第14話 ゴブリン討伐作戦!(後編)
洞窟の中へ四人の姿が消えると、ガルドが残った冒険者たちを見回した。
「じゃあ、こっちも配置につくぞ」
エリナたちを含め、洞窟の外に残った冒険者は八人。
ガルドが地面に簡単な図を描きながら説明を始める。
「四人は周囲を見張れ。外に出ているゴブリンが戻ってきたら、洞窟へ入れるな」
四人の冒険者が頷く。
ガルドは今度はエリナたちを見る。
「お前ら三人は入口を見てろ。中から逃げてきたやつを倒せ」
「私たち、入口なんだ」
エリナは暗い洞窟を見る。
奥はほとんど何も見えない。
「俺は両方見る。何か動きがあったら必ず声をかけろ」
「分かりました」
シアルが頷いた。
それぞれが持ち場へ散っていく。
洞窟の前に残ったのは、エリナ、シアル、テイル、そしてガルド。
しばらく何も起こらなかった。
風が木々を揺らす音だけが聞こえる。
「……緊張するね」
エリナが小声で言った。
「するな」
シアルも洞窟から目を離さない。
「中で何やってるのか見えないのが余計にな」
テイルもいつもより少し声が低い。
ガルドが横で笑った。
「緊張してるくらいでいい」
「そうなんですか?」
「何も怖くなくなった奴の方が危ねえよ」
エリナは少しだけ肩の力を抜いた。
「ガルドさんでも緊張するんですか?」
「するぞ」
即答だった。
テイルが意外そうに振り返る。
「もっと慣れてるのかと思った」
「慣れてるから怖いんだよ。何が起こるか分からんのを知ってるからな」
「なるほど……」
そのときだった。
洞窟の奥から、何かが走ってくる音がした。
「来るぞ」
ガルドの声が変わる。
シアルが剣を抜いて盾を前へ出す。
テイルも剣を抜いた。
エリナはすぐに矢をつがえる。
暗い洞窟から、二つの影が飛び出してきた。
ゴブリン。
一匹目がシアルの方へ向かってきた。
「っ!」
シアルが盾で攻撃を受けた。
鈍い音が響く。
体勢を崩したゴブリンの横へ、テイルが回り込んだ。
一閃。
ゴブリンが倒れる。
もう一匹が横から抜けようとする。
シアルがすぐに進路を塞いだ。
「逃がさない!」
エリナは弓を引いた。
狙う。
狙える。
距離も遠くない。
ウサギなら、まず外さない距離だった。
けれど。
ゴブリンの前にシアルがいる。
その横をテイルが動いている。
矢を放った瞬間に、どちらかが動いたら。
そう考えた途端。
動けなかった。
「エリナ!」
テイルの声。
シアルがゴブリンの攻撃を盾で弾く。
その隙にテイルが横へ入り、剣を振った。
二匹目も地面へ倒れた。
あっという間だった。
エリナは弓を引いたまま立っていた。
「……撃てなかった」
シアルが振り返る。
「どうした?」
エリナはゆっくり弓を下ろした。
「二人が前にいると、怖くて」
「怖い?」
「もし動いたらって思ったら……撃てなかった」
ウサギを狙うときは、自分と獲物しかいない。
けれど戦いでは違う。
味方が動く。
敵も動く。
その中へ矢を射る。
今まで考えたこともなかった。
テイルが剣についた汚れを払いながら言った。
「まあ、俺は撃たれたくないな」
「撃たないよ!」
「だけど撃てなかったんだろ」
「そうだけど……」
ガルドが倒れたゴブリンを確認しながら口を開いた。
「最初はそんなもんだ」
エリナが見る。
「そうなんですか?」
「前で戦ってるやつを援護するなら、味方の動きも読めなきゃならん」
ガルドはシアルとテイルを見る。
「こいつらも、お前が撃つって分かってりゃ動き方を変えられる」
シアルが頷く。
「練習した方がよさそうだな」
「うん……」
エリナは自分の弓を見る。
弓なら自信があった。
けれど。
冒険者として弓を使うことと、ウサギを狩ることは同じではないらしい。
また一つ、覚えることが増えた。
それからしばらく。
洞窟から新しくゴブリンが飛び出してくることはなかった。
やがて。
暗い入口から人影が現れた。
「あ」
エリナが身構える。
けれど、出てきたのはゴブリンではない。
『ゴブリン狩り』の四人だった。
入っていったときと同じ四人。
汚れてはいるものの、大きな怪我をしているようには見えない。
「早くない?」
テイルが小さく言った。
「分からん」
シアルも四人を見る。
『ゴブリン狩り』は、そのままガルドのところへ向かった。
何かを話している。
何を話しているのかまでは聞こえない。
しばらく話したあと、ガルドが声を上げた。
「終わりだ!」
見張りに出ていた冒険者たちも戻ってきた。
「巣の討伐は完了した。帰るぞ!」
「終わったんだ……」
エリナは洞窟を見る。
ついさっきまで、あの中に何匹ものゴブリンがいた。
それを四人だけで倒してきたらしい。
改めて見ると。
やっぱり、普通の冒険者とは少し違って見えた。
帰り道。
ガルドから、巣の中には普通のゴブリンだけでなく、ゴブリンマジシャンもいたと聞いた。
「魔法を使うゴブリン?」
エリナが聞く。
「ああ。放っておくと厄介になる」
「じゃあ、早めに見つけてよかったんだな」
シアルが言う。
「そういうことだ」
ガルドは短く答えた。
リヴェルへ戻るころには、エリナの緊張もだいぶ抜けていた。
ギルドへ戻ると、リオネが三人を迎える。
「おかえり。三人とも無事ね」
「ただいま」
「ゴブリン二匹倒したよ」
テイルが言う。
「倒したのは二人だけどね……」
エリナは少しだけ肩を落とす。
「私、結局、撃てなかった」
「でも、それも経験でしょ」
そして。
「あ、それと」
「なに?」
「三人とも今日からEランクね。更新するから、冒険者証出して」
エリナが瞬きをする。
「Eランク?」
「うん」
「ランクなんてあるの?」
一瞬。
沈黙した。
テイルがエリナを見る。
シアルも見る。
リオネまで見る。
「え?」
エリナは三人を見返した。
テイルが自分の冒険者証を取り出す。
「ここ」
指をさす。
そこには小さく文字が書かれていた。
F。
「ここにFって書いてあるだろ」
「……ほんとだ」
「今まで何だと思ってたんだよ」
「番号か何かだと思ってた」
「一文字しかないだろ」
シアルが淡々と突っ込む。
リオネも少し困った顔をする。
「というか、ランク知らない冒険者って初めて見たかも……」
「登録したとき説明してくれたっけ?」
「……いった気もするけど、言ってなかったっけ?」
リオネが少し考える。
隣でテイルが笑った。
「まあいいじゃん」
そして、自分の冒険者証をひらひら振る。
「俺たちは、まずEランクを目指してたんだよ」
エリナはまた二人を見る。
「それも初耳なんだけど!」
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