ」


「は? 悪魔ってそんなにいんのか?」


 魔力を使って痛みを押さえながら体に刺さった羽根を引っこ抜く。羽根の芯にはご丁寧に釣り針のような『かえし』が付いていて、普通の人間だったら引き抜くだけで絶叫だろうな。


「当たり前だ。魔界に居場所を失くした力無き低級悪魔なんかはよくこちらへ逃げると聞くぞ」


「でも大悪魔であるお前の魔力を全て使わなきゃ突破できない程の結界があんだろ?」


「私のような上級悪魔は魔界から出る事はならんのでな、そのための結界なんだ。低級悪魔ならなんなく抜けられる道はいくつもあるのだよ。あと、ヴァゴスのようにこちらの世界から呼び寄せられると言うのもある。まぁ、それも中級クラスの悪魔までだろう。私クラスの悪魔が呼び出された前例はまだないらしい」


「上級悪魔をこの世界へ来させないため……。だったらその結界を作ったのは……」


 訊くとミズルがスプーンを持った手を真上に上げる。


「天界の四大神官」


「そんなのマジでいんのか?」


「いなければ今頃この世界は魔界同様、悪魔だらけよ」


 ミズルの不気味な笑みに血の気が引く。


「でもいくら低級、中級だっていっても悪魔は悪魔なんだし、この世界を手に入れようと暴れ出したら人間なんか相手にならないと思うけど」


「天界の住人もこの世界へ来ているからな。まぁどちらも下っ端同士だから大きな争いは目にしないだろうが小さな小競り合いはそこらで起きていると思うぞ。私はまったく興味がないが」


「じゃあ俺を襲ってきたのはどのレベルの悪魔なんだろう」


「なんだ。悪魔に襲われたのか?」


「お前にはこのボロボロの姿の俺が目に入らないのか?」


 そこでミズルは俺の体をじろじろと見て「いつもそんなんじゃなかったか?」


「そりゃ、すいませんねぇ」


 ふてくされながら泥にまみれ穴の開いた服を脱ぐ。羽根を抜いた傷口は徐々に治りつつあった。魔人の体はこんな時には便利だな。ん? そういやアイツ、なんか言ってたよな。なんだっけ……。


……。


……。


……。


「ああっ! そうだ! アイツ、お前と俺を勘違いして襲ってきやがったんだ!」


「ほぉ」


「ほぉ、じゃねぇっ! アイツはヴァゴスがこの世界を滅ぼすのを阻止した奴、つまりお前に復讐しようと考えているんだ! そのせいで契約が破棄されたとかなんとかってさぁ。俺はたぶんお前の魔力をもらったから魔力の臭いとやらで勘違いされたんだよ!」


「なるほど、貴様を襲ったのは契約代理魔か。だったらそいつは中級悪魔かも知れんな。奴ら契約代理魔は魔界でくだらん罪を犯した罰として、悪魔を呼び出す人間の汚れた魂を集める刑を背負わされている安い悪魔なのだ」


「ちゅ、中級……、なんだか強そうだな……。お、お前、なんとかしろよ。ヴァゴスを止めたのはミズルだろ? 相手の狙いはお前なんだからな」


「おいおい修介、お前は酷い人間だな。そんな言われ方をするならヴァゴスをなんとかするのでなかったよ」


 うっ! 確かに……。悪いのはどう考えても向こうだもんな。ミズルに責任を押し付けるなんてどうかしてる。


「それでも今度、街中であいつにあったらどうすんだよ。アイツは俺を探してるだろうからこの街からいなくなることはなさそうだぜ」


「倒せばよかろう」


「あんなのに勝てるわけないじゃん」


「修介、お前は誰の下僕だ?」


「俺は誰の下僕でもない」


「そうだ。お前は私の下僕だ」


「あの~、俺の言葉はお前の耳に届いていないのかな?」


「お前はミズル・バルメオ・アシュタロスの下僕なのだから負ける事はないのだ」


「…………」


「…………」


「俺が負けない根拠はそれだけ?」


「そうだ。良いか? 死んでも『負けた』の言葉だけは口にするなよ。でなければ負けじゃない。勝負は地獄へ持ち越しだ。ははははははははははは」


「こえー事、言うなよ!」


 もう良い。こうなったら明日から俺より先にアイツがミズルに出会うのを望むだけだ。もし俺が出会ったら、その時は……スーパーダッシュで逃げるが勝ち!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