第三章 五:金の鳥と海の神①
ハヤテ曰く、ルガン湖のゴールドバードとはルガン湖の湖の底に沈んでいる金の鳥の像のことらしい。底にたどりつくには水中呼吸が必要だが、まだ誰一人としてその距離を泳ぐことのできるプレイヤーは現れていないという。
ゆえに誰もそれがアイテムなのか何なのか確認をすることはできでいなのだが、きっとすごいアイテムに違いないという説が広まっている。
俺なら何とかなるのではないかというハヤテの目論見は正しく、確かに海神の槍の効果「海神の加護」による無制限の水中呼吸なら行けるはず。
何はともかくルガン湖に向かおうということで、さっそくハヤテとパーティを組んだ。パーティのメンバー同士なら仲間と一緒にワープができるというのが便利だ。
俺たちがルガン湖に到着すると同時に、つばめと凛音からフレンドトラベルの申請が届いた。こうして二人も合流すると、パーティメンバーは四人となった。
「今日もよろしくねー」
「よろしく」
と、いつもの挨拶を交わす俺たちの横に広がっているのは大きな湖と湖畔の森だった。空には鳥が飛び交い、爽やかな風が吹いている。実にのどかでいい風景だ。
「いやー、気持ちいいところだね。ここでキャンプとかバーベーキューやりたい」
つばめが芝生の上に寝転び、空を見上げながらそう呟いた。
「のんきだな。これから謎を解こうというのに」
「えー、でも行けるのはハルだけでしょ?」
「それはそうだが……」
「じゃあ私はここでこうやってのんびり待ってるよ」
つばめは気持ちよさそうに目を閉じて微笑んでいた。
完全にピクニック気分だ。
「私もここで待ってる」
凛音はそう言って、芝生で寝転ぶつばめの隣に座った。
最初出会った時は警戒心マックスだった凛音も、今ではうまいことつばめと馴染んでいて何よりだ。
「見えっちゃった」
つばめは、今度は凛音に対して悪どい笑みを浮かべていた。
「何が見えたの……!?」
「にしし、今日は白い……!」
凛音はものすごい勢いで、つばめの口を塞いだ。
「言わないで! いつもいつも隙あらば」
きっとパンツの色だ。気にならないと言ったら男としては嘘になるが、とにかく今はクーラーライフだ。快適なクーラーライフのために心頭滅却を……。
「ごほん、そろそろ行くか?」
ハヤテが咳払いをして話題を変えた。
お前も絶対気になっているだろう?
「ああ、そろそろ行ってくる」
「本当に大丈夫なんだろうな?」
「ああ、この槍を持てばな」
俺は海神の槍を召喚した。そして、「じゃあ行ってくる」とだけ言いそのままルガン湖に飛び込んだ。
湖はとても深く、足など到底つくはずもない。このまま底まで泳ぐのも一苦労だ。
通常は水中呼吸ゲージの限界がくるとそのまま息苦しくなり、HPが急速に減りゼロになったらそのままデス判定、強制ログアウトになる。
俺はいま、海神の槍の効果で水中呼吸に限界がない状態となっている。水の中にいるのに、地上にいる時と同じ感覚で呼吸ができるのが不思議な感覚だ。
「あれだな」
湖の底で輝く金の鳥の像を見つけた。
あれだけ輝いていれば少し潜っただけでも丸わかりだ。
俺は金の鳥の像目掛けて泳ぎ始めた。モンスターと戦闘になるのかと思っていたが、モンスターどころか魚さえ一匹も泳いでいない。深い青色の中で光り輝く金の鳥だけがいると思うと、誰が何のために置いたのか不気味でもあった。
順調に泳ぎ続け、とうとう湖の底までやって来た。金の鳥の像は小さな鳥籠に入れられて、人間の背丈より少し低い台座に置かれていた。その周りには空気だろうか、丸いドーム状の層が形成されている。
「ここに入ればいいんだよな?」
俺は不安を解消するように一人呟きながら、層の中に入った。それはやはり空気の層で、地上と同じように地に足がつき重力を感じた。
「失礼します」
誰に向けて言ったのか、そう言ってまずは小さな鳥籠を手に取った。鳥籠には扉が設置されておらず、どうやって像を取り出せば良いのか分からなかった。
【通知】
海神の亡き黄金鳥の像を入手しました
ーENDー
お、通知が来たぞ。やはりアイテムだったか。こうして無事に海神の亡き黄金鳥の像はアイテムボックスに格納された。
というか、「海神の」ってどういうことだ?
