↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白銀の足跡 ~少女の旅路~ 愛おしい冒険者生活  作者: 火年
第一章 リヴェルからエルフの街へ
6/31

第6話 初めての依頼(後編)――あそこにゴブリン倒れてるんだけど!?

昼食を終えた三人は、残り二か所の木札を交換するため、さらに森の奥へ進んでいた。


さっきまでより木々が密になり、道も少し細くなっている。

「あと二枚か」

テイルが地図を見ながら言う。


「このままなら予定通り帰れそうだな」

「油断しないでよ」

エリナはそう言いながらも、少しだけ肩の力が抜けていた。


初めての依頼。

ここまで危ないことは何も起きていない。

薬草も採れた。

ウサギも仕留めた。

お昼ご飯もおいしかった。

この調子なら、初依頼は何事もなく終わりそうだった。


四枚目の木札を交換し、最後の場所へ向かう。

その途中だった。


「……待って」

エリナが足を止める。

「また薬草?」

テイルが言う。

「違う」

「じゃあキノコ?」

「それでもない」


エリナは少し離れた木を見ていた。

幹の表面。

そこに、上から下へ大きく削れた跡がある。


一本。

二本。

三本。

深い。

近づくと、木の皮が剥がれた部分はまだ新しく見えた。


「これ……」

シアルも近づく。

さっきまでとは違う、低い声だった。

「爪痕だな」

テイルが木を見上げる。

「でかくない?」

爪痕は、エリナの頭よりずっと高い位置まで続いていた。


昨日ギルドで聞いた話が頭に浮かぶ。

――デカグマ。

――見つけたら逃げろ。

「……これ、あれかな」

エリナが言う。

「たぶんな」

シアルは周囲を見回した。

「新しそうだ」

さっきまで軽かった空気が、一気に変わる。


鳥の声。

葉の擦れる音。

今まで気にしていなかった音まで、急に大きく聞こえた。


「最後の札、ここから近いよね」

エリナが地図を見る。

「近い。すぐそこだ」

シアルが答える。

「無理そうなら戻ろう」

テイルも、今度は冗談を言わなかった。

「そうだな」


三人は少し距離を縮めて歩き始めた。

声も自然と小さくなる。

なるべく枝を踏まないように。

物音を立てないように。


少し進んだところで、今度はテイルが手を上げた。

「……あれ」


茂みの向こう。

何かが倒れている。

最初は獣かと思った。


けれど近づくにつれて、違うことが分かった。

小柄な体。

緑がかった肌。

粗末な服。


「ゴブリン……?」


エリナは足を止めた。

動かない。

死んでいる。


シアルが少し前へ出た。

「近づきすぎるな」

三人とも、その場から様子を見る。


体には大きな傷があった。

エリナには何にやられたのかまでは分からない。

ただ、小さな傷ではない。


「さっきの木の傷と関係あるかな?」

テイルが小声で言う。

「分からない」

シアルは答えた。

「でも、ここに何かいるのは間違いなさそうだな」


エリナは喉を鳴らした。

昨日まで、ギルドで聞いていた話だった。

デカグマ。

魔物。

危ない森。

それが急に、ただの噂ではなくなった気がした。


「札だけ替えて帰ろう」

エリナが言う。

誰も反対しなかった。


最後の木札は、そこから見える場所にあった。


「……あそこだ」

テイルが周囲を見る。

シアルは剣に手をかけたまま。

エリナが古い札を外し、新しい札へ交換する。

手が少しだけ震えた。


「終わった」

「帰ろう」

シアルが即座に言った。

三人は来た道を戻る。


しばらく歩いたところで、テイルが地図を広げる。

「こっちだな」

シアルは歩き出した。

「……待って」

「どうした?」

シアルが振り返る。


エリナは特別なものが見えたわけではない。

爪痕もない。

何かの死体があるわけでもない。


でも。


妙に静かだった。

さっきまで聞こえていた鳥の声が、そちらからはほとんどしない。

風は吹いているのに、森の奥だけが重く感じる。

村の森を歩いていた頃にも、たまにあった。


理由は分からない。

でも、入りたくない場所。


「こっち……なんか嫌」

テイルが聞く。

「なんで?」

「分かんない」

エリナは首を振る。


「分かんないけど、なんかやばそう」

少し恥ずかしい言い方だと思った。

根拠なんてほとんどない。


それでも。

「遠回りになるけど、大回りして帰らない?」

シアルは行く予定の方向を見た。

それからすぐにうなずいた。


「そうしよう」

「いいの?」

エリナが聞く。

「急ぐ理由もない、日が落ちる前には帰れる」


テイルも地図を畳む。

「俺もいいよ。さっきのゴブリン見たあとだしな」


誰も「気のせいだ」とは言わなかった。

それが少し嬉しかった。


三人は遠回りになる道を選んだ。

結局、その後は何も起こらなかった。


夕方。

リヴェルの街が見えたとき、エリナは思わず大きく息を吐いた。

「帰ってきた……」

「初依頼終了だな」

テイルが笑う。

「まだ報告あるだろ」

シアルが言った。

「そうだった」


ギルドへ戻ると、三人はそのまま受付へ向かった。

リオネが顔を上げる。

「おかえりなさい。どうだった?」

「木札は全部替えました」

エリナが答える。


「それと、森の奥で大きな爪痕があって」

リオネの表情が少し変わった。


「それと、ゴブリンが一匹死んでました」

「場所は?」


三人で地図を広げ、見つけた場所を説明する。

さらに、大回りして帰ってきたことも話した。


「何か見たの?」

リオネが聞く。

「何も」


エリナは少し迷ってから答えた。

「ただ、なんとなく嫌な感じがして」

「それで遠回りした?」

「はい」

リオネは少しだけ笑った。


「それでいいのよ」

「いいんですか?」

「冒険者は、全部確認してから逃げてたら遅いこともあるから」

「その『なんとなく嫌な感じ』で遠回りしたのは、冒険者としてはいい判断だったと思うわ」


エリナは少しだけ胸を張った。

「じゃあ私、いい冒険者だった?」

「料理と最後だけな」

テイルが言う。


「料理と最後だけって何!ウサギも狩った!」

シアルが小さく笑った。


リオネは依頼達成の印を押した。

「木札五枚、交換確認。異常報告も受け取りました」


そして三人を見る。

「初依頼、達成ね。おめでとう」


一瞬。

三人とも黙った。

それからテイルが笑う。


「まあ、無事に帰ってこれたし成功だな」

シアルもうなずく。


エリナは手にした報酬を見た。

大きな金額ではない。

昨日使ったお金全部が戻るわけでもない。


それでも。


自分たちで街の外へ出て。

依頼を終えて。

ちゃんと戻ってきた。

初めて冒険者として稼いだお金だった。


「忘れるとこだった、あとこれの買取もお願いします」

薬草とウサギを出す。

「薬草の知識も活かしていてすごいわ」

「えへへ」

「血抜きもしっかりできているわね」


お金を三人で分けた後、エリナは二人を見る。

「……明日も何か受ける?」

テイルがすぐに笑った。

「もちろん」

シアルも少しだけ笑う。

「まず依頼見てからな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ウサギと薬草の買い取りに触れていない。AIは細かいことは無視する。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。