第9話 ギルドへ報告――世の中いろんな魔獣がいるらしい!
「それで、白い子犬みたいなのとご飯を食べてたら、……ものすごく大きいのが出てきたんです」
ギルドへ戻ったエリナは、カウンター越しに今日の出来事を説明していた。
リオネは途中で口を挟まず、最後まで聞いてから小さく息を吐いた。
「白い毛。銀色に光って見える体毛。それに、あの森でその大きさなら……フェンリルで間違いないと思うわ」
「やっぱりそうなんだ……」
改めて言われると、急に現実味が増した。
テイルが隣で腕を組む。
「あのとき、急に寒くなったよな」
「見た瞬間、普通じゃないって分かった」
「でも子フェンリルはめちゃくちゃかわいかった」
三人はその時のことを思い出していた。
エリナはそこで、そっとポーチを押さえた。
中には、あの白い石が入っている。
「それと、これなんですけど……」
周囲を確認してから取り出すと、リオネの目がわずかに細くなった。
「……ずいぶん変わった石ね」
「フェンリルが置いていったんです」
「置いていった?」
「たぶん、子供にご飯あげたお礼だと思います」
リオネはしばらく白い石を眺めたものの、首を横に振った。
「私にも何なのかは分からないわ」
「少し預からせてもらっていい? ギルドで調べてみるわ」
「はい」
「すごい価値があるかもしれないから、念のため他の人には言わない方がいいわ」
「変に目立ちそうですよね」
「ええ。いろんな人がいるから気をつけて」
「それと、一応その場所は確認してもらうわ。子供を迎えに来ただけみたいだけど、森の浅い場所までフェンリルが出てきたのは事実だから」
そう言って、近くにいた冒険者たちへ目を向ける。
すると。
「おい、今フェンリルって言ったか?」
さっそく一人が食いついた。
「本当にいたのかよ!」
「森の主だぞ?」
あっという間に何人かが集まってくる。
「……なんか始まったな」
テイルが楽しそうに笑った。
「こういう話、好きそうだもんね」
エリナも少し前のめりになる。
髭の濃い冒険者が得意げに胸を張った。
「フェンリルもすげえが、俺は昔、超大型のドラゴンを見たことあるぞ」
「ドラゴン!?」
エリナが声を上げる。
「空飛んでたんだよ。でっかい翼を広げてな。遠くから見ただけなのに、山の上を影が流れていった」
「あれは火竜イグナディスだったかもな」
男は両手を大きく広げた。
「翼を一回動かすだけで、雲が崩れるみたいだった」
「そんなに大きいの?」
「ありゃ相当でかい!」
別の冒険者が笑った。
「ドラゴンもすごいけど、海の方じゃ船よりでかいイカが出るって話だぞ」
「船より?」
テイルが目を丸くする。
「足だけで船をひっくり返すって話だ」
「絶対海行きたくない」
エリナが即答した。
「いやいや、海ならシーサーペントだろ」
別の男が割って入る。
「何それ?」
「海にいる長い竜みたいな魔物だ。船の横に並んで泳ぐだけで、乗ってる奴ら全員黙るらしいぞ」
「襲ってくるのか?」
シアルが聞く。
「基本は無視される。けど機嫌が悪いと、一噛みで船が真っ二つだ。乗ってる奴らは黙って祈るしかないぞ」
「それは怖すぎるだろ」
テイルが笑った。
すると、奥で酒を飲んでいた年配の冒険者が鼻を鳴らした。
「まぁ見やすいのはあれだな」
「なんだよ、じいさん。何か見たことあんのか?」
「フェニックスなら見たことある」
「本当に?」
「あいつは敵意がない人間には無関心だからな」
老人は杯を置いた。
「夕焼けより赤い鳥だった。羽ばたくたびに、火の粉みたいな光が落ちてたよ」
「燃えてるの?」
「燃えてるように見えた。でも森は焼けなかった」
「……すごいな」
「運がよければ見ることもあるかもな」
シアルが珍しく素直に呟いた。
その後も冒険者たちの話は止まらなかった。
テイルは目を輝かせる。
「なあ、そういうのって探しに行けば会えるのか?」
「観光みたいなものはある、それ以外はやめとけ」
「観光なんてあるの?」
「ドラゴンが来る街がある。そこではちょっと離れたところで見れるぞ」
「他はやめとけ」
「出くわすのが幸運か不運か分からん連中だからな」
「フェンリルに会って無事だっただけで十分だ」
笑い声が広がる。
エリナはその話を聞きながら、少しだけ胸が弾んでいた。
怖い。
でも、知らない世界には、まだそんなものが本当にいる。
「いつか見てみたい」
テイルが言う。
「俺も」
シアルも頷いた。
「私も……ドラゴンはちょっと見たいかも」
「観光なんて飼いならしてるのかな?」
「どうなんだろう」
ひとしきり話を聞いたあと、三人は依頼掲示板の前へ移動した。
エリナは財布の中身を思い出す。
装備を揃えた分は、まだ完全には戻っていない。
「明日もウサギにする?」
「またか?」
「手堅いでしょ」
「俺たち、そろそろウサギ専門冒険者になりそうだな」
テイルが言う。
「ちゃんと報酬になるんだからいいの」
そのとき。
「ふふ。ウサギ狩りもいいけど」
カウンターの奥から、リオネが一枚の紙を持ってやってきた。
「あなたたち、そろそろちょっと遠出してみない?」
三人が振り返る。
「遠出?」
「街から歩いて片道1日かからないくらいの場所よ」
リオネは依頼書を掲示板へ置いた。
「本当は別のパーティーが行く予定だったんだけど……」
少し困ったように笑う。
「昨日、全員毒キノコを食べて寝込んじゃったの」
「全員?」
「全員」
エリナは思わず顔をしかめた。
「ちゃんと見れば誰でもわかるのに……」
テイルが依頼書を覗き込む。
「さすがにこの距離、一日じゃ帰ってこられないな」
「そうね。一泊する予定になるわ。テントとかは今回、無料で貸し出すから」
その言葉に、三人の空気が変わった。
野営。
街から離れた場所。
初めての一泊。
エリナはシアルとテイルを見る。
二人も同じようにこちらを見ていた。
「遠征……!」
明日は、初めて街の外で夜を越す。
エリナは、依頼書をもう一度見つめた。
三人は顔を合わせ頷いた。
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