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白銀の足跡 ~少女の旅路~ 愛おしい冒険者生活  作者: 火年
第一章 リヴェルからエルフの街へ
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第22話 襲撃はゼロ!―― みんな絶賛、ササクレキノコ

リヴェルを出てから、しばらく。

街道は思っていたよりずっと静かだった。


大きな荷馬車がゆっくり進み、その周りを青い灯とエリナたちが歩いている。

最初のうちは、エリナも何度も周囲を見回していた。


茂みが揺れれば気になるし、遠くで鳥が飛び立てばそちらを見る。

けれど、何も起きない。


「……護衛って、もっとこう、ずっとみんなピリピリしてる感じかと思ってた」

エリナが小さく言う。


近くを歩いていたルークが笑った。

「警戒はしてるぞ」

「してるの?」

「してるしてる。ただ、ずっと剣握って睨んでたら五日ももたないだろ」

「それもそうか」


前を歩いていたガレスも、時々街道の先や周囲へ目を向けている。

ミレナはもっと分かりにくい。


普通に歩いているように見えるのに、ときどき道の脇へ視線を向けたり、地面を見たりしていた。


エリナには何を見ているのか分からない。

シアルもそれに気づいているらしく、少し前を歩くミレナを何度か見ていた。


テイルはというと。

「なあハインさん、あの箱なに入ってるの?」

「色々な街の特産品だよ」

「どういうのが儲かるの?」

「季節やタイミングによって変わる。それを見極めるのが商人だ」

「難しいんだよなぁ」

「いろんな街行って、見とくといいぞ」


いつの間にか荷馬車の横でハインと話していた。

そんなやり取りを見てエリナは少しだけ肩の力を抜いた。


昼前。


街道脇の開けた場所で、一度休憩を取ることになった。

ハインが荷台からパンと干し肉を取り出し、全員に配った。


エリナも受け取る。

そして干し肉を見る。

硬そうだった。


「……やっぱりこれだよね」

「定番のやつだからな」

エリナは自分の荷物を開け、中からササクレキノコを取り出した。

「持ってきてよかった」

「エリナいると助かるわ」

テイルがしみじみ言った。

「ちゃちゃっと作るね」


火を起こし、小さな鍋に水を入れる。

干し肉を切り、細かく刻んだササクレキノコと一緒に煮込む。

それを見ていたルークが近づいてきた。


「何作ってるんだ?」

「干し肉煮込んでる」

鍋を見る。

「煮てるだけじゃないのか?」

「キノコも入ってるよ」

「キノコ?」

今度はセフィも覗き込んだ。


「食べられるやつ?」

「食べられるよ」

エリナが即答する。


横でテイルが笑った。

「知らないキノコ入ってると、聞いちゃうよね」


少しすると、鍋から肉の匂いが立ち始めた。

エリナが木の匙で干し肉を押す。


簡単に崩れた。

「できた」

三人で分ける。


パンはそのまま。

干し肉は、キノコと一緒に煮たものを食べる。

ルークが少し離れたところからこちらを見ている。


ミレナも見ていた。

セフィも。

ガレスだけは特に気にしていないように見えたが、視線が一度だけ鍋へ向いた。


エリナは肉を口に入れる。

「うん。ちゃんと柔らかい」

「いつものだな」

シアルも食べる。


テイルはパンで肉を挟んだ。

「これ結構合うぞ」

「ほんと?」

エリナも真似してみる。


確かに悪くない。


その様子を見ていたルークが言った。

「なあ」

「なに?」

「夜、俺たちの分も作ってくれない?」

エリナが青い灯を見る。

「いいけど」

「ほんとか?」

「キノコたくさんあるし」


セフィが少し笑った。

「じゃあお願いしてもいい?」

「もちろん」

ミレナも短く言う。

「食べてみたい」

最後にガレスを見る。

「俺も頼む」


「硬い干し肉はみんな苦手なんだな」

テイルが笑った。


午後も、何も起きなかった。

何度か別の荷馬車や旅人とすれ違ったくらい。


街道を外れることもない。

エリナたちは青い灯の動きを見ながら歩いた。


ガレスは休憩する場所や時間を決める。

ミレナは時々少し先へ出て、道の様子を確認する。

ルークは荷馬車の近くを歩きながら周囲を見る。

セフィは馬や人の疲れ具合も気にしていた。


