第18話 じゃんけんで負けたシアル――中古テントでも全然気にしない
「オルミア行きの護衛補佐の依頼、今日は出てますか?」
ギルドの受付で、テイルがリオネに聞いた。
リオネは手元の依頼書を確認してから、申し訳なさそうに首を振る。
「今日はないですね。オルミア方面の護衛は定期的に出ますけど、毎日あるわけではないので」
「そっか」
テイルはあっさり引き下がった。
急いでオルミアへ向かわなければならない理由があるわけでもない。
三人ともEランクになったばかりだし、リヴェルで生活に困っているわけではない。
「じゃあ、出るまで待つしかないね」
エリナが言うと、シアルが頷いた。
「その間に準備しておくか」
「準備?」
「旅の道具。今まで借りたりしてた物もあるだろ」
言われて、エリナは思い出した。
初めて一泊の依頼へ行ったとき、テントや野宿道具はギルドから借りていた。
近場の依頼ならそれでもいい。
けれど、これから街を移動しながら冒険者をするなら、自分たちの物が必要だ。
「テント買っとこっか?」
テイルが言った。
「買おうよ!」
エリナは即答した。
そして少し考える。
「……高くなければだね」
「まぁそこだよな」
「大事でしょ。パーティーのお金、そんなに多くないんだから」
正式にパーティーを組むことになり、三人はそれぞれ少しずつ金を出して、共通の財布を作っていた。
だからこそ、最初から無駄遣いするわけにはいかなかった。
三人はギルドを出て、旅道具を扱う店へ向かった。
店の中には、大小いろいろなテントや毛布、ランタン、ロープ、水袋などが並んでいる。
エリナは店へ入ってすぐ、吊るされた値札を見上げた。
「……結構するね」
「すぐ壊れないようにできてるからな」
テイルはそう言いながら、一人用のテントの布を指でつまんだ。
少し引っ張り、縫い目を見る。
その隣ではシアルが三人用のテントを見ていた。
「前に借りたのと同じくらいの大きさだな」
「じゃあ三人用一個でよくない?」
エリナが言う。
一つなら値段も抑えられる。
前回も三人で寝られたのだから、特に困ることもない。
「俺は一人用三つでもいいと思う」
シアルが言った。
「三つ?」
「荷物を分けられる。一人だけ別行動になっても使えるし」
「別行動する予定あるの?」
「なくても、できる方がいいだろ」
エリナは少し考える。
確かにその通りではある。
テイルも別の一人用テントを持ち上げた。
「三人用一個だと、これ持ってるやつとはぐれたら他の二人はテントなしだしな」
「そんなにはぐれる前提で話さなくてもいいと思うけど」
「冒険者だし」
「便利な言葉だね、それ」
結局、三人は一人用を三つ買うことにした。
問題は値段だった。
三つ並べて計算したエリナが、しばらく無言になる。
「……足りるけど」
「けど?」
「これ買ったら、他の物はほとんど買えないよ」
ランタンも欲しい。
ロープも予備があった方がいい。
毛布も、今持っている物だけではこれから寒くなったとき心もとない。
テントだけで共通の財布をほとんど使うのは、さすがに不安だった。
「安いのないかな」
エリナが店の中を見回す。
するとテイルが、店の奥に積まれた荷物へ近づいた。
「こっちは?」
そこには新品とは別に、いくつか中古の旅道具が置かれていた。
その中に一つだけテントがあった。
しかも、一人用のテントだった。
テイルがテントを広げる。
色は少しくすんでいる。
けれど布そのものは思ったよりしっかりしていた。
テイルはしゃがみ込み、縫い目や留め具、布の状態を順番に確認する。
さっきまでの軽い顔が少しだけ真面目になった。
「これ、悪くないぞ」
「中古でしょ?」
「中古だけど、破れなし。補修した跡もほとんどない。留め具も大丈夫」
シアルも横から布を見た。
「雨が漏れなきゃ問題ないな」
「値段は?」
エリナが聞く。
テイルが値札を見る。
三人とも少し黙った。
新品の一人用より、かなり安い。
「……これ一つ混ぜれば、ランタンも買えるね」
エリナが言った。
「ロープもいけそう」
テイルが続ける。
話は決まった。
新品二つと、中古一つ。
そして次の問題が出る。
「で」
テイルが中古のテントを指差した。
「誰がこれ使う?」
三人とも黙った。
使える物だと分かってはいる。
けれど新品と中古が並んでいたら、できれば新品がいい。
「じゃんけんでいいんじゃない?」
テイルが言う。
「じゃんけんで決めるの?」
「一番公平だろ」
シアルまで普通に同意した。
エリナは少し迷ったあと、手を出す。
「……分かった」
「最初はグー!じゃんけん、ぽい!」
シアルはパー。エリナとテイルはチョキ。
「……俺か」
「シアル、中古ね」
「別にいい」
「全然気にしないんだね」
「使えるなら同じだろ」
「じゃんけんで決めたんだしな」
テイルが笑う。
テントが決まったあと、三人は残った予算で必要な物を揃えていった。
「ランタンは一つでいい?」
「今のところは」
「ロープは?」
「それは買っておこう。使うこと多いし」
「毛布は三枚」
「それは一人一枚必要だな」
少しずつ荷物が増えていく。
エリナは財布の中身が減っていくことが少しだけ心配になった。
店を出るころには、必要なものはそろっていた。
テイルが自分の新品テントを背中に担ぐ。畳んでしまえば、思っていたよりずっと小さい。
「これでいつでも出られるな」
「護衛の依頼が出ればね」
エリナが答える。
シアルは中古のテントを持ち上げた。
「その前に一回張ってみた方がいいな」
「中古だから?」
「中古じゃなくてもだ」
「じゃあ今度、近場の依頼で使ってみようよ」
昨日までは、リヴェルを離れることすら考えていなかった。
それなのに今日は、もう次の街へ行く準備をしている。
「……なんか、本当に行くんだね」
エリナが呟く。
テイルが振り返った。
「遅くない?」
「今さら実感したの?」
シアルが少し笑う。
「二人はずっと考えたかもしれないけど、私は昨日考えだしたばっかだから!」
三人は荷物を抱えたまま、宿へ向かって歩き出した。
オルミアへ向かう依頼は、まだない。
けれど。
もうここには長くいないんだろうなと思った。
更新時間色々変えて様子見てみようと思っています。




