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白銀の足跡 ~少女の旅路~ 愛おしい冒険者生活  作者: 火年
第一章 リヴェルからエルフの街へ
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第7話 次の依頼選び――ギルドの扉が勢いよく開いた!「本当にデカグマがいた!」

エリナたち三人は、昨日と同じように冒険者ギルドの依頼掲示板の前に立っていた。


昨日と違うのは、エリナの財布がほんの少しだけ重くなっていることだ。


初めての依頼でもらった報酬。

装備を買う前ほどではないけれど、財布の中にお金が戻ってきたというだけで安心感が違う。


「今日は何にする?」

エリナが掲示板を見上げる。


「できれば割のいいやつ」

テイルは依頼書を一枚ずつ眺めている。


「昨日もそれ言ってたよね」

「大事だろ。働くなら同じ時間でたくさんもらえる方がいい」

「危険まで同じならね」

シアルが横から言った。


エリナも依頼書を眺める。

採取。

荷運び。

畑の害獣退治。

護衛。

そして、ずっと上の方。


「……フェンリル討伐」


少し茶色くなっている依頼書をエリナは見た。

「いつから貼ってあるんだろ」

報酬を見る。


ちらりと見たが、改めて見ても桁がおかしい。

「これ達成したら、一生働かなくてもいいんじゃない?」

テイルも覗き込む。


「失敗しても一生働かなくて済むぞ」

「失敗しても何か貰えるの?」

エリナは依頼書を見直した。


「違う、そこで人生終わるから」

「それなら働きたい!」

「死ぬのは駄目だろ」

シアルが淡々と言った。


「分かってるよ。さすがに駄目だって」

テイルが笑う。

エリナは次の依頼を見る。


「あ、ウサギ狩りもある」

「それもうエリナ一人でいいだろ」

「報酬を一人でもらえるし、そうしようかなぁ」

「一人で行くのは危ないから、三人でやったほうがいい」

シアルが呆れたように言った。


昨日の森で感じた緊張が嘘みたいに、ギルドの朝はいつも通りだった。


冒険者たちの話し声。

掲示板の前で依頼を選ぶ人。

受付で報告をしている人。

エリナも、次は何をしようかと考えていた。


そのときだった。


バンッ!


重い扉が、壁にぶつかりそうな勢いで開いた。

ギルドの中の視線が一斉にそちらへ向く。

「誰か……!」

男が一人、肩を貸されながら入ってきた。

服は泥だらけ。

革の防具には泥と擦れた跡がつき、片方の腕から血が流れている。


「治療できるやつ呼べ!」

誰かが叫んだ。


受付にいたリオネもすぐにカウンターから出てくる。

エリナは男の顔を見て、息を止めた。


「あの人……」

昨日、掲示板の前で話しかけてきた冒険者の一人だった。


デカグマを見つけたら逃げろ。

そう何度も言っていた男。

「何があった?」

冒険者たちが集まってくる。


男は息を整えながら、途切れ途切れに答えた。

「森だ……昨日、報告があった場所……」

エリナたち三人が顔を見合わせる。

「ゴブリンの死体を確認しに向かっている途中に」


男は荒い呼吸を繰り返す。

「……いた」

「何が?」

「デカグマ……!」


ギルドの空気が一瞬で変わった。

「本当にいたのか?」

「どの辺だ!」

「他の仲間は?」

いくつもの声が飛ぶ。

「茂みからいきなり出てきやがった……!」

男は傷のある腕を押さえた。


「死ぬ気で逃げた……。振り切って安心したところに穴があって、落ちて怪我した。仲間も全員無事だ」

「……その傷、デカグマじゃなくて穴かよ」

誰かが呆れたように言った。


だが、すぐ別の声が上がる。

「森の浅いところまで出てきてるってことか?」

「討伐依頼が出るぞ」

「自信がない奴はやめておけ!」


「昨日の巡回路だろ? しばらく止めた方がいいんじゃねえか?」

一気に騒がしくなるギルドの中で。

エリナたち三人だけは、声を出せずにいた。


「……昨日の場所だよね」

エリナが小さく言った。

「たぶんな」

シアルが答える。


テイルもさっきまでの軽い表情を消していた。

「地図、ある?」

エリナが聞く。

シアルが荷物から昨日使った地図を取り出した。


三人で端の卓へ移動し、紙を広げる。

昨日通った道。

五枚目の木札。

ゴブリンの死体を見つけた場所。

そして。

予定していた帰り道を確認する。


テイルが振り返る。

治療を受けている冒険者のところへ行き、

「デカグマがいたのって、どこだった?」

と地図を見せた。

男が指を指した。

「この辺だ」

三人とも、その指先を見る。

エリナの背中がぞくりとした。


昨日、帰り道と重なっている。

エリナが、

――こっち、なんか嫌。

そう言って避けた先。

テイルがゆっくり地図へ目を戻した。


「……おい」

誰に言ったのか分からないくらい、小さな声だった。


「俺たち昨日、最初あっち通って帰ろうとしてたよな」

「……ああ」

シアルも地図を見たまま答える。

「エリナが止めなかったら」

テイルはそこから先を言わなかった。


言わなくても分かった。

あの道へ進んでいたら。


昨日、この冒険者たちではなく、自分たちがデカグマと遭遇していたかもしれない。


エリナは昨日見た爪痕を思い出す。

自分の頭より高いところまで残っていた、大きな傷。

そして先輩たちの言葉。

――見つけたら逃げろ。

昨日はまだ、どこか遠い話だった。

今は違う。


「……俺たちだったら、逃げ切れたかな」

テイルが言った。

いつもの軽口ではない。

シアルはすぐには答えなかった。


地図の上に置いていた手を握りしめる。

ほんの少しだけ、震えているように見えた。

「分からない」

シアルが言った。

「少なくとも、今みたいに次の依頼を選んでなかったかもな」


テイルが地図を見たまま言った。

「昨日、あっち行かなくてよかったな」

「……ほんとにね」


エリナの足から力が抜けそうになった。

昨日。

あの場所で感じたものは、ただの気のせいだったかもしれない。


実際、エリナには何がいたのか分からなかった。

行きたくないと思った。

嫌な感じがしたから遠回りしただけ。


それでも。


昨日、三人で相談して。

二人が自分の言葉を聞いてくれて。

違う道を選んだ。


だから今。

三人で、ここにいる。

「……怖っ」

ようやく出た言葉は、それだった。


テイルが小さく笑う。

「今さら?」

「今だから怖いの!」

エリナは言い返したものの、自分の足が少し震えているのが分かった。

シアルが地図を畳む。


「しばらく森の依頼はやめとくか」

「賛成」

テイルが即答する。

エリナもうなずいた。


「ウサギ狩りも?」

「森じゃないやつ探そう」

「じゃあ畑のやつかな」


さっきまで命の話をしていたのに、また依頼の話に戻っていく。


エリナは二人の顔を見た。


あのとき三人で決めた道が、ここへ続いていた。

エリナは、まだ少し震えている足に力を入れた。



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