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白銀の足跡 ~少女の旅路~ 愛おしい冒険者生活  作者: 火年
第一章 リヴェルからエルフの街へ
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閑話4 偏屈なキノコ博士と、お駄賃稼ぎの小さな弓使い

三年前。

王都に、一人の博士がいた。

王立学院で講師をしながら、日々キノコの研究を続けている。

その日も博士は、学院から渡された一枚の紙を握りしめていた。

「今年も研究費が削られてるじゃないか!」

机を叩く。


向かいに座っていた学院の職員は、面倒そうにため息をついた。

「仕方ないだろ。今、お前のキノコ研究は必要とされていない」

「なんだと!」

「文句があるなら、何か研究成果を出してから言え」

「ぐぬぬ……」


言い返せない。

職員はさらに紙を一枚取り出した。


「それと、今年キノコ学を専攻した生徒はゼロだ」

「ぐぬぬ……!」

こっちはもっと言い返せなかった。


研究室へ戻った博士は、自分の財布と今年の研究費を机に並べた。

家賃。

食費。

研究道具。

そして何より、キノコ。


王都で研究を続ければ、必要経費とキノコを買うだけで資金がなくなる。

「どこを削る……?」

食費。

駄目だ。

研究には体力がいる。


研究費。

そこを削ったら何のために生きているのか分からない。

「……家賃か」


しかし、王都の家賃をなくすということは。

「野宿……?」

想像した。

雨。

風。

冬。


キノコを抱えて眠る自分。

「無理だな」

博士はすぐに諦めた。

そのとき、ふと思いついた。

「待てよ」

王都に住むから家賃が高い。

だったら。


「田舎に行けばいいんじゃないか?」

研究する場所が王都である必要はない。

そして今は、キノコ学を専攻する生徒もいない。


むしろキノコを研究するなら、森や山に近い方が都合がいい。

そして博士には、以前から気になっている場所があった。


クレシマ村。

周辺には森が多く、珍しいキノコの報告もある小さな村だ。

「よし」

博士は立ち上がった。

「何か成果を持って帰って、学院の連中を見返してやる!」


こうして。

博士は王都を出た。

クレシマ村での生活は、思っていたより悪くなかった。


家賃は王都よりずっと安い。

森も近い。

村人も、変わったキノコを調べている博士を多少不思議そうには見たが、友好的だ。


当面の資金もある。

「まずは研究だな」

博士はさっそく周辺の森を調べ始めた。


ただし、一人で森中を歩き回るのは効率が悪い。


そんなある日。

森から弓を背負った女の子が戻ってくるのを見かけた。


まだ子供だ。

手には仕留めたウサギ。

どうやら頻繁に森へ入っているらしい。

博士は考えた。


そして翌日、その子を呼び止めた。

「君、よく森に行くのか?」

「うん」

「じゃあ、このキノコを見つけたら採ってきてくれないか?」

博士は紙に描いたキノコを見せる。


「持ってきてくれたら、お駄賃をあげよう」

女の子の目が輝いた。

「ほんと?」

「本当だ」

「探してくる!」


次の日。

女の子は、本当にキノコを持ってきた。


それから博士は、少しずつキノコのことを教えるようになった。


食べられるもの。

食べられないもの。

似ているけれど危険なもの。

見つけたら持ってきてほしいもの。


幸い、その子もキノコが好きなようだった。

そして、教えれば教えるほど覚えていった。


それから、高いキノコでも。

安いキノコでも。

女の子は同じお駄賃で持ってきてくれる。


博士としては非常に助かった。

ある日。

「博士ー!」

女の子が袋を持って走ってきた。

「今日はこれ!」

袋の中を見て、博士は目を見開いた。

「赤ツブキノコじゃないか」

なかなか珍しい。

しかも状態もいい。


「全部くれるのか?」

「うん。お駄賃ちょうだい」

博士はいつもの金額を渡した。

女の子は嬉しそうに受け取る。


だが、博士は袋の中の赤ツブキノコを見た。

さすがに。

少し申し訳ない。

「いくつか、持って帰るか?」

「なんで?」

「これはとてもおいしいんだ」

「おいしいの?」

「かなりおいしい」


女の子は興味深そうに赤ツブキノコを見る。

そして、いくつか持って帰った。


博士の研究は順調だった。

資金だけは順調ではない。

「このままだと、いずれ金が尽きるな……」

博士は悩んだ末、一つのキノコに目をつけた。


ササクレキノコ。

クレシマ周辺で採れるキノコで、細かく刻んで干し肉と一緒に煮ると、硬い干し肉が驚くほど柔らかくなる。


「これを栽培できれば……」


森まで採りに行く必要がなくなる。

村でも使える。

うまくいけば、自分の食費も浮く。

博士は栽培方法の研究を始めた。


そして。

これまでの研究の成果もあり、思っていたよりあっさり成功した。

「できた」


村人たちにも使い方を教えてみた。

最初は半信半疑だった。

だが、硬い干し肉が柔らかくなると分かると、反応は早かった。


「博士、またあのキノコあるか?」

「あるぞ」

「これと交換してくれ」

野菜。

パン。

干し肉。

時には卵。


ササクレキノコと食べ物を交換してくれるようになった。

気づけば。

博士は食べるものに困らなくなっていた。


「……この研究を発表すれば王都でも評価されるのでは?」

戻ることも考えた。

しかし、ここでも生活できている。

研究も続けられる。

なら、王都へ戻りたくなった時に発表すればいい。


そして、キノコを採ってきてくれる女の子とも、いつの間にか仲良くなっていた。

森で見つけたキノコを持ってきては、

「これおいしいよね」

「肉と食べるともっとうまいぞ」

「こっちは?」

「塩かけて焼くのが一番だな」

そんな話を何度もした。


三年が経った頃には。

あの子も、かなりキノコに詳しくなっていた。

少なくとも、その辺の大人よりはずっと詳しい。


博士の研究記録も、ずいぶん増えた。

ササクレキノコの栽培。

周辺に生えるキノコの種類。

生育条件。

食用。

毒性。


ちょうどその頃。

いつもキノコを採ってきてくれていた女の子が、村を出た。


冒険者になるらしい。

「そうか」

博士は少し寂しくなった。


研究材料を採ってくれる人がいなくなるから。

たぶん。

それだけではない気もしたが。


博士は、自分の家に積み上がった研究記録を見る。

「そろそろ、一度王都に戻るか……」

学院に見せたいものもある。

三年前、研究費を削った連中に見せてやりたい成果もある。

もちろんササクレキノコ以外の研究も進んでいた。


窓の外を見る。

静かな村。

近くの森。

そして、庭で育っているササクレキノコ。


「……でも、ここ暮らしやすいんだよなぁ」

王都へ戻るか。

このままクレシマ村に残るか。

キノコ博士は今日も悩んでいた。


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