第二章 六:魔法少女とへーメラウスの塔①
今日はもう少しインフィニティワールドをプレイすることにしよう。というわけで、探索へ出発する前にクエスト報酬で得たアイテムの効果を先に確認しておかないと。俺はまず、経験値玉を使用した。
【ステータス】
名前:ハル
LV:14
HP:100
MP:36
ATK(攻撃力):25+400
DEF(防御力):24+24
VIT(耐久力):26
INT(知力):24
DEX(器用さ):25+200
AGI(敏捷):25+105
LUK(運):1
職業:エッグハンター(1)
エッグハンターは、たまごが大好き
アイテム効果
海神の加護:無制限の水中呼吸
荒波の覇気:クリティカル率+50%
特技「海風の咆哮」
ーENDー
さきほどのイカリのゲソキング撃破時に2レベルアップ、今回の経験値玉使用で10レベルアップの合計12レベルアップだ。ただ、相変わらずLUKが1のままなのが気がかりなところ。
よし、ここで今回手に入ったルーシーの指輪の出番だな。ルーシーといえば幸運の女神。きっとLUKが上がるアクセサリーに違いない。
【ルーシーの指輪】
LUK(運)+12
メモ
幸運の女神が君に優しく微笑みかけている
ーENDー
よしきた。
さっそく装備だ。
【ステータス】
名前:ハル
LV:14
HP:100
MP:36
ATK(攻撃力):25+400
DEF(防御力):24+24
VIT(耐久力):26
INT(知力):24
DEX(器用さ):25+200
AGI(敏捷):25+105
LUK(運):1ー12
職業:エッグハンター(1)
エッグハンターは、たまごが大好き
アイテム効果
海神の加護:無制限の水中呼吸
荒波の覇気:クリティカル率+50%
特技「海風の咆哮」
ーENDー
は?
マイナス12?
これじゃあLUKの数値が1どころか、マイナス11になってしまう。何かの見間違いかと思い、もう一回アイテム詳細を確認してもちゃんとプラス11の表記がされていた。
これはバグなのか?
なぜステータスが下がっている!?
運営に問い合わせなんて下手にできないし、結局ルーシーの指輪は外しておくしかない。いっそのこと売ってしまった方が得かもしれないな。
ま、腑に落ちないところもあるけど時間の問題もあるし、気を取り直してワールド探索といきますか。
俺は何か隠されていそうなめぼしい場所を探すため、マップを開いた。
現在地はチャプチャプ岬。ルーランドの南に位置し、この下は海なのでもう行けるところはない。海神の槍を使えば海に潜れるかもしれないが、初心者が行くには荷が重い。ルーランドに戻るのも面倒だからできればこの岬から通じているダンジョンがないものか。
うーん……お、チャプチャプ岬から一本道を歩いてしばらく行ったところにへーメラウスの塔といういかにもな名前のダンジョンがあるな。よし、ここにしよう。
俺はチャプチャプ岬を後にして道を歩き始めた。
そして歩くこと数分、人の気配がなさすぎて不気味さを感じてきた。空は快晴、まわりは木々がところどころに生えた草原で自然が豊かないい場所なのに、プレイヤーどころかNPCすらいない。
違和感を感じつつもさらに進むと、左右を崖に囲まれた道にさしかかった。落石とか、盗賊が潜んでいるとか、そんなアンラッキーなイベントは起きないよな?
「ぎゃおおおおおおお!」
俺が崖に挟まれた道に足を踏み入れた時、どこからともなく大きな声が聞こえてきた。どこだろうと思ってキョロキョロとまわりを確認すると、前方から人影がこちらに向かってきているのが見えた。
さらに、それと同時に空には巨大な鳥が見えた。
「ぎゃおおおおおおおおお!」
これは鳥の声だ。影が徐々に近づいてくる。人間が巨大な鳥に追われているという構図か。もしや何かのイベントか?
ただこちらに向かってきているということは、俺も鳥に襲われる可能性がある。呑気に観察している場合ではない。
俺は海神の槍を構えた。そして小さな人間よりも先に、巨大な鳥の方の姿がはっきりと見え始めた。黄色いくちばしに白い上半身、黒い翼にライオンのような尻尾の巨大な鳥。そう、これはいわゆるグリフォンだ。
「ぎゃおおおおおおおおおおおお!」
女子の姿も見えてきた。どこかの学校の制服のような服を身に纏い、手には箒を持っている。ブルーの混じったダークネイビーの美しい長髪が踊っていた。さながら魔法少女だ。
イカリのゲソキングといい、超序盤から遭遇するにしてはハードすぎやしないか。とりあえずこの海神の槍を投げてみようか。
【通知】
海神の槍の特技「海風の咆哮」は現在使えません。
使用可能になるまで残11:32:10
ーENDー
そういうパターンもあるの!?
