第三章 一:疾風の剣士①
俺がインフィニティワールドをはじめてから一週間がたった。インフィニティワールドの底はまだまだ見えないが、一週間のあいだ毎日プレイすればゲームのこともある程度は理解することができてくる。
定期的にアップデートが入り、新クエストや新マップ、新アイテムや新要素などが追加され、名前の通り終わりなく楽しめるのがインフィニティワールドの売り。RMTが許可されているためゲーム内通貨のGはもちろん、アイテムもRMTが可能だ。
さらに特徴的なのが、ゲーム内で所収者しか受けることのできない存在個数の限られた限定クエストというものがある。クエスト自体を販売してもいいし、パーティを組んでメンバーになる権利を販売してもいい。
とにかくあらゆる面で現実世界の経済との結びつきが強いゲームだ。だからこそ運営のソーシャリオンは不正、いわゆるチートに四六時中目を光らせ、チートが検出されれば即座にBANを行う。チート対策が世界最高峰のゲームだとも言われている。
そして、今までのメインクエストは同じ内容のものが各個人ごとにあてがわれ、主にインフィニティワールド内の主要NPCに関するストーリのものがほとんどだった。新マップや新要素にちなむものが多く、メインクエストはチュートリアルだと認識する人も多い。
だからこそ俺が初ログインをしてから追加されたメインクエストの、「真の無限世界」はゲームに大きな衝撃を与えた。
全員で共有、トゥルーエンドに直結するゲームの根幹に関わるメインクエスト。これこそが本当のメインクエストだったのか。インフィニティワールドがサービス終了をするかもしれない。その噂は現実世界にも瞬く間に広がり、連日トップニュースにもなるほど世間を騒がせていた。
これに対して運営は緊急で声明を発表。インフィニティワールドは終わらない。ただ、一週間後に二、三日をかけて今後の更なるサービス向上を目的としたメンテナンスに入るとのこと。
これも異例の事態だ。インフィニティワールドがサービスを開始してからおよそ16年間、メンテナンスが入ったとしても一日で終わっていたからである。俺の予測では、父が隠した要素が突然出現し、ソーシャリオンはそれを把握していなかったのではないかと思っている。
俺は久々にトイレで、外から入ってくるフリーWi-Fiの電波を拾ってインフィニティワールドに関するニュースの動画を漁っていた。
「お兄ちゃん! 久しぶりじゃん、私も入るよ!」
妹の美月がもはやドアをノックすることなくトイレに入ってきた。そして、床に座るとスマホで動画を視聴し始めた。
この光景も少し懐かしい。
「俺はもういくよ」
「え!? もう?」
「おう。だからトイレは広々使ってくれ」
「そっか……」
俺がトレイから出ても美月は床に座ったままだった。
「あれ? 床のまま?」
「うん。ここが私の場所。あ、扉は閉めなくていいよ」
せっかく便座が空いたのに床にすわったままとは不思議なやつだ。手を振ってトイレから送り出してくれる妹を横目に俺は自分の部屋に戻り、インフィニティワールドにログインした。
目の前には石造りの道と、石造りの家や木造の家が並んでいる。最近は、ログインした後にまずこの町に出るように設定をしている。ゲーム内にはいくつものワープポイントがあり、一度訪れると解放される仕組みだ。
今の所、ルーランド、チャプチャプ岬、へーメラウスの塔、それから今いるロータウンが開放されている。ロータウンはルーランドから西に位置する西洋風の町で、ビル群が特徴的な現代風のルーランドとはまた雰囲気が違う。
なぜ俺がロータウンにいるかといえば、この町に隣接するアウラ草原を現在の狩場にしているからだ。
アウラ草原にたまにあらわれるブロンズまねきという猫をモチーフにしたモンスターが、初心者にとっては経験値稼ぎに良いと言われている。ただLUKが1であるせいなのか中々、エンカウントできない。
だからここ数日はもっぱら誰かにパーティを組んでもらい、その人のおこぼれにあずかっているような状態だ。
【ステータス】
名前:ハル
LV:34
HP:220
MP:72
ATK(攻撃力):50+999
DEF(防御力):47+24
VIT(耐久力):49
INT(知力):47
DEX(器用さ):48
AGI(敏捷):51+5
LUK(運):1
職業:エッグハンター(1)
エッグハンターは、たまごが大好き
アイテム効果
無限の闘志:ATKダウン効果を無効化する
ーENDー
現在のステータスはこんな感じだ。
一週間前と比べてレベルを15も上げることができた。
レベルは最高で200まで上げることができるが、40を超えたあたりで一気に上りにくくなるらしい。だから、まずはレベル40を目指してアウラ草原で効率よく狩りを行うのが初心者にとっては定番となっている。
ブロンズまねきはDEFが高く、そこまで簡単に倒せるモンスターではないのだが無限刀のおかげで一発で仕留めることができる。パーティを組んだ人には驚かれつつも感謝されているから役に立てているとは思いたい。
「さて、今日も狩りに行きますか」
そう呟き、アウラ草原に行こうとしたところで通知が届いた。
【通知】
フレンドのつばめからフレンドトラベルの申請が届いています
ーENDー
久しぶりにつばめがログインしているようだ。フレンドトラベルとは、ダンジョン外であればフレンドのいる場所まで瞬時に移動できる仕組みのこと。もちろん今は許可しない理由もない。
「久しぶりー」
高校では毎日顔を合わせているけどな。まあいつもと変わらずというか、ゲーム内でも明るく元気なやつだ。
「え!? もうレベル34なの? ちょっと置いてかれてる気分なんだけど」
つばめのレベルは一週間前で止まったまま。俺はすでにつばめと20レベルくらい差がついていた。そして、これから狩りに行くと言ったら同行するということだったので、今日は彼女とパーティを組みおこぼれにあずかることにした。
【通知】
フレンドの凛音からフレンドトラベルの申請が届いています
ーENDー
さっそくアウラ草原に向かおうとしたところ、再び通知が届いた。もちろんつばめと凛音は会ったこともない。パーティメンバーは最高六人まで。人数が増えるほど経験値ボーナスも上がるからパーティへの参加人数が多ければ多いほど効率はいいのだが、気まずくはならないよな?
