第三章 二:疾風の剣士②
ハヤテにメッセージを送るとすぐに返信が届いた。
【メール】
From:ハヤテ
返信ありがとうございます。
今からでもいいということで俺もさっそく向かいたいと思います。
フレンドトラベルを使いたいのでフレンド登録よろしいでしょうか。
>フレンド申請の許可
ーENDー
さっそくハヤテをフレンド登録すると、すぐに彼は俺たちのもとへ飛んできた。そこに現れたのは、所々が鎧のようになっている装備に身を包んだ男だった。背中には黒いマントと大きな剣、腰にも普通サイズの剣を身につけている。
これが剣士ランキング一位の男か。人は見かけによらぬものとは言うが、どこからどう見ても最強の剣士っぽい。何やらただならぬオーラも纏っているのは幻覚か?
「「かっこいい……」」
思わず呟いた言葉がつばめと被る。
「俺はハヤテ。よろしく」
ハヤテは挨拶と同時に、俺に握手を求めてきた。
「よろしくお願いします! 私はつばめって言います」
「え……! あ……あの! ええ!?」
なぜか俺より先につばめが握手を交わした。どうみても俺の前に差し出されていたのだが……。しかもハヤテはハヤテですごく挙動不審になっている。
「す……すみません。俺がハルです。よろしくお願いします」
「う……。取り乱して悪かった」
改めてハヤテと握手を交わす。なぜ俺がつばめの代わりに謝らないといけないんだ。それにこの男……。さては女性慣れしていないな。まあ俺もそこまで人のことは言えないが。
「突然の連絡で申し訳ないが、ぜひハルの持っている刀をこの目で見たいと思って」
やっぱりそう来るよな。
「ちょうどアウラ草原でブロンズまねきを狩ろうと思ってたところで、それでよければ参加しますか?」
「全く問題ない。むしろパーティに入れてくれてありがとう」
その後、俺たちはハヤテもパーティに入れるとアウラ草原へ向かった。剣士ランキング一位の人に見られていると思うとなぜか緊張してしまうが、いつも通りの狩りを行おう。
ブロンズまねきは出現率が低い。通常フィールドに湧いているモンスターを倒し、その後モンスターがリポップするタイミングで時々出現する。LUKの数値が1ともなれば、それはもう出現しなさすぎて泣きたくなったものだ。一時間に一匹遭遇できればよいという非効率的な状態を打破するために思いついたのが誰かとパーテイを組むという作戦だったのだが……。
「あれ? もう湧いてるけど」
アウラ草原につくやいなやブロンズまねきが一匹、草原をうろついていた。銅の鈴がついた首輪を巻き、招き猫のように片手を上げながら二足で歩行するふさふさの毛並みの猫だ。赤い目を鋭く光らせ、獲物を待ち受けている。
「俺の装備している猫の呼び鈴が効果を発揮している」
ハヤテがそう言って腰のベルトについた鈴を見せてくれた。猫の呼び鈴をつけておくことにより、まねきシリーズとの遭遇率を上げることができるらしい。彼もここ数日、レベルアップを積極的に行っていたという。
「どこで手に入るんですか?」
「これはプラチナまねきが低確率で落としてくれる」
プラチナまねき……。そこにはどれほどの経験値が潜んでいるのだろうか。その甘美な名前の響きに思わず口が緩んでしまう。
「なにわらってるの?」
凛音がそう言って俺の顔を覗き込んできた。
「いや、何でもない! それよりブロンズまねきを倒そう」
俺は無限刀を召喚した。そしてブロンズまねきを一刀両断した。さすがに一匹倒しただけではレベルアップしなくなってきたが、あと数匹も倒せばレベルアップするだろう。
「噂通りか……。見たこともない刀に、黒い太刀筋。その刀は何なんだ?」
これは無限刀といって、裏チュートリアルで手に入れた最強の刀です。なんて言えるはずもないわけで、今回も適当に誤魔化すしかなかった。
「ルーランドのNPCからもらった……!? そんなことがあり得るのか?」
ハヤテはかなり驚いていたがごめん、それは俺の嘘で、驚き損ということになる。
「職業は剣士だろう?」
「まあそうだけど」
「そんな話は聞いたこともないが……。だがこの目で見たのは、その紛れもない強さ。もしかしてハルは本当は初心者ではないとか?」
「まだ一週間前に始めたばかりのレベル34の初心者です」
俺が初心者であることはつばめも一緒になって証明をしてくれた。ハヤテはその間も唸りながら俺を怪しんでいた。
「ここは一つ、俺と決闘をしないか?」
決闘だと!?
