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白銀の足跡 ~少女の旅路~ 愛おしい冒険者生活  作者: 火年
第一章 リヴェルからエルフの街へ
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第11話 遠征依頼達成

翌朝。

エリナが目を覚ますと、テントの布越しに淡い光が差し込んでいた。


外へ出る。

昨夜まで星でいっぱいだった空は明るくなり、清流の丘には朝露が残っている。

小川の流れる音だけが、静かな朝に響いていた。


「おはよう」

すでに起きていたシアルが、焚き火の跡を片づけている。

少し遅れて、テイルもテントから這い出してきた。


「……体痛い」

「昨日あんなに冒険者っぽいこと言ってたくせに」

「冒険者だって地面で寝たら体は痛いだろ」


それはそうかもしれない。


朝食は、昨日残しておいたウサギ肉だった。

冷めてはいたものの、香草の香りはまだ残っている。


「帰りもウサギ獲れたらいいね」

エリナが言うと、テイルが肉を頬張りながら頷いた。

「昨日のやつなら毎日でもいい」

「そうだな」


二人とも気に入ってくれたみたいで、エリナは少し嬉しくなった。


「また作るね」


食事を終えると、三人でテントをたたむ。

昨日はあれだけ苦労したのに、撤収は驚くほど簡単だった。


「立てるのにはあんなに時間かかったのにな」

「次はもう少し早くできるでしょ」

「たぶんな」


荷物をまとめ、青色薬草の入った籠を確認する。

「よし。帰ろう」

初めての遠征も、あとは帰るだけだ。


昼前。


街道脇の草むらが、不自然に揺れた。

エリナが足を止める。


「何かいる」

三人の空気が変わった。


シアルが剣を抜いて盾を構える。

テイルも片手剣を抜いた。

しばらく待つと、茂みの奥から小さな影が現れた。


緑がかった肌。

曲がった鼻。

ぼろぼろの布を腰に巻き、短い棒を持っている。


「ゴブリン……」

エリナが小さく呟いた。


以前、森で死体を見たことはある。


けれど、生きて動いているゴブリンを見るのは初めてだった。

エリナが弓を構える。


テイルが一歩出た。

「たまには俺たちがやるか」

「二人で?」

「一匹だけだしな」

シアルも静かに前へ出る。


「エリナは後ろを見ててくれ」

「分かった」

エリナは矢を一本つがえたまま、周囲へ目を配った。


ゴブリンがシアルへ向かって走ってくる。

振り上げられた棒を、シアルは盾で正面から受けた。

鈍い音。

けれどシアルはほとんど動かない。

むしろゴブリンの体勢が崩れた。


その瞬間。

横へ回っていたテイルが、一気に踏み込んだ。

片手剣を振り抜く。

一撃。

ゴブリンが地面へ倒れた。


「……終わり?」

エリナが目を丸くする。

テイルが剣についた汚れを落とした。

「一匹ならこんなもんだろ」

「余裕だな」

シアルも盾を確認する。


「昔、親父に何度か連れていかれたことがあるからな」

「魔物狩り?」

「練習でな。弱いやつだけだけど」


テイルが笑う。

「俺も混ぜてもらった」

「テイルも?」

「シアルが行くって聞いたら、面白そうだったから」

「昔から変わってないね」


二人に魔物相手の経験が少しあったことを、エリナは初めて知った。

普段はくだらない話ばかりしていたせいか、二人が少しだけ頼もしく見える。


「何だよ、その顔」

「別に」

エリナは弓を背負い直した。


「ちょっと見直しただけ」

「ちょっとだけかよ」

本当は、ちょっとどころではなかったけれど。


それ以降は何事もなく、三人は夕方前にリヴェルへ戻った。

「おかえりなさい」

リオネがいつもの笑顔で迎える。


借りていた野営道具を返し、青色薬草の籠をカウンターへ置く。

リオネが中身を確認した。

「うん。十分ね。傷んでいるものもほとんどないわ」

報酬が三人へ渡される。


エリナは手の中の硬貨を見て、思わず数え直した。

「……多い」

ウサギ狩りとは明らかに違う。


「遠い場所まで行く依頼だからね。一泊も必要だったし、その分報酬も高くなってるの」

「遠征、やっぱいいな」

テイルが笑う。

「毎回安全とは限らないけどね」

リオネがすぐ釘を刺した。


エリナは帰り道で会ったゴブリンについても報告した。

すると、リオネの表情が少しだけ真面目になる。

「一匹だけ?」

「はい。他にはいませんでした」

「分かったわ。一応記録しておく」


リオネは少し考えてから続けた。

「最近、目撃情報が多いから、中堅の冒険者に周辺を見てもらいましょう」

「俺たちが探さなくていいのか?」

テイルが聞く。

「やめておきなさい」

シアルも頷く。


「親父にも言われた。ゴブリンは数匹なら大したことなくても、巣になると話が変わるって」

「そういうこと。見つけても新人だけで入っちゃだめよ」

「はーい」

テイルは素直に引き下がった。


そのときだった。

エリナは、リオネの手元に置かれた一枚の紙に目を止めた。


「あれ?」

依頼書の端に、キノコの絵が描かれている。

丸い傘。

少し赤みがかった色。

昨日、六個も見つけた――。


エリナが紙へ顔を近づける。

「これ……赤ツブキノコ?」

「あら、知ってるの?」

「昨日食べました」


リオネの動きが止まった。


「……食べたの?」

「はい。六個」

「六個?」

「三人で、おいしく」


リオネはしばらく黙り、それから依頼書をエリナへ向けた。

そこには赤ツブキノコの採取依頼と、報酬額が書かれている。


エリナは数字を見る。

もう一度見る。


そして、今受け取ったばかりの報酬を見る。


「…………え?」

テイルも横から覗き込んだ。

「一個で?」

シアルも見る。

「……一個で、今回の依頼の報酬と同じくらいあるな」


沈黙。

昨日。

焚き火の前で。

六個。

「もう一本」

「おいしい色に見えてきた」

そんなことを言いながら、全部食べた。


テイルが遠い目をした。

「そりゃうまいわけだ……」

「確かにうまかったけど……」

シアルまで呟いている。


エリナは依頼書を見つめたまま、拳を握った。

食べられるキノコは分かる。

おいしいキノコも分かる。

でも。

値段までは知らなかった。


「……決めた」

「何を?」

エリナは真剣な顔で二人を見る。

「これからは、食べられるかどうかだけじゃなくて、値段も覚える」

テイルが肩を叩いた。

「それがいい」

シアルも静かに頷いた。

「……それにしても、一晩でそんな贅沢しちまったのか」


テイルが自分の腹をさすりながら、天を仰いだ。

「確かにうまかった。食ったことないくらいうまかった。それにしても、あのキノコ一個でウサギ何羽分だよ……」

「俺、しばらく安い干し肉を噛みちぎるたびに、あのキノコ食わなきゃよかったって泣きそうだわ」

初めての遠征で得たものは、報酬と経験。

そして。

おいしいものほど、食べる前に値段を確認した方がいいという教訓だった。

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