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白銀の足跡 ~少女の旅路~ 愛おしい冒険者生活  作者: 火年
第一章 リヴェルからエルフの街へ
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閑話2 冒険者たちの、冒険のない1日――今日は三人でお洗濯

初めての一泊遠征から戻った翌朝。


エリナは、洗濯物を詰めた袋を抱えてギルドへ入った。

「おはよ」

「おはよう」

ロビーには、すでにテイルとシアルがいた。


二人の足元にも、それぞれ洗濯物をまとめた袋が置かれている。


「結構あるね」

エリナが言うと、テイルが昨日着ていた上着を袋から引っ張り出した。

裾には乾いた泥。

袖には草の汁らしい薄い緑色の跡が残っている。


「遠征一回でこれだもんな」

「昨日ずっと歩いてたし、草むらにも入ったからね」


「予備の服もそんなに持ってないし、今日洗っとかないと次が困るな」


テイルが上着を丸め直す。

シアルも自分の袋を持ち上げた。


「予定通り今日は依頼受けないで、まとめて洗うか」

「賛成」


三人はそのまま、街の共同洗濯場へ向かった。

住宅地の近くにある洗濯場には、大きな共同井戸がある。


その周囲には石床が広がり、いくつものタライと洗濯板が並んでいた。

朝から町の人たちも集まり、あちこちから水音と話し声が聞こえてくる。


三人は空いている場所を見つけ、大きなタライへ水を張った。


「じゃ、やるか」

テイルが腕まくりをする。

エリナも袋から昨日の上着を取り出した。


「それ、先につけとく?」

テイルが聞く。

「うちは汚れてるところを先に揉んでたよ」

「へえ。俺んちは泥がひどいやつ、最初に水につけてた」

「家によって違うんだね」


テイルは上着を水へ沈める。

「店の布って結構汚れるんだよ。荷物にかけるやつとか、床拭くやつとか」

「商人の家って、もっと帳簿とか値段の話ばっかりしてるのかと思ってた」


「誰かが洗わなきゃ布は勝手に綺麗にならないだろ」

「知っててもやらなそうだよね」

「やってたって」


そう言いながら、テイルは洗濯板の上で布を手際よく動かしていく。

一定の速さでこすり、水ですすぎ、また汚れを確認する。


エリナは少し感心した。

「こういうの本当に器用だね」

「こういうのってなんだよ」

「細かい作業」

「これ細かい作業か?」

「手の動きがなんか細かい」

「なんだよそれ」


隣では、シアルも黙々と自分の上着を洗っていた。

洗濯自体には慣れているらしい。

ただ。

ごしっ。

ごしっ。

妙に音が強い。


テイルが横を見る。

「シアル」

「なんだ」

「厚手だからって力入れすぎじゃない?」


シアルが手を止める。

「普通にやってるつもりなんだが」

「それ、洗ってるっていうか戦ってるぞ」


エリナも布を見る。

「破れてはないけど……もうちょっと優しくてもいいかも」

「そうか」

シアルは少しだけ力を抜く。

ごし。

今度は音が小さくなった。


「これくらいか」

「うん」

「難しいな」

「洗濯でそんな真剣になる?」

「破いたら買い直しだろ」


その一言に、エリナはすぐ頷いた。

「布と戦っちゃダメ」

「すごい気持ち入った言い方」

テイルが笑う。


同じ洗濯でも、三人のやり方は少しずつ違った。


テイルは汚れの強いものを先に水へつける。

エリナは汚れた場所だけを先に揉み洗いする。

シアルは一枚ずつ、すすぎ残しがないか妙に丁寧に確認している。


「シアルって、そういうところ細かいよね」

「汚れが残ってたら洗った意味ないだろ」

「武器の手入れしてるときと同じ顔してる」

「そんな顔あるのか?」

「ある」

テイルとエリナの声が重なった。


しばらくして。

三人ともだんだん無言になっていった。

水をくむ。

洗う。

すすぐ。

絞る。

冒険とはまるで関係ない作業なのに、三人でやっていると妙に退屈しない。


「これで最後かな」

エリナが洗い終わった服を絞る。

その横で、テイルが勢いよく布をすすいだ。


ばしゃっ。

「冷たっ!」


水しぶきがエリナの頬に飛ぶ。

テイルが止まった。

「……事故」

「今の絶対わざとでしょ」

「違うって」

「ほんとに?」

「ほんとほんと」


エリナはじっとテイルを見る。

テイルは、どう見ても笑いをこらえていた。

エリナは水の中に手を入れ、軽く振った。

ばしゃ。


今度はテイルの顔に水が飛ぶ。

「冷てっ!」

「事故」

「仕返しだろ!」

「事故だよ」

「笑ってるじゃん!」


その横で、シアルが二人を見る。

「周りにかけるなよ」

「シアルは真面目だなあ」

テイルがそう言った瞬間。

ばしゃっ。


今度は、テイルのすすいだ水がシアルの腕に飛んだ。

三人とも止まる。


シアルがゆっくり濡れた袖を見る。

「……テイル」

「事故」

「さっきから事故多くない?」

エリナが笑う。


シアルは何も言わず、タライを持った。

「え」

テイルが一歩引く。

ばしゃっ

タライの中の水が、テイルの胸元に飛んだ。


「冷てえ!」

「事故だ」

「絶対違うだろ!」

「事故だ」


エリナは笑った。

「シアルまでやるんだ」

「一回やられたから一回だ」

「たまにやりすぎなんだよ」


今度は三人で笑った。

それ以上は騒がず、また洗濯へ戻った。


昼前。

ようやく全部洗い終わった。


三人は広場の物干しへ、洗った服を一枚ずつ掛けていく。

冒険用の上着。

普段着。

下に着る薄手の服。

小さな布類。


風が吹くたび、並んだ服がゆっくり揺れた。


「結構あったな」

テイルがその場に座り込む。

「最近忙しかったしね」

エリナも隣へ腰を下ろした。

シアルは並んだ服を見上げる。


「これでしばらく大丈夫だな」

「そうだね、でもまたたまりそう」

「汚れたら洗えばいい」

「そりゃそうだ」


暖かな日差しが広場へ降り注ぎ、風が洗いたての服を揺らしている。


乾くまで、することは特にない。

エリナはぼんやり空を眺めた。

昨日まで街の外で寝泊まりしていたのに。

今日は三人で洗濯物が乾くのを待っている。

そんな日も、悪くない気がした。


しばらくして。

エリナが乾いた上着を取り込む。

布を顔へ近づけると、ほんのり暖かい。


「いい匂い」

「お日様の?」

「うん」


テイルも自分の上着を取る。

「泥の匂い消えたな」

「洗ったんだから当然でしょ」

「昨日の状態からだと感動するぞ」


シアルも自分の服を畳みながら頷く。

「これなら明日からまた使える」

その言葉を聞いて、テイルが笑った。

「じゃあ明日は何の依頼にする?」

「もう明日の話?」


「今日は休んだだろ」

「洗濯してたけど」

「休みみたいなもんだろ」

エリナはきれいになった服を抱える。


「じゃあ、帰りに掲示板だけ見てみる?」

「賛成」

「賛成」

三人は洗濯物を抱えて、並んでギルドへ戻っていく。


冒険者になったからといって、毎日が冒険になるわけじゃない。


洗濯をして。

服が乾くのを待って。

明日の依頼を考える。


街に来る前は、冒険者になれば毎日が戦いなのだとばかり思っていた。


だけど、こうして並んで服を干しているだけの時間も、三人でいると、なぜかとても大切に思えた。

第一章は毎日19時に更新します!

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