派手なことは何もしていない。

けれど、ずっと何かを見ている。

それがエリナには少し新鮮だった。


「何も起きないね」

夕方近く、エリナがシアルへ言う。

「何も起きない方がいいだろ」

「分かってるけど」

「初護衛だから何か起きてほしいのか?」

「そういうわけじゃないよ」

「じゃあいいだろ」

「まぁそうなんだけど」


テイルが横から言う。

「エリナ、冒険者の話に影響されすぎなんじゃない?」

「そんなことない」

たぶん。

日が傾く頃。


街道から少し外れた、野営に使われている場所へ到着した。

地面は平らで、近くには水場もある。

ガレスが周囲を確認してから、

「今日はここにする」

と言った。


エリナたちは荷台から荷物を降ろす。

一人用テントを三つ。


青い灯もそれぞれ野営の準備を始める。

ハインは馬を休ませ、荷馬車の状態を確認していた。


エリナもテントを張り終えると、すぐ夕食の準備に入った。

「さて」

干し肉。

ササクレキノコ。

それから、持ってきていた少しの調味料。


昼より大きめの鍋を使う。

今度は人数が多い。

「九人分か」

エリナが数える。


白銀の足跡が三人。


青い灯が四人。

ハイン。


「あれ、八人じゃない?」

テイルが言う。


エリナがもう一度数える。

「……八人だ」

「何か見えてたとかやめろよ」

「それはないと思う」

「思うってなんだよ」

「……」


少し離れたところでルークが吹き出した。

「本当に賑やかだな、お前ら」

青い灯だって、さっき似たようなやり取りしてたじゃない。


エリナはそう思いながら、キノコを刻んだ。

鍋に水、干し肉、ササクレキノコを入れる。


時間をかけて煮込んでいく。

やがて、硬かった干し肉が柔らかくなった。


「できたよ」

器へ分ける。

まずルークが一口。

「……え?」


もう一口。


「これ、あの干し肉だよな?」

「そうだよ」

「嘘だろ。昼に配られたやつ、噛み切るの結構大変だったぞ」

セフィも食べる。

「ほんと。すごく柔らかいし味もおいしくなってる」

ミレナは何も言わず、二口目を食べた。


それから、

「これ、旅でかなり便利」

とだけ言った。


ガレスも肉を確かめるように食べる。

「保存食をここまで食べやすくできるなら助かるな」

「でしょ?」

エリナは少し得意になる。


ハインも興味を持ったのか近寄ってきた。

「一口もらっていいか?」

ハインも一口食べる。


しばらく黙る。

「……確かに違うな」


もう一口。


「味も悪くない」

「むしろうまいだろ」


ルークが言う。


「俺、明日から干し肉ならこれがいい」

「キノコなくなったら終わりだけどね」


エリナが言う。

その言葉に、ハインの手が止まった。

「そのキノコ、クレシマで採れるのか?」

「採れるよ。そんなに珍しくないし」


「他では?」

「知らない」


エリナは首を傾げた。

テイルがハインを見る。


ハインは鍋の中のササクレキノコを見る。

「干し肉を柔らかくできるなら、旅人にも冒険者にも需要はある」

「そうなの?」

「保存食なんて硬いのが普通だから柔らかくなるならあるだろう」

ハインは少し考える。

「……栽培できるなら面白いかもしれない」

「村で栽培してる人いたよ」

エリナは答える。

「本当か?」

「うん」

「これは上手くすれば、上手くいくかもな」

「へえ」


クレシマ村では、ただのいつものキノコだった。

硬い肉を柔らかくする。


それだけのもの。


「そんなにすごいキノコだったんだ」

「少なくとも、試す価値はある」


ハインが言う。

テイルが笑った。

「エリナ、詳しそうで抜けてるよな」

「どういう意味よ?」

「赤ツブキノコも値段知らなかったし」

「それはもう覚えた!」

「今度はササクレキノコだな」

「これは普通のキノコだから!」


ハインが笑う。


「今は普通だけど、今後有名なキノコになるかもな」

エリナには、よく分からなかった。


青い灯の四人は、鍋をきれいに空にした。


食事を終える頃には、すっかり夜になっていた。


ガレスが立ち上がる。

「お前ら、夜警は初めてだよな」

エリナたち三人を見る。

「やり方を説明する」


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