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白銀の足跡 ~少女の旅路~ 愛おしい冒険者生活  作者: 火年
第一章 リヴェルからエルフの街へ
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第10話 遠征出発!――おいしい赤いキノコ、おひとついかがですか?滅多に取れないおいしいキノコ!

エリナたちは、いつもより少し大きな荷物を背負ってギルドを出た。


「重っ……」

テイルが肩を回す。


背中には、ギルドから借りた三人用のテントと野営道具がまとめて括りつけられていた。


「文句言わない。貸してもらえるだけありがたいでしょ」

「エリナの荷物、軽くない?」


「料理道具と食料持ってるから軽くないよ」

「じゃあ俺と交換する?」

「しない」


「まあ、初めてなんだし。荷物は少し多いくらいでいいだろ」

「持ってないから言えるんだよ」

「ジャンケンで決めただろ、文句言うな」


カウンターから出てきたリオネが、そんな三人を見て笑った。


「日が落ちる前に野営場所を決めること。それと、怪我だけはしないで帰ってきてね」

「はい!」

エリナが答える。

テイルが街の門へ向かって腕を上げた。

「よし、行くか! 初めての遠征!」


三人は、いつもより長い道のりを歩き出した。


朝のうちは涼しかった。

けれど太陽が高くなるにつれて、背中の荷物がじわじわ重く感じてくる。


「そういえば」

歩きながらシアルが言った。

「昨日の毒キノコ食べた連中、相当うなされてたらしいぞ」

テイルが嫌そうな顔をした。

「俺たちが腹壊して寝込んだら終わりだぞ。蓄えなんてないからな」

「治った後も辛そうだね、それ」

「新人なんてそんなもんだよ」

テイルは大げさに首を振る。


「怪しいものは絶対食わない。これ大事」

「それは賛成」

シアルも頷いた。

その直後だった。

「あっ!」

エリナが突然、街道脇へ駆け出した。

「何だ?」

「見て!」

木の根元に、赤みがかったキノコがいくつも生えている。


エリナの目が輝いた。

「赤ツブキノコ! 六個もある!」

「おい!」

テイルとシアルの声が重なった。

「今! 今なんの話してた!?」

「キノコの話?」

「毒キノコの話だよ!」

「これは食べられるよ」


エリナは気にせずしゃがみ込み、一つずつ丁寧に採っていく。

テイルが真っ赤な傘を覗き込んだ。


「どう見ても警告色だろ」

「村でも年に一回くらいしか採れなかったくらい珍しいんだよ。すごくおいしいんだから」

「その情報で安心できると思うか?」

「安心できないの?」

「できない」


エリナは納得いかない顔をしながら、キノコを布袋へしまった。


そのとき、少し先の茂みが揺れる。

エリナの目がそちらへ向いた。

「ウサギ」

今度は二人とも何も言わなかった。

エリナが弓を構える。

一射。

短い音とともに矢が飛び、ウサギが草の上へ倒れた。


「……やっぱりそれはすごいな」

テイルが言う。

「それって言わないで」

「赤いキノコの後だとつい」

シアルが淡々と付け加えた。

「ちゃんと食べられるのに!」


昼を少し過ぎた頃、三人は目的地へ着いた。

なだらかな丘の下を、澄んだ小川が流れている。

清流の丘。

青みがかった細長い葉が、丘の斜面にまとまって生えていた。

今回の依頼は、ここに生えている青色薬草の採取だった。


「これ?」

テイルが一本摘む。

「根元から抜くなよ。葉だけでいい」

シアルが止める。

「分かってるって」

三人で手分けして集めると、思ったより早く籠がいっぱいになった。


「よし。依頼分はこれで十分だな」

シアルが籠を確認する。

エリナは空を見上げた。


「まだ明るいけど、今日はここで泊まるんだよね」

「そうしよう。水もあるし、開けてる」

「じゃあテントだな」

テイルが背中の荷物を下ろした。


十分後。

「これ、どっちが入口?」

「さっきお前が持ってた方」

