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第26話 蒼き空の騎士、明日へと続く航跡

1. 国民への告白:断罪と救済の演説


 エグザルティアの長い夜が、ついに明けた。


 邪神の呪縛から解き放たれ、本来の白銀の輝きを取り戻した王城。そのバルコニーに、ボロボロに傷つき、汚れ、しかしその瞳に確固たる光を宿した三人の姿があった。


「……すげえな」


 ジークはバルコニーの下に集まる人々を見て思わず呟いた。中央広場には、すでに多くの人々が集まってきており、何が起きたのかと騒々しく話す声が何層にも重なって聞こえてくる。


「……アル、大丈夫?」


 エリーゼが心配そうにアルトリウスの顔を見ると、アルトリウスは努めて笑顔で答えた。


「ありがとう、エリーゼ。でも、今、この場できちんと説明することが、王家としての僕の務めだからね」


 そう言って、バルコニーからもう一度、広場の人々を見下ろした。


 広場を埋め尽くすのは、真実を知らぬまま「聖君」と慕ったウィル王を失い、愕然と立ち尽くす数万の国民たち。静寂が痛いほどに広がる中、アルトリウスは王家の紋章が刻まれた「光の盾」を背に、ゆっくりと一歩前へ踏み出した。


「国民の皆に、伝えなければならない真実がある」


 その声は、城に施された広声の魔導によって、王都の隅々にまで響き渡った。


 アルトリウスは、叔父ウィルが邪神ルミナリス・シャドウに魅入られ、取り返しのつかない罪を犯したことを包み隠さず語った。アシュベリーの惨劇、そして偽りの統治。どよめきと悲鳴が波のように広がる。しかし、アルトリウスは民衆の動揺を真っ向から受け止め、さらに声を張った。


「……だが、知ってほしい。彼が最期まで抗い続け、あの炎の中で私を逃がしたのも、また真実であったということを。彼は邪神の操り人形として国を壊したのではない。愛するこの国を守り、私という希望を繋ぐために、自らの魂を地獄に売り渡してでも踏み止まろうとしたのだ」


 アルトリウスは、最期に見せた叔父の優しい笑顔を思い出しながら、力強く言葉を紡ぐ。


 それは、ウィルがこれまで行ってきた、国民に対する真実の姿、邪悪に染まりながらも賢王として振る舞ってきた本当の彼の姿を、正しく伝えたいという真摯な思いだった。


「私は、彼を許すことはしない。だが、彼が最期に託した想いまでを否定することもしない。私はウィル・エグザルティアの誇りとして、そしてこの国を愛する一人の戦士として、崩れ去ったこの国を必ずや再建する。それは、罪を背負って消えた彼への、唯一の弔いとなるからだ」


 静まり返っていた広場に、やがて小さなすすり泣きが広がる。そして、しばらくするとところどころから肯定の喝采が起こり始め、やがて地を這うような、広場全体を埋め尽くす歓声となって響き渡っていった。それは、偽りの平穏を脱ぎ捨て、真実の痛みと共に歩み始める国の、産声であった。


2. 置かれた王冠、騎士としての選択


 季節は巡り、数カ月が経過した。


 王都の復興は驚異的な速度で進んでいた。ジークが裏社会のネットワークを駆使して物資の流通を整え、エリーゼが各国の魔導師たちと連携して結界の再構築を指揮した功績は大きい。


 復興作業が一段落したある日、エリオスは王宮の奥底、歴代王の肖像が並ぶ広間で、一振りの豪華な王冠を静かに台座へと置いた。


「……本当にいいのですか。エリオス陛下」


 かつての近衛兵たちが困惑した表情で彼を見つめる。


「陛下はやめてくれ。国政は、既に君たち信頼できる重臣たちが合議制で回せる仕組みを整えた。今のこの国に必要なのは、絶対的な王ではない。民と共に土にまみれ、汗を流す指導者たちだ」


 エリオスは王族の華美な礼装を脱ぎ捨て、旅を共にしてきた、あの懐かしい獅子の鎧を身に纏った。そして、アルトリウスとして歩き始める。


「私は王座に座り、書類に印を突くよりも、この剣を持って世界を見届けることを選んだ。空からこの国を見守り、魔物の脅威から民を護る。それが、私が選んだ『王の責務』の形だ」


 彼は迷いのない足取りで、親友たちが待つ空中甲板へと向かった。


3. 終わらない旅路、再び空へ


 黄金色の夕日に照らされた古代飛空艇の甲板。


 そこには、ウィンダミアでガレットへの報告を済ませて戻ってきたエリーゼと、相変わらず手癖悪く航法装置をいじっているジークの姿があった。


「ちょっと!あんた、本当に王様辞めちゃってよかったの!?もったいないわね、私が王妃になってあげて、国庫を全部私の自由にしようと思ってたのに!」


 エリーゼは腰に手を当て、いつものように頬を膨らませて叫んだ。


「ははは。エリーゼ、別にやめたわけじゃないよ。ただ、ちょっとした『お休み』をもらっているだけさ。それに……」


 アルトリウスは一歩彼女に近づき、いたずらっぽく微笑んだ。


「ああいった堅苦しい王座に縛られるよりも、君の『アクセサリーの騎士』として隣にいる方が、僕の性には合っているんだ」

「な、ななな……何言ってんのよ、このバカ騎士!アクセサリーなんだから、ちょっとは私の言うことを聞きなさいよ!」


 顔を真っ赤にして地団駄を踏むエリーゼを、ジークが呆れたように眺める。


「やれやれ。王様になっても、結局はお嬢様の尻に敷かれる運命か。……ま、俺も退屈な城暮らしよりは、このガラクタ船で世界中のお宝を探す方が性に合ってるがね」


 そう言うと、ジークは飛空艇の魔導エンジンを作動させ、ゆっくりとその巨体を空に浮かび上がらせた。そして、操舵輪を大きく切ると、その魔導エンジンが歓喜の咆哮を上げ、三人を乗せた船は、輝く夕日を追い越すようにして、再び広大な空へと飛び出した。


 邪神は闇の中に封印された。しかし、世界には未だその爪痕が残り、魔物たちが各地で跳梁跋扈している。それらを取り除き、真の平和を築き上げるのは容易なことではない。しかしそれこそが、彼らが今まさに立ち向かおうとしている、果てなき明日への課題だった。


 野望に燃える、誰よりも計算高く、それでいて誰よりも情深い少女。


 その少女がついた嘘を、命懸けの戦いを通じて「真実の絆」へと変えてみせた、記憶喪失の騎士。


 そして、その光を支え、闇を射抜く監視者の影を背負った詐欺師。 


 彼らの冒険は、ここで終わるわけではない。


 伝説の翼は、新たな物語のページをめくるように、どこまでも高く、蒼き空の彼方へと加速していく。


 エグザルティアの地に真の夜明けを連れてきた三人の旅路は、これからもずっと続いていくのだから。



ご覧いただきありがとうございました!

次回の第27話は、この後【18:40】に更新予定です。

■第27話 (幕間)消えゆく灯火、守護者の残照


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