「いいね。一緒にやろう!」
と、つばめも乗り気だったのでさっそく凛音のフレンドトラベルを許可した。しかし、つばめがいることを知らなかった凛音は移動してくるなり警戒レベルがマックスになっていた。
「だ……誰……!?」
「私はハルのフレンド第一号のつばめ。あまり詳しくはだけど、リアルではクラスメイトです」
「フレンド第一号……? クラスメイト……? ということはリアルでもゲームでも一緒にいるということ?」
「まあそういう言い方もできるけど……」
「そうなんだ……。私は凛音、ハルとは運命的な出会いをした」
「運命的な出会い?」
「そう、グリフォンに襲われてたところを助けてもらって、色々と二人だけの秘密もあって……」
「二人だけの秘密?」
つばめの質問に凛音は困ってしまい、俺に助けを求めてきた。
まったくヒヤヒヤものだ。
「今日は三人でパーティを組んでレベル上げをしよう。な、凛音。いいよな?」
「まあいいけど……」
話題を逸らし、その場は何とかやりすごした。しかし、凛音もパーティに参加しアウラ草原に向かおうとしたところでまた通知が飛んできた。
【通知】
ハヤテからメールの申請が届いています
ーENDー
「ハヤテ……? 誰だ?」
「私知ってるかも」
凛音が言うには、ハヤテは剣士の職業ランキング一位の人かもしれないという。
職業ランキングは各クラスに設けられていて、それぞれ認定クエストを受けてから独自の評価基準でランクづけが行われる。職業ランキングはいつでも確認可能だ。
というわけで、まず許可の前に剣士ランキングを確認してみると確かにハヤテという名前が一位にあった。同じ名前はつけられないはず。だからこのハヤテという人物からのメールであることは間違いなさそうだが、会ったこともない俺に何の用事だろうか。
とりあえずメールだけでも見てみるか。
俺はハヤテのメールを許可した。
【メール】
From:ハヤテ
突然のメッセージ失礼します。
ハヤテと申します。
剣士としてぜひハルさんにお会いしたくてまずはメッセージを送りました。
ハルさんは最近掲示板やゲーム内で話題になっています。
アウラ草原で異様な刀を持ち、ブロンズまねきを一撃で倒す謎の初心者がいると。
そんなハルさんとぜひ一度パーティを組んでみたいと思っています。
何卒よろしくお願いします。
ーENDー
なるほど。どうやら俺はやりすぎていたらしい。まさかゲーム内でそれほど話題になっているとは思わなかった。
「何て書いてあるの?」
つばめが興味津々な様子でそう聞いてきた。
「俺に会って一度パーティを組んでみたいって」
「えー! そんなすごい人からどうして?」
「俺の刀に興味があるみたい」
「刀?」
そうか、つばめは俺が無限刀を使うところを見たことがないんだった。しかも以前、彼女に対して職業は剣士だと嘘もついている。そして、凛音にも俺は剣士だと思われているはず。
「私も剣士として興味ある!」
やはりそう来るよな。
ここにハヤテという人物まで合流したらさらにややこしいことになりそうだ。
「断ろうかなあ……」
「は!? もったいなさすぎる。剣士ランキング一位の人だよ、私も会ってみたい」
ですよねー。高校でも話しかけてくれたりするようになったつばめのことも無碍にはできないし……。そもそも剣士ランキング一位の人とパーティを組めるなんてめったにないことだろうし……。
ええい、もうなるようになれ。
俺はハヤテに、ぜひこちらもお願いしたいという旨のメールを返信した。