「紐余ってるぞ」

「余るものじゃないだろ」

「説明書ないの?」

「ない」


エリナは少し離れたところから二人を眺める。

「二人とも野営できるんじゃなかったの?」

「できる」

シアルが答える。

「この型のテントを使ったことがないだけだ」

「言い訳だ」

「お前も分かってないだろ」


結局、三人であれこれ言いながら、どうにか日が傾く前には形になった。

そして。


エリナにとっては、ここからが本番だった。

道中で仕留めたウサギの肉を切り分ける。

そこへ道中で摘んだ香草と、少しだけ塩を揉み込んでいく。


「そのまま焼かないのか?」

テイルが覗き込む。

「そのままだと硬くなりやすいから」


エリナは大きな葉を何枚も重ね、その中へ肉を包んだ。

「で、これを」

焚き火の灰を少し掘る。

包みを置く。

さらに灰をかぶせる。

「埋めた!?」

テイルが声を上げた。

「焦げないのか?」

シアルまで不安そうに見る。

「大丈夫だって」


しばらくして。

エリナが灰の中から包みを取り出した。

葉の表面は黒く焦げている。


「ほら、やっぱり焦げてる!」

「外側だけ」

「こんなの食えるのか?」

ナイフで包みを開く。

じゅわっ。

熱い肉汁が葉の上へ流れた。


同時に、香草の爽やかな匂いと焼けた肉の香りがふわりと広がる。

テイルが黙った。

シアルも黙った。

「……食べる?」

「食べる」

「食べる」


一口。

テイルの目が見開かれた。

「うまっ!」

続いてシアルも肉を噛む。

「柔らかいな」

「でしょ?」

「こんな変わるとは思わなかった……」


テイルはもう次の一切れを取っている。

エリナも満足しながら、自分の分を口へ運んだ。

焼けた香草の匂い。

肉汁。

少し濃い塩味。

歩き疲れた体には、それだけで十分なごちそうだった。


「それでね」

エリナが布袋を取り出す。


テイルの手が止まる。

「まさか」

「赤ツブキノコ」

「やめとこう」

「まだ何も言ってない!」


エリナはキノコを串へ刺し、焚き火の上で軽く炙る。

表面に少し焼き色がついたところに塩をかけた。


「これが一番おいしい食べ方なんだから」

「色が怖いんだよ」

「食べ物の色じゃない」

「食べ物だよ!」

「安全なものしか食べないって決めたじゃん」

「安全なものだから食べるんでしょ」


エリナはそのまま一口で食べた。

噛んだ瞬間、顔が緩む。

「んー、おいしい!」

テイルとシアルが顔を見合わせる。


しばらく待つ。

「……何?」

「倒れないか見てる」

「倒れないよ!」


エリナはもう二つ目を焼いている。

テイルが恐る恐る一本取った。

「まあ、ウサギは完璧だったしな……」

「キノコも信用してみるか」


一口。


テイルが止まった。

「……うま」

「舌にしびれは?」

「ない」

シアルも一本食べる。


噛んで、少しだけ目を見開いた。

「確かにうまい」

「でしょ!」

「もう一本」

「さっき色が怖いって言ってたよね?」

「おいしい色に見えてきた」

「赤いからって全部食べられるわけじゃないからね」


六個あった赤ツブキノコは、あっという間になくなった。


夜。

食事を終えた三人は、焚き火の前に並んで座っていた。

街の灯りはどこにもない。

見上げると、星が驚くほど多かった。


「……静かだな」

テイルが呟く。

「街とは全然違うね」

エリナも空を見上げた。

シアルが焚き火へ一本、薪を足す。

ぱち、と火の粉が上がった。


「なんかさ」

テイルが言った。

「本当に冒険者になったんだな」


誰もすぐには返さなかった。

街から歩いてきて。

依頼をこなして。

自分たちでテントを張って、ご飯を作って。

今は、三人で星を見ている。


エリナは膝を抱えながら、小さく笑った。

「うん」

初めて街の外で迎える夜は、思っていたよりずっと静かで、心地よかった。

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