第二章 一:初心者狩りにはご注意を①
ゲーム内チャットや掲示板は、新クエストの話題で持ちきりだった。
インフィニティワールドの真実とは、トゥルーエンドとは、エンディングがなく無限に遊べるのが売りではなかったのかなど、謎を解こうとする書き込みや批判的な書き込みなど賛否両論のようだ。
クエストウインドウを開くとメインクエストが二つ並んでいる。
まず一つ目が件の新クエストだ。
【クエスト詳細】
新メインクエスト「真の無限世界」
この世界の真実を探し、トゥルーエンドを見よ
※このクエストは特別で、一人がトゥルーエンドにたどり着いた時点で全員がクエスト完了となる
ーENDー
世界の真実とは、インフィニティワールドのどこかにいる父の生き写しであるNPCが語る真実のことだろう。そしてソーシャリオンに潜む悪者を倒せばエンドということなのだろうか。
それからもう一つのメインクエストは、きっとこのゲームを始めたばかりの人が最初にプレイするもの。
【クエスト詳細】
メインクエスト「初めの一歩」
インフィニティワールドを楽しむための第一歩として
ルーランドのクエストカウンターに向かい、Dクラスクエストをクリアせよ
クリア条件:Dクラスクエストのどれか一つをクリア
ーENDー
俺がやるべきなのはまずこっちだろう。というわけで、新メインクエストの方は素知らぬ振りでルーランドのクエストカウンターまでやって来た。
ルーランドはビル群と豊かな自然が調和した近代的な都市であり、冒険に必要な基本的なものはここで全て揃うという拠点的な場所になっているみたいだ。
クエストカウンターは大きなビルの一階にあった。クエストはアルファベットで下から順にDランク、Cランク、Bランク、Aランク、Sランクというように分けられている。
どのクエストがいいのかDランククエストのカウンターで悩んでいると、後ろから声をかけられた。
「あのー、もしかして初心者の方ですか?」
「え、そうですけど?」
「ああ、よかった。よかったら僕たちと一緒にパーティを組んでいただけないでしょうか」
そこには20代くらいの男が二人と女が一人の合計三人が立っていた。彼らは自分たちのことを「シルバーブレッド」と名乗り、チームを組んでゲームをやっているのだという。
「僕はライムといいます。こっちがソーマ@東京で、こっちの女性がゆめめです」
「あ、えっと……俺はハルっていいます」
とりあえずお互いに自己紹介を行った。
名前の付け方にも色々あるんだな。ソーマ@東京というのは、東京にいるっていうことか。確か名前は変えれないはずだから東京から引っ越したらどうするのだろうか。
「それでパーティのお誘いをしたのはですね、初心者しか受けれないクエストがあるんですよ」
ライムが言うには、最初の一回だけ受注が可能なクエスト「白い牙」でしか手に入らない報酬があってそれが欲しいということだった。パーティを組めばメンバー全員に報酬が配られるようだ。
さっそくゲームで仲間ができるかもしれない。そう思った俺はすぐにパーティの誘いを受け入れた。
「初心者すぎるんで、迷惑かけたらごめんなさい」
「大丈夫です! 僕たちがしっかりサポートしますから」
こうしてシルバーブレッドのみなさんとパーティを組み、クエスト「白い牙」を受注した。
【クエスト詳細】
Dランククエスト「白い牙」
最近、モータム農場の野菜畑が荒らされているという報告が頻繁にあがっている
農主によるとどこからともなくやってきたイノシシが畑を荒らしているらしい
モータム農場の野菜はとても美味しくルーランドのお店でも好評だ
そんな野菜の仕入れができなくなると皆が困ってしまう
イノシシの居場所を突き止め、討伐しよう
クリア条件:ブルボアの討伐
ーENDー
いきなりモンスターとの戦いが待っているというわけか。これなら無限刀を試すのにもちょうどよさそうだ。ここは気合いをいれてさっそく、さきほど装備設定しておいた無限刀を召喚しよう。
「うお! ちょ……ちょっと! ダンジョン外で武器を無闇にだすのは……!」
ライムは俺が手に持った無限刀を見て焦っていた。どうやらこのゲームにはプレイヤーキルシステムがあり、モンスターのいないところや戦闘の気配がないところで武器を出すとかなり警戒されてしまうらしい。
「すみませんでした」
俺はすぐに武器をしまった。
「それにしても今の武器、見たことありませんね……」
ゆめめが不思議そうにしていた。俺は、裏チュートリアルでの神様のような男の「決して口外はするなよ。バレれば必ず悪い奴らが寄ってくる」という言葉を思い出した。
「あー、なんかさっき街の人からもらったんですよ」
「NPCからのプレゼント? 武器を? めったに起きないイベントですよ」
「そうなんですか! いやー俺も運がいい」
LUKステータスの数値が1の俺がそう言うのもおかしな話だが、なんとか誤魔化せた……よね?
