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第一章 三:隠し職業

 しがみついている柱は雲を超え、インフィニティワールドのはるか上空まで来ていた。もう下を見ても地上は見えない。そんなところに、裏チュートリアル場の天空闘技場はあった。


 柱はゆっくりと天空闘技場の、円形に造られたステージの上に着地した。そのまわりには何段にもなった観客席が円状に、ぐるりとステージを囲んで見下ろすかたちで設置されている。


 ステージには俺以外いなければ、当然観客席にも誰もいない。恐るおそる柱からステージに降り立ってみた。するとすぐに、闘技場のステージの入り口から誰かが歩いて来るのが分かった。


 それは、身長は俺よりもかなり大きく二メートルはあるだろうか、白く長い髪と髭を生やし、白い布のような服をまとった老人だった。


「あなたが神か……」

「ふぉふぉ。まあそのような存在でもある。我はおぬしの父トーマから預かったメッセージを届けにきた」

「なんだと……!? 一体どういうことだ?」

「これは裏チュートリアル。このゲームの生みの親、トーマが自分の子のために用意した特別なチュートリアルじゃ」


 神のような男の言葉を聞き、母の言っていたことが本当だったのだとようやく確信することができた。


「おぬし、ここまでどうやって来た?」

「それは……その柱にメッセージが浮かんできて、その通りにしたらここに飛ばされて……」

「ふむ、そのメッセージとやらはどうやって確認した?」

「えっと……それは柱に書いてあった古代文字みたいなのが光って……」

「そう! それこそが隠し職業(クラス)エッグハンターの効果じゃ!」


 神のような男は人差し指をビシッと突き出し、ドヤっていた。お互い沈黙の気まずい間が少し流れる。


「それでその……隠し職業(クラス)とは……?」

「うむ。開発者がゲームに隠したメッセージなどの要素のことをイースターエッグというのじゃが、エッグハンターはそれを簡単に見つけ出すことができる」

「ということは、その柱の文字も?」

「そうじゃ。普通だったら雰囲気を出すための装飾の一部としか見られないが、エッグハンターなら簡単に仕掛けを見破ることができるのじゃ」

「え……じゃあこの職業(クラス)って実はすごかったりして……」

「当然。おぬしにだけ用意された特別な職業。だから隠し職業(クラス)なのじゃ!」


 神のような男は再び人差し指をビシッと突き出し、ドヤっていた。今度はすぐに返事をせざるを得なかった。


「すごい……!」

「そして何を隠そう、インフィニティワールドにはイースターエッグが散りばめられておる。そこには普通では手に入らないようなアイテムであったり何かが隠されているのじゃが……。その存在に気付いている者はまだ一人としておらん」


 それを聞き、とんでもない職業を手に入れてしまったのではないかと胸の鼓動が高まってきた。


「決して口外はするなよ。バレれば必ず悪い奴らが寄ってくる」


 浮かれそうになっていたところを神様のような男に釘を刺されてしまったな。そう簡単にはいかなさそうだ。気を引き締めていこう。


「悪い奴らっていうのは?」

「これはトーマの死にも関わるのじゃが……。インフィニティワールドは、ソーシャリオンに潜む悪者に乗っ取られたのじゃ」

「乗っ取られた!?」

「うむ。社長候補であったトーマの主導で開発が行われたインフィニティワールド。完成と同時に彼は殺されたのじゃ」

「……!」


 突然の衝撃告白に驚きすぎ、声すら出なかった。


 神のような男はその後も話を続けた。自分が殺されるかもしれないといことを察した父は誰も気づくことすらないであろうイースターエッグをゲームの中に散りばめ、俺のために用意した隠し職業(クラス)に就けるダイブリングを妻の世那に託したのだと。


「最後にトーマからの言葉を伝えよう」


 固唾を飲んで、神のような男の次の発言を待った。


「インフィニティワールドの中に自分の生き写しであるNPCを隠した。彼を探して事件の真実を聞き、会社を取り戻してほしい」


 俺は力が抜け、その場にへたり込んでしまった。


「だったらなんで……」


 そしてそうやって言おうとした時、神のような男が言葉を被せてきた。


「だったらなんで最初から真実を教えてくれないんだ、か? それじゃあつまらないだろ。お前には飛びきりのプレゼントを渡した。一流ゲームの開発者の息子なら探してみろ、インフィニティワールドに隠された真実を」


