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第三章 四:運営とチート疑惑②

 俺は何とか気持ちを落ち着けて平静を装った。


「俺にですか? 特に心当たりもないのですが……」

「公表はしておりませんが、今回のメンテナンスはメインクエストの調査です。あれは私たちが追加したものではありません」


 やっぱりそうだったか。


「それで調査を行ったところ、ちょうどハルさんがゲームを始めた日に突然現れていました。それだけなら偶然もあり得ると思いましたが、ハルさんがサタンデロ城の鍵を手に入れてから更新が入りましたよね?」


 バレている。

 運営なら各個人のアイテムボックスの中身も把握できるということですか。


「それに……。無限刀(むげんとう)、海神の槍(ポセイドンのやり)、モータム高級野菜ジュース、これらも私たちが把握していなかったアイテムです」

「そうなんですか。どれも偶然手に入れたものばかりですが」

「例えば無限刀はどうやって手に入れたのですか?」

「ルーランドのNPCからもらいました」


 氷砂糖(こおりざとう)さんは少し間を置いて何かを考えていた。


「ルーランドのNPCが何かを渡すなんていう挙動は仕込んでいませんよ」


 思わず、「この男やけに詳しいな」と思ってしまったが、そりゃ運営だもの。詳しくて当然だよね。


「すみません。俺にもよく分かっていないんです。チートは絶対に使っていません」

「ふぅ……。確かに、ハルさんにチートを使用した形跡は全くありませんでした」

「当然ですよ」

「でも私たち運営が把握すらしていないアイテムを持っている。ですからチート疑惑を晴らすことはできませんでした」


 チート疑惑を晴らすためにエッグハンターのことを話してしまうというのは絶対にできない。運営の中に父を殺した者が潜んでいる以上、ここにだけは絶対にバレてはいけない。それならチート疑惑をかけられている方がマシだろう。


「詳しくは言えませんが、バグや、私たちも気付いていない仕様というのをゼロにすることはできません」


 どういう意味で言っているのか。もしや父の円崎冬真が何かを仕組んでいたことを疑っているということを暗に意味しているのだろうか。


「それで、僕はどうなるんですか?」

「今のところは特に。とりあえず行く末を見守るしかないというのが今の見解です」


 さすがに慎重だな。かつてチーターが無作為にプレイヤーにチートを付与し、知らずしらずのうちにチートを付与された人までBANしてしまうという誤BAN祭りがあったということは俺も知っている。


 何とか復旧をすることはできたらしいが、ソーシャリオンにとっても補填でかなりの痛手を被ったというのがその事件だ。だからチートの痕跡がないプレイヤーを、疑わしきは罰せよでBANすることなんていうのはもっての外だろう。


「ハルさんの職業(クラス)は剣士、ユニークな効果を持つ隠し職業(クラス)でもありませんからね……」


 さっきからエッグハンターの話が出てこないと思っていたら、どうやら運営には俺の職業(クラス)が剣士だと見えているらしい。なぜかは分からないが助かった。


 それにいま、確かに「隠し職業(クラス)」と言ったよな。インフィニティワールドにはエッグハンターの他にも隠し職業(クラス)がいるということか?


「隠し職業(クラス)って……?」

「おっと、おしゃべりが過ぎましたね。私からはこれ以上何も申し上げられません」

「そうですか……」

「今日は失礼しました。不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。ハルさんもチートにはくれぐれもお気をつけを」


 氷砂糖さんはそう言うとログアウトしていった。俺は考えをまとめるために、その場からしばらく動くことができなかった。


 今のところ運営に気づかれているのは、メインクエストを動かしていることと、隠しアイテムを所有していることだけ。そしてなぜか、職業(クラス)が剣士だと認識されている。運営の知らない要素を次々と明らかにしていく俺の存在はさぞ不気味だろうが、チートの形跡は一切ない。


 それもそのはず、エッグハンターはゲームの開発者自身がつくった公式の隠し職業(クラス)だからだ。メインクエスト「真の無限世界」も、隠しアイテムも、いまのお前たちが知らないだけでれっきとしたこのゲームの要素なんだよ。


