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第一章 二:裏チュートリアルへ

 今は亡き父がインフィニティワールドの生みの親。いや、ゲームには開発会社があって、それは「ソーシャリオン」という超有名企業だ。そこに父がいたのならこんな貧乏な生活は送っていないはずだ。


 母の言葉は、自分を驚かすための嘘だと思う他ない。いま目の前に置かれている指輪はただの安物の指輪ということだろう。いつにもない誕生日サプライズに驚いたが、すぐに落ち着きを取り戻すことができた。


「ありがとう。サプライズまでしてくれて嬉しいよ」

「晴斗(はると)、これは嘘でもサプライズでもないの。お父さんからの最後のプレゼントよ」

「またまた〜。俺はもう引っかからないって」

「ちゃんと話を聞いて!」


 母は声を張り上げた。

 その顔は一向に真剣で、とても冗談を言っている雰囲気ではなかった。


「……!?」

「これは晴斗の人生を大きく変えるかもしれない。このリングでインフィニティワールドにログインすれば全てを知ることになると思う」


 テーブルに置かれたダイブリングを手に取って、その姿をまじまじと眺めた。


「これがダイブリング……」

「それを指にはめればゲームの世界に意識がつながるわ。ゲームをする時は椅子に座ってとか、ベッドで横になってとか、安全な場所でやってね」


 ダイブリングを再び机の上に置いた。


「ダイブリングをくれたのは母さんだから当然だろうけど、父さんのこと知っていたんだよね?」

「もちろん。それに、お父さんも私も昔はソーシャリオンにいたのよ」

「……!? じゃあなんで、俺たちはいまこんなに冴えない生活を送っているの?」

「それは……私からは話せない。これはお父さんとの約束で、そのリングをはめて晴斗が自分で判断しろって」


 母の様子からして、決して良いことがあったわけではないということを察した。そして、再びダイブリングを手に取って椅子から立ち上がった。


「そんなこと言われると怖いじゃん。少し考えさせて」


 そう言って、リビングを出て自室へ向かった。そしてそのままベッドに横になり、空中にかざしたダイブリングを見つめた。


 これをつければ人生が変わるかもしれない。

 目を瞑りこれまでの人生を振り返る。


「うーん……。俺の人生、変わったらまずいことでもあるか?」


 そうやって独り言を呟いた。よく考えてみれば冴えない人生に未練などない。そこにどんな真実が待っていようとも、今の人生を変えられるのであれば飛び込んでみよう。


 そんな軽い気持ちでダイブリングを人差し指にはめてみた。


 すると、全身がぬるま湯につかったように暖かくなった。「ダイブコンプリート」という女性の機械音声が聞こえたかと思うと、眠りにつくように意識を失ってしまった。


***


 インフィニティワールドにダイブをして最初に見た画面は、「ようこそ無限の世界、インフィニティワールド」へというメッセージだけが表示された真っ暗な画面だった。


 それからすぐに画面は晴れ、青空と草原、それから少し離れたところに朽ち果てた遺跡が現れた。そして地に足がついている感覚を覚え既に動けることに気づいたので、自分の姿を確認した。


