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白銀の足跡 ~少女の旅路~ 愛おしい冒険者生活  作者: 火年
第一章 リヴェルからエルフの街へ
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第26話 【ブーメラン】「買わないぞ」とエリナを怒ったシアル、3分後に武器屋の前で同じセリフを吐く

銀の枝亭に着いた三人は、まず部屋を取った。

受付で聞いていた通り、値段はそこまで高くない。

建物も古すぎず、部屋もきれいだった。


「よし」

エリナは荷物を置くと、すぐに立ち上がった。

「じゃあ行こう」

「早いな」

テイルがまだ荷物をほどきながら言う。


「だって観光するんでしょ?」

「するけど」

「なら早い方がいいじゃない」


シアルは剣を壁際へ置きながら、エリナを見る。

「どこ行くんだ?」

「知らない」

「知らないのかよ」

「初めて来たんだから知らないよ」

当然のように返す。


テイルが笑った。

「とりあえず宿の人に聞く?」

「それだ」

三人はそのまま一階へ降りた。


宿の主人に、初めてオルミアへ来たことを伝える。

「初めてなら、中央市場は見た方がいいな」

「市場!」

エリナがすぐ反応した。

「食い物目当てだろ」

「違うよ。いろいろあるなら見たいでしょ。でもおいしいものもあるのかな」

「もちろん」

宿の主人が笑う。

「市場を抜けた先に中央広場がある。大噴水が目印だ」

「噴水?」

「この街じゃ有名だな。そこから北へ行けば鐘塔もある」

「登れる?」

テイルが聞く。

「夕方まではな。上から街が見渡せるぞ」


三人は顔を見合わせた。

「決まりだな」

シアルが言う。


まず向かったのは中央市場。

宿を出て大通りを歩いていくと、少しずつ人の数が増えていった。


そして。

「……すご」

エリナが足を止めた。

道の左右だけではない。

細い通りの奥まで店が続いている。


野菜。

果物。

肉。

魚。

布。

革製品。

金属の道具。

見たことのない瓶。

香辛料らしい粉。


何に使うのか分からない道具まで並んでいる。


「これ全部店?」

「たぶんな」

テイルの目も忙しく動いていた。

「こっちの革、リヴェルより安い」

「分かるの?」

「だいたい」

「さすが商人の息子」

「色々見て育ったからな」


エリナはその横で、別の店を見ていた。

赤い実を串に刺し、蜜のようなものを塗った菓子。

「……シアル」

「買わないぞ」

「まだ何も言ってない」

「顔で分かる」

「見るだけ」

「その台詞で見るだけだったことある?」

「……」

エリナは少し考えた。

「……あった気がする」

「そんなことあったか?」


結局。

少し歩いたあと、三人の手にはそれぞれ一本ずつ串があった。


「シアルも買ってるじゃん」

「二人食べてたら食べたくなるだろ」

「甘いのあんまり食べないんじゃなかった?」

「そんなに食べないだけで嫌いではない」


テイルが笑いながら、自分の串を食べる。

「俺は好き」

「私はかなり好き」

「悪くはない」

エリナは残りを嬉しそうに食べた。


市場を抜けると、大きな広場に出た。

中央には、石造りの大きな噴水がある。


水は何段にも分かれて流れ落ち、その周りには腰掛けて休む人が大勢いた。

子どもが走っている。

待ち合わせをしている人。

大道芸を見ている人。

屋台で食べ物を買っている人。


「噴水だけでもリヴェルの広場よりでかいね」

エリナが言う。

「人も多い」

シアルが周囲を見る。


テイルは噴水へ近づいた。

「これ、いつからあるんだろ」

「気になるの?」

「こういうのって、作るのに結構金かかるだろ」

「まぁそうだろうね」

「こういうの請け負ったら金になりそうだな」


エリナも噴水の縁から水を見る。

きれいだった。

ただの水なのに。


街の真ん中で大量の水が流れ続けているだけで、少し特別に見える。

「こういうの、クレシマにはないなあ」

「村にこれあったら邪魔だろ」

テイルが言う。

「それはそうだけど」


シアルが少し離れた場所を見た。

「……武器屋があるぞ」

二人が同時にそちらを見る。

看板には、剣と盾の絵。


シアルの目が少し変わった。

「ちょっと見るだけ」

エリナが腕を組む。

「さっき私に何て言った?」

「見るだけ」

「同じこと言ってるよ」

「買わない」


テイルが笑う。

「その台詞で買わなかったことあったか?」

「いつも買わないだろ!」

「じゃあ見なくてもいいんじゃない?」

「……。鐘塔行くぞ」


シアルが先に歩き出した。

「正論過ぎて言い返せなかったな」

「ちょっとかわいそうになっちゃった。見に行ってもよかったかも」

二人は笑いながら追いかけた。


鐘塔は、広場から少し北へ行った場所にあった。

近くまで来ると、見上げるだけで首が痛くなりそうな高さだった。


「こんな高いの?」

エリナが言う。

「名所になるくらいだからな。低かったらならないだろ」

「まぁそうだよね」

「やめる?」

テイルが聞く。

「登る」

即答だった。


三人は中へ入った。

細い階段が上へ続いている。

最初は元気だった。

途中までは。

「まだ?」

エリナが壁に手をつく。

「まだだな」

シアルが答える。

「まだ、結構あるぞ」


しばらくしてエリナが言った。

「同じようにぐるぐる登るのしんどい」

「さすがに飽きるよな」

テイルも少しうんざりした顔で答えた。


「なんでこんな高いの……」

「遠くまで見渡すためだろ」

「それは分かってるけど」

さらに階段を上る。


ようやく外へ出た時。

風が一気に吹いた。

「わっ」

エリナは髪を押さえる。


そして。

目の前に広がる景色を見て、何も言わなくなった。

街が全部見渡せた。


さっき歩いた市場。

大噴水のある広場。

何本もの大通り。

並ぶ家。

倉庫。

街の壁。

その向こうに続いていく街道。

近くに森も山も見える。


リヴェルよりずっと大きい。


昨日まで歩いていた道も、ここからなら見えるのかもしれない。

「……広い」

出た言葉は、それだけだった。

テイルが柵に手を置く。

「まだこれで中都市なんだよな」

「らしいな」


シアルも街を見下ろす。

「大都市はもっとでかいんだろ」

エリナは遠くを見る。


まだ行ったことのない街。

知らない場所。

知らない人。

知らない食べ物も、きっとある。


「行ってみたいな」

エリナが言った。

「どこに?」

テイルが聞く。

「えーと、まだ見たことがないところ」


少し間があった。


シアルが頷く。

「いつか見れるよ」

テイルも笑った。

「まずはオルミアに来れたな」

「そうだね」


エリナはもう一度、目の前の街を見る。

今日だけでも、まだ全然見切れていない。


市場も。

広場も。

店も。

たぶん、知らない場所がまだいくらでもある。


「明日はどこ行く?」

エリナが聞く。

テイルが即答する。

「市場の続き」

「また?」

「まだ半分も見てないだろ」


シアルが言う。

「武器屋」

「やっぱり行くんだ」

明日は行ってあげようと思いながらエリナは笑った。


風の向こうで、鐘が鳴った。

初めて来た大きな街。

ここだけでも、まだ知らないものがたくさんある。

想像できないようなものもきっとあるに違いない。



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