 俺の言葉は父に見透かされていた。それと同時に体が震え始めた。だがこれは、恐怖や不安から来る震えではなく、武者震いだと思う。


 父の言葉を聞いた俺の心は、かつてないほど奮い立っている。全身に力の戻り立ち上がると、高らかに宣言をしてやった。


「俺がやってやるよ。俺は自分を変える! そして必ずこのゲームの中にいる父さんを探し出し、悪と戦って会社を取り戻す!」


 その言葉を聞いた神のような男は笑みを浮かべると、一本の日本刀を差し出して来た。


「これは、無限刀(むげんとう)。これをおぬしにやろう」


 無限刀を神のような男から受け取り、その美しい刀身をほれぼれと眺めた。黒い模様の混じった銀色が美しく、刃は妖艶な輝きを放っている。


 無限刀に見惚れていると目の前にウインドウが現れ、「無限刀を手に入れた」とテキストが表示されていた。そして、俺の手から無限刀が消失した。


「消えた……?」

「アイテムを手に入れればアイテムボックスに格納されるのじゃが、その様子だと初めてか?」

「はい」

「まったく……。あのうさぎめ、真面目にやらずに……。とまあそんなことはどうでもよく、アイテムボックスから選べば使用できる。アイテムボックスも念じれば開けるし、装備設定しておけば、ボックスを開かずとも念じるだけで召喚できるようになるぞ」


 さすが神様、案内うさぎよりも断然親切だと心の中で感謝だ。


「さて、これで裏チュートリアルは終了じゃ」


 神のような男は少しだけ移動し、手を振った。すると、ステージ上に転送装置と同じ魔法陣が浮かんだ。


「ここから最初の都市ルーランドにワープすることができよう」


 俺は魔法陣の前に立った。

 魔法陣からは光が上がり、光の粒子が舞い始めた。


「よいか? あと一歩踏み出せば全てが始まるのじゃ」

「ああ、行ってやるよ」


 そして、魔法陣の上に乗った。光の粒子が身体に向かって集まり始め、粒子は線となり、光の線が全身を囲った。それからすぐに、俺の視界は強い光で真っ白になった。


***


 光に包まれふわりと一瞬だけ宙に浮いたような感覚を覚えたあと視界は一瞬にして開け、すぐに自分が大きな噴水の前にいることに気づいた。


 目の前には石畳の大きな広場が広がっており、話をしている人、ベンチに座っている人、演説をしている人など様々な人で溢れかえっていた。


 これからどこに行けばいいのかすら分からない。チュートリアルでちゃんと聞くべきだったと後悔していると通知ウインドウが出現した。


「タッチすればいいのか……」


 そう一人でぼやきながらウインドウにタッチすると詳細が開かれた。



【通知】

新メインクエスト「真の無限世界」開始のお知らせ

この世界の真実を探し、トゥルーエンドを見よ

※このクエストは特別で、一人がトゥルーエンドにたどり着いた時点で全員がクエスト完了となる

ーENDー



 新しいメインクエスト? そのわりには簡素すぎやしないか?


 あまりの内容の短さにわけがわからないでいると、近くの人が叫び始めた。それから広場内の騒ぎは、静まるどころかどんどんと大きくなっていった。


「なんだこれは!」

「どういうこと!?」

「えええ!?」


 自分を変えると決めたんだ。

 うじうじせず、思い切って騒いでいる人のうちの一人に話しかけてみた。


「あの、すみません。なんで皆んなこんなにも騒いでいるんですか」

「知らないの!? アップデートもないのに、突然メインクエストが追加されるなんてこと今までなかっただろ!? しかもこんなに衝撃的な内容だよ!」

「えっと……。どんな内容ですか?」

「だから、トゥルーエンドって! エンドだよ!? このクエスト終わったら、このゲームもサ終しちゃうってことなの!?」


 その騒ぎは、今いる広場だけでなくインフィニティワールド全体で起こっていたという。新クエストがゲーム内どころか、現実世界まで騒がせるのはまた少し後の話。


 こうして俺の初ログインをきっかけに、インフィニティワールドと現実世界をまたにかけた大熱狂時代が幕をあけたのであった。

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