 無地の白色の長袖のシャツに、黒いシンプルなズボン。おおよそのゲームでいうところの初期アバターの格好というやつか。


 このまま遺跡に進めばいいのかと足を一歩踏み出したところで、どこからともなく可愛らしいうさぎが飛び跳ねて目の前までやってきた。


「こんにちは。僕は案内うさぎ」


 うさぎからは、女の子の高くて愛嬌のある声がした。


「当然フルボイスってわけか」

「そうだよ。このゲームはNPCと声ありで意思疎通ができるんだ。僕は案内うさぎ。ここは本編を始める前のチュートリアル場だよ」


 チュートリアルという言葉を聞いて不安だった。もしかしたら長いチュートリアルがはじまるのではないかと、面倒な気持ちになってしまう。


「君はいま、チュートリアルが長そうだな〜。面倒だな〜と思ってるでしょ」

「そ……そんなことはない!」

「ふーん。ま、いいよ。基本的には現実と同じだから」

「そうなのか?」

「うん! だから面倒な説明は飛ばして、さっそくスキルの割り当てにって……あ! 君のアカウントには特典コードがついてるね」

「特典コード?」


 案内うさぎ曰く、特典コードを使用することで最初からレアアイテムを手に入れたり通常よりも有利にゲームを始めることができるようになるらしい。


 使わなければもったいない。特典コードを使用しなやつなんてどこにいるっていうんだ。すぐに特典コードの利用を決めた。


「わあ! この特典コードはすごいね! エッグハンターという職業(クラス)になれるコードだよ!」

「エッグハンター?」

「そう! 私にもどんな職業(クラス)かは分からない」

「案内うさぎとして大丈夫なのかそれ……」

「むむう。それで、この職業(クラス)になるの!? ならないの!? ここで選ばないと、選択権は消失するよ!」

「わ……悪かったよ。とりあえずなっておくから」

「よろしい〜!」


 その瞬間、俺の体が光った。


「じゃあ少しだけ欠かせない説明をするね。まずはステータスウインドウを開いて」

「……。どうやって?」

「ステータス画面を開きたいって念じれば大丈夫。ちなみにステータス画面は人から見えないし、他の人のも見れないからね」


 案内うさぎの言う通り、ステータス画面を開きたいと頭で念じた。すると、目の前に四角い枠が出現し、基本的な情報が書かれていた。



【ステータス】

名前:Unkown

LV:1

HP:20

MP:10


ATK(攻撃力):5

DEF(防御力):4

VIT(耐久力):8

INT(知力):5

DEX(器用さ):7

AGI(敏捷):4

LUK(運):1


職業:エッグハンター(1)

エッグハンターは、たまごが大好き

ーENDー



 いやいや、なんだよこの職業(クラス)! 料理人かフードファイターか!?


「うーん……。やっぱり私にも分からないや。あ、ちなみに私には人のステータス画面が見えてるよ。で、ステータスも全然高くないしハズレ職業かもね」

「はあ!? ちょっと待ってよ!」

「転職はレベルが30になるまで不可能だからねー」

「えええ! 俺は、はめられたのか……?」

「あ、でも! もう一つ、ゲームのプレイ料金が永久無料というすごい特典がついてるよ!」

「おお! それは嬉しい特典だ」


 職業(クラス)はさておき、プレイ料金の永久無料こそ父親が自分に残してくれたとっておきの特典に違いない。


「あと、エッグハンターの後ろについている(1)っていうのは?」

「それはその職業(クラス)に何人が就いているのかを表す数字なんだけど、エッグハンターは君一人みたいだね」

「ん? それは超レアってことでは?」

「ハズレすぎて誰も選んでない可能性も……!」


 俺は肩を落とした。物事はそんなにうまくいかない。これまでの人生で何度も味わってきたことだということを思い出し、ゲームの中でもそんな世界が待ち受けているのなら今すぐにでも逃げ出したい気持ちになった。


「チュートリアルはもういいかな? あっちの遺跡にいけばゲームの本編が始まって、最初の都市ルーランドにワープする転送装置があるよ!」

「ちょっと待った。この名前のUnkownっていうのは?」

「あ! それはゲーム内の名前を決められるんだ。特に設定せずにチュートリアルを終えると本名がそのまま名前になるから、個人情報保護やプライバシーの観点から設定しておくことをおすすめするよ」

「危ねえ……。どうやって設定すればいい?」

「ステータスウインドウの名前のところをタッチして。名前を設定できるのは最初の一回だけだから慎重にね」


 ステータスウインドウの名前の欄をタッチした。すると、文字の入力ウインドウが出てきた。名前の変更ができないと聞いて少し悩んだが、「ハル」という自分の晴斗という本名からとったシンプルな名前を設定した。


「じゃああとは良いよね? 私はこれにて退散します〜」

「あ、ちょっと!」


 静止も虚しく、案内うさぎはそう言ってどこかに飛び跳ねていってしまった。


「まったく……」


 少し不安だが、ゲームの本編を開始しよう。

 そう思って遺跡に向かって歩き始めた。


 そして遺跡に着くと、そこには魔法陣の描かれた地面があった。四隅に白い石で造られた朽ちた石の柱が建っているだけで、他には何もない。


 魔法陣の前に立つと、魔法陣から光の粒子が湧き上がってきた。


 きっとここに立てばワープができるのだと直感で理解できたが、四隅に立っている柱のうち一本に書かれた何かが光っているのを発見した。


 気になったので転送装置に乗る前に一応見ておこう。そう思い柱の前に移動してみたが、柱にはどこかの古代文字なのか全く読むことのできない文字が書かれているだけだった。


「なんだ……。ただの装飾か」


 そう呟き転送装置に戻ろうとした時、その柱の文字の手前にさらに文字が浮かんできた。


「……! 今度は読めるぞ!」


 柱の古代文字の手前には、「裏チュートリアルを受けたければこの柱に抱きついて少し待て」と浮かんでいた。


 その通りに、柱に抱きついてみた。最初は何の反応もなかったが、一分くらい経過した頃だろうか。柱は震え始め、炎を噴射しながら真上に向かって浮上し始めた。


「うわ! どうなってんのこれ!」


 驚いて思わず声を上げてしまったが、凄まじい速さで空に向かっていく柱から離れるとどうなるか分からなかったため、とりあえずしがみついておくことしかできなかった。


 柱が上昇し続ける途中、恐るおそる下を見ると白い点が草原にポツンと一つ。案内うさぎがこちらをじっと見つめているような気がした。

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