↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/17

第三章 三:運営とチート疑惑①

 窓を開ければ夏の強い日差しと一緒に、蝉の声が入ってくる。俺の求めている涼しい風なんていうのは少しも入ってこなかった。ちくしょう、夏真っ只中だというのに、できるだけクーラーをつけない生活にも限界が来そうだ。


 高校はちょうど夏休みに入ったばかりで、インフィニティワールドのメンテナンスは今日の正午に終わる予定。とりあえず受験勉強なるものをやっているが、ゲームのことと暑さが気になって自分が何をしているのか、もう意識が飛びそうだ。


 ハヤテたちとサタンデロ城に行く約束をしたのはいいものの、城が出現する日程がこのメンテナンス期間と被っており、次は8月の下旬ごろまでおあずけとなっている。


 だが、サタンデロ城が出現する霧の湿地帯は推奨レベル50以上の場所で、そこを目指してゲームをプレイするにはちょうどよい期間だとポジティブに捉えておこう。ちなみにこれは燕の受け売り。


 あー、それにしても暑い。これじゃあ熱風を扇風機でかき回してるだけじゃないか。俺は椅子から立ち上がり窓を閉めた。そしてその時、あることを思いついた。


「そうだ。クーラー代はインフィニティワールドで稼げばいいじゃないか」


 インフィニティワールドでは、ゲーム内通貨のGやアイテムのRMT(リアルマネートレード)が許可されている。確か18歳以上からできるようになるはずだから、条件も満たしている。それを利用すれば俺も億万長者に……。って、まずはこの夏を乗り切るためのクーラー代だ。


 そうと決まればさっそく調べよう。俺はいつものように、マンション一階のカフェのフリーWi-Fiを拾うためトイレに向かった。


「お兄ちゃん勉強はー?」


 既に妹の美月(みつき)がトイレの床を陣取っていた。

 これもまあ、いつもの光景だ。


「これから生活の勉強だ」


 俺はそういって便座に座った。俺が便座に座る、美月が床に座る、これが妹の提唱する最適なフォーメンションらしい。いったい何のことやら。


「生活の勉強?」

「まあちょっとな。クーラーを心置きなく使うための勉強だ」

「え、そうなの! 私も応援してるよ!」


 さて、妹の応援も貰ったところでさっそくクーラー代について調べてみますか。えっと……なるほど、1万円くらいあれば一月分になりそうだ。よし、じゃあ次はインフィニティワールドでのリアルマネーの稼ぎ方を調べよう。


 というわけで、ざっくりではあるが調べたところこんな感じだった。ソーシャリオンに認められた業者が100G(ゴールド)を1円で交換している。アイテムはどんなアイテムでもリアルマネーでの販売可能となっており、価格は販売するユーザーが決める。


 いまの俺の所持金は124,000G。リアルマネーに換算すれば1,240円か……。まだまだ足りないな。


 そもそもこのゲームは、モンスターを倒してもゴールドは手に入らない。だからいくらレベル上げに勤しんだところでゴールドは増えていないというわけだ。クエスト報酬やモンスターを倒した時に手に入る素材、クラフトしたアイテムやダンジョンで手に入れたアイテムをショップ等で売却することでゴールドが手に入る。


 レベルアップのために狩っていたブロンズまねきが時々ドロップする「まねきの銅鈴(どうすず)」というアイテムが10個ほど溜まっている。売ったらどれだけの金額になるのかはあとで試してみよう。


 それから、もし無限刀(むげんとう)や海神の槍(ポセイドンのやり)をRMTに出品したら……。ってダメだダメだ。そんな貴重なアイテムを売れるわけがない。ある意味父の遺産みたいなものじゃないか。もっと大切にしろ。


「ねえお兄ちゃん、なんでニヤけてるの?」


 知らず知らずのうちに口元が緩んでいたらしい。


「もしかして変なサイト見てるんじゃないの?」

「そんなわけないだろ!」

「えー、必死じゃん。もうやめてよ」


 いくらここでしかフリーWi-Fiが使えないからといって実の妹の前でそういうサイトを見るほど不出来な兄ではない。我が妹よ、変な想像を働かせるのは健全ではないぞ。


 インフィニティワールドのRMTについて一通り調べ終えた俺は、そそくさとトイレを後にした。とにかくあと9,000円、ゲーム内通貨にして900,000Gを稼ぐ必要がある。


***


 ダイブリングに灯っていた赤い光が消えた。


 ゲームにログインできない時はダイブリングに赤い光が灯るようになっている。これが消えたということはつまり、いよいよインフィニティワールドのメンテナンスが終わったということだ。


 俺は部屋のエアコンの電源をつけた。ゲームのプレイ中はエアコンをつけておかないと知らずしらずのうちに熱中症になるリスクが高まってしまう。もちろん、母には許可を得ている。


 エアコンをつけた後はすぐにダイブリングを装着し、ゲームにログインをした。


 ログインをした後も、いつもと変わらないロータウンの穏やかな景色が目の前に広がっていた。通知ウインドウを開いても特にお知らせはない。「更なるサービス向上を目的としたメンテナンス」と事前に告知されていただけで、何が変わったのかは分からなかった。


 それは皆も同じで、ゲーム内チャットでは「何が変わったの?」、「本当にメンテナスされたの?」という会話がすぐに飛び交っていた。やはり通常は、しばらくのあいだ通知ウインドウからメンテナンス情報へアクセスできるようになるらしい。



【クエスト詳細】

メインクエスト「真の無限世界」

世界の真実に一歩近づく者が現れた

かつて世界を支配していた魔王の復活の日は近い……?

※このクエストは特別で、一人がトゥルーエンドにたどり着いた時点で全員がクエスト完了となる

ーENDー



 一応メインクエストを確認してみたが、相変わらずそのままだ。突然出現したこのクエストのせいだと思ったのだが……。まあ今はRMT(リアルマネートレード)に励むとしますか。


 モンスターのドロップしたアイテムを売却できるショップは始まりの都市ルーランドの北に位置するルーン街道にある。ルーン街道はルーランドと空中都市スカイコートをつなぐ道で、様々なショップやRMT(リアルマネートレード)を目的としたプレイヤーによる露店で繁盛している。


 俺はさっそく、まねきの銅鈴を売却するためにルーン街道へ向かうことにした。しかし、ルーランドにワープしてから少し歩いたところで一人の男に声をかけられた。


「ちょっといいですか。君はハルさんですねよね?」

「はい……。そうですけど?」


 見たこともない男だった。インフィニティワールドで会ったこともなければ、現実世界で会ったこともない。40代後半から50代前半くらいの中年の男だ。


「私は氷砂糖(こおりざとう)という者です」

「氷砂糖……?」

「はい。ユーザーネームです」


 氷砂糖といえばあのブロック状になった砂糖のことだよな?

 どんな由来かは分からないけど、そういう名づけ方もあるんだな。


「実は私、運営の者なんです」

「え……? 運営って、あのソーシャリオンの?」

「そうです。私はソーシャリオンの者です」


 どういうことだ?

 やっぱりメンテナンス期間中に俺のアカウントが洗い出され、何かを探られたのか?


「今日はハルさんのゲームプレイに関して話があってお会いしに来ました」

「はあ……」

「率直に言いますが、我々運営はハルさんにチート疑惑を持っております」


 氷砂糖さんのその発言を聞き、俺の鼓動は早くなった。やっぱり運営ともなれば怪しいアカウントはすぐに分かってしまうのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。