第19話 前衛がイケメンすぎて弓が引けない!?(※違います、ただ巻き込みが怖いだけです)
その日の午後。
三人は買ったばかりのテントを持って、リヴェルの街の外へ出た。
街からそれほど離れていない草地に荷物を下ろし、まずはテントを広げる。
前に一度、ギルドから借りたテントを張っている。
今回は一人用で形こそ少し違ったが、やることはそれほど変わらなかった。
三人で一つ目を確認しながら張ってみると、思ったより簡単に組み上がった。
作り方が分かれば、あとはそれぞれ自分の分を張るだけだった。
しばらくすると、草の上に三つの小さなテントが並んだ。
エリナは自分のテントへ入り、広さを確かめる。
一人で寝るには十分だ。
そして、少しシアルの中古テントが気になった。
「シアルのテントどんな感じ?」
「ん? 全く問題ないぞ」
「匂いとかも大丈夫?」
「無臭だな」
「中ちょっと、見させてもらうね」
確かに無臭だ。新品の匂いがしないのは少し残念かもしれないが。
それでも、どうやらテイルの見立て通り、十分使えそうだった。
テントの確認を終え、三人はテントを片付け始める。
テイルがふと思い出したように言った。
「そういえば、キノコの値段は分かるようになった?」
「売ってるところを見ないと分からないからなぁ。今のところ、赤ツブキノコとマツノキノコが高いってことくらいかな」
「そうだよな。一覧表とかあるわけでもないからな」
「地方によっても違うみたいだし」
「おいおい覚えてくしかないか」
「とりあえずは珍しくて、おいしいのは食べないようにするくらいしかできなさそう」
「でもおまえはおいしいのはすぐ食べるだろ」
「お金に余裕があったら食べた方がいいでしょ」
エリナは真剣な顔で答えた。
そんな雑談をしている中、ふとテイルがエリナの弓を見た。
「今日、弓も練習する?」
「練習? 弓は得意だよ」
エリナも自分の弓を見る。
「でも、人がいると撃てないよね」
「あ」
言われて思い出した。
ゴブリンの巣の外で、二匹のゴブリンが飛び出してきたとき。
エリナも弓を構えていた。
距離だけなら十分狙えたはずだった。
けれど、前にはシアルがいて、テイルも横を動いていた。
もし二人に当たったら。
そう考えた途端、矢を放てなかった。
「……そういえば、そうだった」
「忘れてたのか?」
シアルが聞く。
「思い出したくないから記憶から消してたのかも」
「おいおい、それ人として大丈夫なのか?」
テイルが突っ込んでくる。
「人としては大丈夫でしょ。冒険者としてと言われると……」
シアルが笑った。
「せっかく外まで来たし、ちょっと試してみよう」
エリナも弓を手に取る。
「やってみる」
少し離れた場所に、太めの木が一本立っていた。
まずは誰も近くにいない状態で撃ってみる。
エリナは矢をつがえ、弦を引いた。
狙って、放つ。
矢は狙った場所へ刺さった。
「よし!」
問題はここからだった。
「シアル、ちょっと盾借りるな」
そう言って、テイルが木から少し離れた場所へ立つ。
木との間にはかなり距離がある。
普通に撃てば、テイルへ当たるような場所ではない。
「これくらい離れてれば大丈夫だろ」
「うん」
エリナはもう一度矢をつがえる。
さっきと同じ木。
同じくらいの距離。
それなのに、今度はさっきより少し狙いづらく感じた。
弦を引く。
テイルの位置も確認する。
大丈夫。
十分離れている。
そう思ってから矢を放った。
矢は木へ刺さった。
「当たった」
「当たったけど」
シアルが木を見る。
最初の矢より、かなりテイルと反対側に寄っていた。
エリナも近づいて確認する。
「……ほんとだ」
「次は逆に立ってみる」
テイルが言う。
今度も同じ場所から撃つ。
やはり、人が立っている方とは反対へ寄った。
「私、そっち狙ってるつもりないよ?」
「分かってる」
シアルが言う。
「たぶん、当てないようにしてるんだろ」
「考えてるつもりはないけど」
「無意識にそうなっているんだな」
人が止まっていて、これだけ離れていてもこうなる。
実際の戦闘なら、シアルもテイルも動いている。
撃てなくなったのも当然なのかもしれない。
エリナは刺さった矢を見ながら少し考えた。
「これ、直した方がいいよね」
「そのうち」
テイルが答える。
「そのうち?」
「今すぐ直さなくてもいいだろ」
シアルも木の方へ歩いてくる。
「俺たちが近くで戦ってる敵には、当分無理して撃たなくていい」
「近づく前なら撃てるだろ」
テイルが続ける。
確かに、それなら問題ない。
シアルとテイルの近くへ来る前なら、いつも通り狙える。
「近くまで来たら俺たちがやる」
「それまでにエリナが減らせれば楽になるしな」
エリナは少し考えてから頷いた。
「じゃあ、今はそれでやる」
「でも練習はするよ。できないままなの嫌だし」
エリナが言った。
「それはやった方がいいな」
シアルが答える。
「じゃあもう一回」
エリナは矢を拾った。
テイルが木の横へ戻っていく。
「まだやるの?」
「やるよ」
「テント試しに来たんじゃなかったっけ?」
「もう終わったでしょ」
エリナは矢をつがえた。
今度はさっきより少しだけ、人がいることを気にしないように木を見る。
すぐに上手くなるとは思っていない。
それでも、何が苦手なのかは分かった。
なら、あとは少しずつ慣れていけばいい。
「よし」
エリナは弦を引いた。
「今度はもう少し真ん中狙うから」
「俺の方に当てるなよ」
「分かってる!」
できることを、一つずつ増やしていこう。
エリナはそう思いながら、もう一度木へ狙いを定めた。
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