まさかの時間制限パターンもあるとは。俺は急いで装備を無限刀につけ替えた。いちかばちかだ。おそらく最強であろう攻撃力で、タイミングを合わせてぶった斬るしかない。
魔法少女とグリフォンはとうとう目前まで迫ってきている。無限刀を握る両手に力が入り、その迫力に気圧されそうだ。グリフォンは俺の存在に気づくと目線をこちらに移し、そのままこちらに向かって降下し始めた。
(振れ……)
俺の脳内に直接響くような低い男の声が聞こえてきた。
「誰!? なに!?」
(振れ)
「え!? 刀を振れってこと?」
(さよう)
グリフォンまではまだ少し距離があり、今振っても空振りになってしまう。本当に振っていいのか。ええい、もうどうにでもなれ。さようなら俺のゴールド10パーセント。
俺はグリフォン目がけて無限刀を振った。もちろん空振りではあったのだが、その太刀筋は剣豪の魂が乗り移ったかのように綺麗な弧を描いた。言っておくが自画自賛ではない。
弧は黒の形となり、そのままグリフォンめがけて飛ぶ斬撃となった。無限刀から放たれた斬撃はグリフォンに直撃し、グリフォンの体と翼に大きな傷をつけた。そして、グリフォンは叫び声を上げながら、空中ででたらめに回転しながら消滅した。
「たお……したのか?」
【通知】
グリフォンの羽根を手に入れた
グリフォンの涙を手に入れた
レベルアップ:Lv14→Lv19
ーENDー
一気に5レベルも上がった。やはりグリフォンを倒したということ。俺は目の前の光景が信じられないでいた。それに、聞こえてきた男の声は何だったのだろうか。
「かっこいい……♡」
「え?」
隣で呆気に取られているのか、棒立ちになっている魔法少女が何かを呟いたがよく聞こえなかった。それに彼女にはNPC表示がないからプレイヤーということか。
「あ……ううん。助けてくれてありがとうございます」
「大丈夫?」
「おかげさまで。それより、グリフォンを一撃で倒すなんて信じられない……」
「ま、まあタイミングが噛み合ったというか」
「あの……。ぜひ名前とフレンド登録を」
名前はともかく出会ってすぐにフレンド登録は距離感近すぎないか?
だがそれを断るほど俺は処世術に長けてはいない。
「名前はハル。フレンド登録は……。いきなりだけど大丈夫?」
「私は凛音。登録を」
こうして俺は凛音とフレンド登録を行った。彼女の声は少しハスキーで聞き心地が良く、さっきまでグリフォンに追われていたとは思えないほど落ち着いた様子だった。
「どうしてグリフォンに追われてたんだ?」
「初心者応援クエストが終わって、次はへーメラウスの塔に向かおうとしたら襲われた」
「そうなの!? 全く一緒だ。俺も初心者応援クエストが終わってそこに向かおうとしてたところ」
「……! 私たち気が合うのかも」
「え? まあそうかもな」
「嬉しい……」
凛音の声のボリュームが急に下がり、あまり聞き取れなかった。
「ごめん、なにって?」
「なんでもない」
「ところで、凛音はなんでへーメラウスの塔へ?」
「そこには初心者魔法使いにとっての神武器があると聞いたから」
どうやらへーメラウスの塔は初心者魔法使いが集う序盤に欠かせないダンジョンらしい。ただ、今はチャプチャプ岬とへーメラウスの塔をつなぐ道にグリフォンが出る時期だとか。凛音はそれを忘れていたという。だから人通りがなかったとういわけか。
「ハルはなぜ? さっきの戦闘、剣士っぽかったけど」
「俺はたまたまかな。何か面白そうなものがあるかなーって。始めたばかりだからあまり知らなくて」
「……! はじめたばかりなのにグリフォンを一撃で?」
「え……! う……運が良かったのかも」
「いくらなんでも怪しい……」
しまった。また墓穴をほってしまった。ここは話を変えよう。
「あのさ、よかったら俺と一緒にへーメラウスの塔に行かない?」
「いく」
返事が返ってくるまで一秒もかかってなかったぞ。
なんなら俺の言葉に被さってたような気もする。
「さあ、一緒に行こう」
凛音はそう言うと俺の手を握ってきた。
「え! え!? ちょ!?」
いくらゲーム中とはいえ、しっかりその温もりも柔らかさも伝わってきているんだって。
「どうした?」
「どうしたじゃなくて……! それは俺のセリフ! いきなりどうした」
「……? 私たちはもう友達。これくらいは普通」
絶対普通じゃない。男女が手を繋ぐまでにどれだけの葛藤があると思っているのか。まあ俺も漫画とかアニメでしか情報源はないのだけど。
「嫌だった?」
「嫌じゃないんだけど……。なんか照れるというか恥ずかしい! とてもじゃないけどこんな状態ではゲームをできる気がしないよ」
凛音と俺は手を離した。彼女は残念そうにしているが、俺は顔から発火しそうなくらい熱くなって心臓が爆発しそうだ。
「ごめん。俺こういうの慣れてなくて」
「可愛い一面もある……♡」
俺は完全に凛音のペースに巻き込まれていた。不思議すぎる。これではすぐに彼女の独特な世界に吸い込まれてしまいそうだ。
「時間もそんなにないし、そろそろ向かおう」
「そうなんだ……。なら急がないと」
こうして俺と凛音は、二人並んでへーメラウスの塔へ足を進めた。