「ハルじゃないか。メンテナンス明けからさっそくプレイというわけか」


 俺が考え事をしていると、いつのまにかどこからかやって来たハヤテが話しかけてきた。


 ハヤテと出会ってからもう二週間くらいか。彼は大学二年生で俺よりも年上だが、いまやタメ口で話すくらいには打ち解けていた。


「そういうハヤテも」

「お互い夏休みを謳歌しているな。ところで、いま話していたのはサトウさんではないか?」

「サトウさん?」


 プレイヤーネーム氷砂糖、通称サトウさん。運営のアカウントとして広く認知がされており、たいていは問題が起きた時に現れるという。


「いま俺は運営からチート疑惑をかけられているみたいだ」

「なるほど。とうとう運営から注目をされるようになったと」

「ま、チートなんて使ってないからどう思われてもいいんだけど。ところでハヤテはなぜルーランドに?」

「ん? ああ、俺もNPCからプレゼントを期待していてな」


 それってまさか、俺が無限刀をルーランドのNPCからもらったというガセネタを信じての行動ということなのか。


「誰だってあの強さを体験すれば無限刀には憧れるさ。だが、何日間か歩き回ってみたがやっぱり何も起こらない……」


 ああ、心が痛い。

 それは俺の嘘だから絶対にもらえるわけがないんだよ。


「ところで、これからルーン街道に行こうと思ってるんだけど一緒にくる?」

「俺はもうしばらくルーランドをうろついてみるとするよ」


 頼むからはやく諦めてくれ!

 これ以上ハヤテに無駄な苦労をかけるのは申し訳なさすぎる。


 俺は、ルーランドのNPC混みの中に消えていくハヤテの哀愁漂う背中を見送ると、ルーン街道へ向かった。そしてさっそくショップに入店した。


 ショップには消耗アイテムが所狭しと陳列されており、モンスターの剥製や絵画が飾られた店内はまるでファンタジー世界の雑貨屋のようだ。思わず買い物をしたくなってしまうが、無駄遣いはダメだ。今日はアイテムを売却にきたんだ。


 だが、まねきの銅鈴は思ったよりも高値はつかなかった。一つにつき5,000G(ゴールド)、リアルマネーに換算すれば50円だ。10個あるから合計で500円になる。


 俺はとりあえず売却を行い、所持Gは17万4,000Gになった。リアルマネーに換算すれば1,740円だ。うーん。時間をかけたわりにはあまり増えていない。ちなみに無限刀やら隠しアイテムの売却額は0Gだった。絶対に間違えないように。


 こうなったらアイテムの売却より、やはりクエストを受けた方が良さそうだ。というわけで俺はショップを出ることにした。退店の際に聞こえた「まいどありー」というNPCの声に苛立ちを覚えても仕方がない。


 さあ、ルーランドに出戻りだ。

 円崎家の快適クーラーライフは俺が支えるんだ。



【ステータス】

名前:ハル

LV:40

HP:256

MP:84


ATK(攻撃力):59+999

DEF(防御力):55+24

VIT(耐久力):58

INT(知力):55

DEX(器用さ):57

AGI(敏捷):60+5

LUK(運):1


職業:エッグハンター(1)

エッグハンターは、たまごが大好き


アイテム効果

無限の闘志:ATKダウン効果を無効化する

ーENDー



 現在のステータスはこんな感じだ。ようやくレベル40に達することができた。ここまでくると、ルーランドではAランククエストまで受注できるようになる。


 意気揚々とAランククエスト一覧を覗いた俺だったが、どのクエストを見ても報酬のゴールドは良くて2万G。初心者応援クエストがいかに破格だったかが分かる。


 他に良い方法がなさそうか掲示板で情報を調べてみるか。俺はクエストカウンターから一旦外に出て、道端のベンチに腰掛けた。すると、ハヤテが俺の前を通った。


「ハヤテ!」

「お、ルーン街道から戻ってきたのか?」


 俺はハヤテに一連の流れを話し、良い金策がないか質問をしてみた。


「このゲームに金策というものは存在しないと思った方がいい」

「そりゃそうだよな。RMT(リアルマネートレード)が行われるくらいだし……」


 うん、これならゴールドの換金じゃなく、アイテムのRMT(リアルマネートレード)を狙ってみた方が良さそうだ。というわけで再びルーン街道に戻り、露店でRMTに出されているアイテムを確認することにした。今度はハヤテも同行するそうだ。


「いやあ、どれもこれもどこで手に入るんだ?」


 確かに100万Gを超えるアイテムもゴロゴロと売られている。しかし、今の俺では到底入手困難であろうものしか販売がされていなかった。


「そんなに今すぐゴールドが必要なのか?」


 ハヤテがそう問いかけてきた。


「快適なクーラーライフのためには今すぐ必要なんだ」

「クーラーライフ? どういうことかあまり分からなけどゴールドといえば、ルガン湖のゴールドバードを知っているか?」


 もちろんゴールドバードなどというのは聞いたことがなく、それは何かと聞き返した俺に対し、ハヤテは不適な笑みを浮かべていた。

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