そんなの勝てるわけないじゃないですか。
「ちょ、ちょっと待って。さすがに剣士ランキング一位の人に勝てるわけがないですよ」
「はたしてそうかな? じゃあ手合わせでもいい。俺と同じタイミングで剣を振り、剣をぶつけ合わせてみてほしい」
それだと勝ってしまう恐れがあるんです。
こんな初心者が剣士ランキング一位の剣をいなしたなんて話が広まったらそれこそ注目の的でしょうね。
「いや、でも……」
「頼む! どうしても確かめてみたいんだ。剣士ランキング一位の座をかけて戦ってくれ」
「一位の座をかけてって、それは勝敗で決まらないんじゃ?」
「確かにそうだが……。分かった。なら俺は、手合わせに負けたらランキングを棄権する」
やばいって。このままじゃ一人のインフィニティワールド人生を壊してしまうかもしれない。俺がどうしようか悩んでいると、ハヤテはすでに背中の大剣を手に取り始めていた。
「やる気まんまんってわけね。もう仕方ない……」
俺も無限刀を両手で握った。つばめと凛音は傍で俺たちの行く末を見守っている。アウラ草原でいま、初心者と剣士ランキング一位の男の手合わせが始まった。
「じゃあいくぞ」
「はい……!」
ハヤテが剣を振りかざす。それに続いて俺も無限刀を振りかざした。そして、二人同時に剣を振るった。ハヤテの大剣と無限刀は、空中で鋭い金属音をたてながらぶつかり合った。
すごい力だった。その衝撃は風を生み、近くにいたつばめと凛音の衣服をなびかせた。だが、そのぶつかり合いは一瞬のうちに決着が着くことになる。
無限刀とぶつかり合いながらハヤテの大剣にはひびが入り、そのまま粉々に砕け散って消滅してしまった。
「なに!? 銀河の大剣がアイテムロストしただと……!?」
嘘だと言ってくれ。
アイテムロストなんて不穏すぎだろ。
「いや、ユニークアイテムはロストしないはず。どういうことだ……?」
「さ……さあ……?」
「とぼけてもむだだ。もしかして、チートではないだろうな?」
なんか雲行きが怪しくなってきてないか。先ほどとはうってかわって、俺を警戒するハヤテからただならぬ殺気が漂っている。
「それだけは絶対に違います!」
「本当か?」
ハヤテはそう言うと腰の剣を抜いた。
「俺の本領はこっちだ」
そして目の前から、一瞬のうちに姿を消してしまった。「どこにいった?」そう思う暇もなく、気づけばハヤテの剣の切先が俺の喉元に触れていた。
「……っ!」
俺は固唾をのむことしかできなかった。
今にも俺の喉を突き刺そうといわんばかりの鋭い眼光だ。
「これが……疾風の剣士……!」
凛音が呟いた。
「ふっ。やはり違うか」
ハヤテは剣を俺から離すと、そのまま鞘に収めた。
「疑ってすまなかった。本当にただの初心者のようだな」
「全然大丈夫です……! それより、銀河の大剣というのはそれはもう貴重なアイテムでしょうか?」
「まあ課金アイテムではないが、手に入れるのには苦労した」
「マジすか……。すみません、どう弁償したらいいのか」
「問題ない。手合わせをお願いしたのはこっちだからな」
なんてイケメンなんだ。
顔も服装もカッコ良ければ、性格もカッコいいなんて。
「それで……実は俺もこの刀については詳しく知らなくて」
「そうなのか? 刀の名前は?」
「無限刀って言うんですけど」
「聞いたことがないな……。ルーランドのNPCからもらえる謎の刀か」
ああ、心が痛い。ごめんなさい。
ルーランドのNPCからもらえるというのは嘘なんです。
俺は悩んだ末、銀河の大剣を壊してしまったという借りもあり、ある提案をハヤテにもちかけた。
「すみません、これを見てください」
「これは……?」
「これはサタンデロ城の鍵です」
「……!?」
「「サタンデロ城!?」」
ハヤテと一緒につばめも驚いていた。
「あ……私と二人だけの秘密が……」
すまない凛音、もう四人の秘密になってしまいそうだ。
「サタンデロ城といえば霧の湿地帯に時々あらわれる城だろう?」
「そうなんです。凛音と一緒にへーメラウスから受け取りました」
「へーメラウス!? 実在したのか……!?」
「それで、メインクエストのことは知っていますか?」
「あ……ああ、もちろん。一週間くらい前に更新されたはず」
【クエスト詳細】
メインクエスト「真の無限世界」
世界の真実に一歩近づく者が現れた
かつて世界を支配していた魔王の復活の日は近い……?
※このクエストは特別で、一人がトゥルーエンドにたどり着いた時点で全員がクエスト完了となる
ーENDー
ハヤテはウインドウを開いてクエストの内容を再確認していた。
「まさかこの、魔王の復活の日は近いというのは……!?」
「たぶんこの鍵です。これでサタンデロ城を開錠すれば、魔王の封印が解かれます」
「メインクエストを動かしたのはハルだったのか……!」
「絶対に内緒にしてくださいね。それで、提案なんですが……。サタンデロ城に行けば無限刀について何か分かるかもしれません。僕と一緒にサタンデロ城へ行きませんか?」
「……まさかこんなことになるとは。これも何かの運命だったのかもしれないな」
「ということは……!」
「ああ、ぜひ同行させて欲しい。それに、こちらからお願いしたいくらいだ」
なんて謙虚なんだ。チーター疑惑のやつにユニークアイテムを破壊されたのにも関わらず、こんなに丁寧だなんて。一生ついていきますぜ兄貴。
「ちょっと! 私の知らないところでそんな面白いことになってたなんて。私も行くからね」
つばめは有無を言わせずについてくるようだ。もちろん、凛音は最初からその気。剣士が二人に魔法使いが一人、それからエッグハンターが一人というチームが、いま形成されようとしているっていう認識でいいんだよな?
しかも剣士のうち一人は剣士ランキング一位の激強剣士。
ん、ランキングといえば……。
「そういえば、手合わせに負けたらランキングを棄権するって冗談ですよね?」
「いや、もちろん棄権するが。男に二言はない」
「いやいや! 考え直して欲しいです!」
「もういいんだ。しょせんは肩書き。ハルとメインクエストに挑戦した方が、肩書きの維持よりもはるかに面白いだろう?」
こうして、メインクエストのことは絶対に言わないことを条件に、俺たちは四人でサタンデロ城に行く約束をした。
そして、剣士ランキング一位だったはずの男が何をするわけでもなく、初心者向けの都市ルーランドを数日に渡って練り歩いているという珍妙な話がインフィニティワールドを駆け巡ったのはまた後の話。