そう思ってさっそくアイテム詳細を確認しようとした時、目の前の水中に全貌が確認できないほど大きな海竜がいるのが見えた。
俺の顔よりも遥かに大きく鋭い目。そして確実に目が合っている。あー、やばい。俺はこのままこの海竜に食べられてしまうのか。
「やばいやばいやばい……!」
そんな冷静に状況分析をしている場合ではない。
はやくここから逃げないと!
といってもどうする?
こんなの泳いで逃げたとしても絶対に間に合わない。
俺はフレンドトラベルなら一瞬で逃げれるのではと思い、ハヤテにフレンドトラベルを申請しようとした。しかし、「戦闘中は使用できません」という表示が出て無理だった。
ですよねー。終わったな。みんな悪い。湖のお宝を取りに行ったまま戻ってこなかった哀れなミイラ取りだと思って、せめて笑ってやってくれ。
だがこの時、ある方法が思い浮かんだ。「何気に咄嗟の判断力すごくないか俺」と自画自賛をする暇もなく、俺は海神の槍を上に構えて手を後ろに引いた。
そして、そのまま放り投げるのではなく、槍を手に保持したまま投げる動作を行った。すると俺の狙い通り、槍は俺を引っ提げて上に向かって湖の中を突き進み始めた。
そう、以前イカリのゲソキングを貫いた実績もある海神の槍の固有スキル「海風の咆哮」を利用したのだ。海竜に向けて撃つという手もあったが、一撃では無理そうな図体をしている。海風の咆哮with俺で水中から脱出を試みる方がいいだろう。
海神の槍と俺はものすごい速度で上昇をしている。途中下を向くと、海竜との距離は離れてはいたが、こちらに向かってやつも泳いできているのが分かった。
すまんみんな、俺と一緒に戦ってくれ。
俺は勢いよく水飛沫を上げながら水中から飛び出し、そのまま地面に着地した。我ながらかっこいい着地を決めたところだが余韻に浸っている場合じゃない。備えなくては。
「お、手に入れたのか」
芝生に座っていたハヤテがそう言って立ち上がった。
「ああ。だけどやばい奴が来る」
「やばいやつ……?」
「説明するよりも見た方がはやい」
ルガン湖から巨体が飛び出してきた。
波のような水飛沫をあげ、俺たちに降りかかる。
「きゃあ!」
「なにごと……!」
のんびりピクニック気分だったつばめと凛音も驚きすぐに立ち上がった。
水飛沫が落ち着くとそこにいたのは、やはり海竜だった。頭に生えた二本の角がいかつく、青い鱗についた水滴がギラギラと太陽の光に反射して光っている。そこらにある建物より大きいといっても過言ではないほどの巨体だ。
三人ともあまりの驚きに言葉を失い、固まっていた。
「だから言っただろ。やばい奴が来るって……!」
「いくら何でも急すぎる! レイドモンスターでもないのに、なんだこのサイズは!」
ハヤテはいち早く剣を構えていた。俺も無限刀に装備を変え、つばめと凛音も臨戦体制に入っていた。
「目的のブツは手に入れたんだけど、逃げられないかな」
俺はハヤテにそう聞いた。
「ダメだ。どう考えても逃げられる相手ではない」
戦うしかなさそうだ。
海竜は体をうねらせて徐々に岸へと寄って来ていた。
無限刀で斬りつけるにしても距離が遠すぎる。凛音をグリフォンから助けた時みたいに、また斬撃を出すことはできないのか。俺は試しに無限刀を振ってみたが、ただ虚しく空を斬るだけだった。
あの時の声も聞こえない。斬撃を放つには何か条件があるということなのだろうか。俺たちがどうすべきか迷っているうちに、海竜は巨体を後ろにしならせていた。
もしかしてこっちに向かってあの巨体を打ちつける気か!?
そんなの食らったら一撃でやられるに決まってるじゃん!
どうすんのこれ!?




