第二章 四:デート オア キャンセル①
燕はアイテムショップで遭遇した時とは違い、紺と白のインナーに白いマント、それから紺のスカートを履いていた。まるで騎士や剣士のような格好だ。
「初心者応援クエストの自動マッチングだよね?」
燕は少し不機嫌そうに聞いてきた。
「その通り。俺もまさかその相手が燕さんだったとは……。てっ、そういえばユーザーネームをまだ聞いてなかった」
「ユーザーネームは、つばめ」
「俺はハル、よろしく」
「クエスト、キャンセルしない?」
いきなりクエストキャンセルとは。そんなに俺とパーティを組むのが嫌なんて、悲しくなってくるではないか。
「俺、なんか悪いことした?」
「そうじゃないんだけど……。もし二人でクエストやってるとこ知ってる人に見られたら付き合ってるとか思われそうじゃない?」
「確かにそれはそうだけど……。ゴールド二倍は捨てがたいよな」
10,000Gが二倍だぜ?
20,000Gってリアルマネーにしたら2万円だぜ?
「うーん……」
つばめは唸りながらウインドウを操作していた。ちなみに他人のウインドウは見えないので、手の動きや目線でウインドウを動かしているということが察知できよう。
「あ! キャンセルしたらもう二度とこのクエストは受注できないんだって」
ほら、やっぱりクエストキャンセルの操作をしてた。それにキャンセルされたら俺まで巻き添えをくらってしまう。
「ちょっと待った! パーティを外れればいいんじゃない?」
今度は俺がパーティ解除の操作をしてみた。しかし、自動マッチングの場合パーティの解除はできない仕組みのようだ。
「やっぱりクエストキャンセルしか……」
「待った待った! それならクエストでもらえる余分の10,000G渡すから」
「うーん……。ま、それならいっか……」
こうしてクエストキャンセルを防ぎ、つばめとの初心者応援クエストをなんとか開始することができた。
チャプチャプ岬はルーランドの南門から歩いて数分のところにあるということで、移動手段が徒歩しかない俺たちは歩いていくしかなかった。
偶然にも発生したクラスメイトの女子との二人きり散歩。どうしても高校ライフが思い浮かんでしまって、なんというか、気まずいなあ。
チャプチャプ岬に向かう道中、気まずい沈黙に耐えられずとうとう話しかけてみることにした。
「あの、つばめさんはこのゲーム初めてどれくらいなんですか?」
「呼び捨てでいいよ。私は一週間くらい」
「へえー、そうなんだ」
会話終了。
誰か俺に、クラスの女子との会話の続け方を教えてくれ!
「そういえば、昨日の昼休みに誕生日に買ってもらったって言ってたような」
「はあ!? こっそり聞いてたの?」
「い……いや、こっそりではなくて……。その、聞こえてきたと言うか」
「はあ……。そうよ。誕生日に買ってもらったの。それが一週間前ってわけ」
「これも偶然なんだけど、俺も昨日が誕生日でプレゼントしてもらったんだよね」
「ええ!? 確か……ハル! そう、あのハルがプレゼントとしてもらったって?」
「名前忘れてない……? それに、あのハルっていうのは?」
「ごめんだけど、あまり裕福じゃないって聞いてるし……」
「あー。確かに家は貧乏だけど、懸賞に当たったんだって」
「へえー、運がいいんだ」
ダイブリングの入手経緯については誤魔化しておかないと。
「ってことは開始初日にして白い牙をクリアしたってこと?」
「ん? まあそうだけど」
「いやいや、あれってDランククエストの中では一番難しいんじゃないの?」
「そうなの? このクエストと関係が?」
「うん。白い牙をクリアしたら出現するんだって」
知らなかった。
クエストに出現条件とかあるのか。
「私なんて最初はシルバーブレッドとかいうやつらに騙されたし」
「つばめも被害にあったんだ」
「もってことはハルも?」
「最初は騙されたんだけどさ、返り討ちにしたよ」
「ええ!? いやいやいや、いくら初狩りしてる連中だっていっても初めて一日目の初心者じゃ敵わないでしょ」
しまった。
どつぼにハマっていっている気がする。
「なんか調子悪かったみたいだし、俺もたまたま勝てたというか……」
「うーん、怪しい……。何か隠してない?」
「そんなことはない。とにかく、もう少しでチャプチャプ岬に着くと思うから気を引き締めていこう」
俺たちはチャプチャプ岬に到着した。道中は特にモンスターと遭遇することなく、ヒヤヒヤの会話だけでここまで来てしまったというわけだ。イカリのゲソキングを俺が一発で倒してしまったらまた怪しまれるのは確実だろう。どうしたものか。
太陽の光がきらめく海に突き出たチャプチャプ岬は、植物が生えて緑が美しく、先端にある灯台に続く一本の道があるだけった。
どこにイカリのゲソキングがいるのか分からなかったのでとりあえず灯台に向かって進んでいると、海から大きな水飛沫があがり、波が岬に押し寄せた。
「ちょっと! あんなのどうやって倒すの!?」
岬にたつ灯台と同じくらいはあるのだろうか。大王イカも真っ青なとてつもない大きなイカがこちらに近づいてきている。あまりの迫力と質量、これ本当に倒せるの?
「これ本当に初心者クエスト?」
どうやらつばめもおなじことを考えていたらしい。
「遠距離攻撃じゃないと難しいかもな」
「私は剣士だから遠くからじゃ攻撃できない。ハルの職業は?」
とてもじゃないけどここでエッグハンターですとは言えない。
「俺も剣士だから攻撃手段がない」
「どうすんの!」
それは俺も聞きたいのですが。しかもモータム高級野菜ジュースは空き瓶のままだ。一発でも攻撃を食らったらどうなるか分かってすらいない。
「どうしようか……。ん?」
その時、俺は灯台が光っていることに気づいた。これは灯台の頂上から発せられる光ではない。きっとエッグハンターの効果による光だ。
「ちょっと待ってて!」
「え!? 逃げる気!?」
「そうじゃない! 灯台に行ってくる!」
「こんな時にわけわかんない!」
俺は灯台に向かって猛ダッシュで向かった。その間もイカリのゲソキングは、どんどん岬に近づいてきていた。
「きゃー! 助けて!」
灯台の入り口に到達したとき、遠くでつばめがイカリのゲソキングの触手に囚われて宙に浮いているのがみえた。
急いで何があるのか探さなければ。とはいえ灯台に入っても頂上に続く螺旋階段があるだけで他にそれらしきものは何もない。とりあえず登ろう。
階段を猛ダッシュで駆け上がる。灯台の頂上にはベランダのような箇所があり、そこへ出るとつばめは相変わらず触手に捕まったままだった。
また何もない。そう思って四方八方を見回すと丸い屋根のてっぺんについている先の尖った棒のような装飾が光っていた。
今度こそと思い、屋根に続く梯子を登った。なんとかしがみつきながらもてっぺんの装飾に辿りつく。
考えるよりも先に装飾を握った。すると、装飾は三又の槍に姿を変え、屋根を離れて俺の手におさまった。
【通知】
海神の槍を入手しました
ーENDー
海神の槍!?
いかにも強そうな名前だけど、これでイカリのゲソキングを突けということか。でも結局それは近づけないとできない。
いや、この感じ。この槍をあいつに向かって投げろということか。