「ところで、 ブルボアというイノシシの居場所を突き止めないといけないみたいです」
「大丈夫です。僕たちはもうこのクエストについて知り尽くしてますから」
ライム主導のもと、ブルボアの潜むラスコル洞窟へ向かうことになった。ルーランドの東側に位置するモータム農場。そこからさらに東へ少しいったところにあるアルデシア山の麓にラスコル洞窟があるのだという。
途中、モータム農場の農主と会話をするともらえる報酬が二倍になるということで、農場に寄って農主との会話イベントもこなす必要があった。
「……というわけで大変なんだなあ」
「そうですか。僕たちが解決しますよ」
「それはありがたい! お礼もたくさん用意します!」
農主はとても嬉しそうだった。
まるでそこに実際の人間がいるかのようなやり取り、触ればもちろん感触もあるのだろう。最新の技術のことはよく分からないけど、こんなリアルなゲームを開発するなんて父はどれだけすごい開発者だったのだろうか。
農主との会話を終えて農場の管理棟を出ようとしたところ、部屋に置いてあった牛乳の空き瓶がいくつも詰められている箱が光っていることに気づいた。三段積みになった箱のうち一番下段にある箱が光っている。
俺が最後尾を歩いていたためシルバーブレッドの面々は全員すでに外に出ている。よし、ちょっとだけ調べてみるか。
「よいしょっと」
牛乳箱を一段、二段とおろしていく。牛乳瓶の重さが全身に伝わってくる。やっぱりこういう細かいところまで再現されているんだな。
さて、これで一番下段にあった箱の中身が見えるようになった。光っているのは箱じゃなくてこの瓶だったか。
俺が瓶を一本取り出し光が消えると、瓶は緑色になった。いや、空き瓶の色が変わったのではなく、中に緑色の液体が入っているんだ。
【お知らせ】
モータム高級野菜ジュースを手に入れた
ーENDー
高級野菜ジュースか。現実世界でも野菜ジュースはそれほど好きではないが、効果次第では飲むのも全然ありだな。
「ハルさーん? まだですかー?」
部屋の外からゆめめの声と足音が聞こえて来た。
まずい。急いで飲まなければ。
俺は野菜ジュースの効果を確認することなく、急いでジュースを飲み干した。
まずい!
なんだこの酸っぱさと苦味のパンチ力。
こんなところまで再現しなくてもいいでしょうに。
「あ、いたいた。何やってるんですか?」
ゆめめが部屋に入って来た。
「ん? その瓶なんですか?」
「あ、農主からもらったんです。おいしい牛乳があるから飲んでけって」
「え!? そんなことあるんですか!?」
「ま、まあ運が良かったんですかね」
もう一度言おう。LUKステータスの数値が1の俺がそう言うのもおかしな話だが、なんとか誤魔化せたはず。
貧乏性の俺は空き瓶をアイテムボックスに収納すると、ゆめめと一緒に管理棟を後にした。モータム高級野菜ジュースの効果すら確認できずに。
***
モータム農場を出発した後は、アルデシア山へと続くトイブルクの森に入った。ここからダンジョンということでモンスターが出現するらしい。
皆が一様に武器を構え出す。
ライムは重そうな大きな斧、ソーマ@東京は鉄でできた弓、ゆめめは木の杖。そしてこの俺は、美しい刀身が特徴的な無限刀を手に森を闊歩している。
「気をつけて! スライムが出てきました」
ソーマ@東京が叫んだ。
目の前にいる半透明の青色のゼリーみたいな塊は、プルプルと体をゆらして俺たちに行く手を阻んでいた。縦長の黒い目があるだけで口はない。
これは……。
可愛いといえば可愛いのかもしれない。
「あの……俺がやってもいいですか?」
俺はシルバーブレッドの皆より一歩前に出て、刀を両手で握った。
「どうぞ! 経験値はみんなに入りますから大丈夫です」
「よし……!」
ドラマや映画で見た侍のように、見様見真似で無限刀をスライムに向けて振ってみた。無限刀がスライムにあたると、柔らかいなにかを斬った感触がした。
俺に斬られたスライムは白く発光すると、そのまま消滅した。切れ味は悪くない。むしろ爽快感を覚えそうなほど滑らかだ。
「え……。スライムとはいえ、初心者なのに一発で倒すなんて……」
その場にいる全員が呆気に取られていた。
これはやりすぎか?
まあ気にせずいこう。
そしてその後も、スライムやブーキーバッドなど出現するモンスターを無限刀で狩っては進み、順調にラスコル洞窟の入り口にたどり着くことができた。
「絶対おかしいって。私たち何もしてないじゃん」
「あの武器は何なんだ?」
後ろからひそひそと声が聞こえてくる。
「すみません」
「はいっ……!」
ライムが慌てて返事をした。
「ブルボアも俺が最初に戦ってみてもいいですか?」
「もちろんです」
いよいよ記念すべき最初のクエストのボス戦だ。より一層、無限刀の柄を握る手に力が入る。俺たちはいよいよ、先が見えないほど真っ暗なラスコル洞窟に足を踏み入れた。




