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第14話 月下の告白、アクセサリーの騎士

1. 沈黙を破る巨影、古代船「光の船」


 西の岬『レリック・ヴェイン』での死闘を終え、一行は夕闇に包まれ始めたリアルドの村へと帰還した。疲労はピークに達していたが、光の盾の輝きと達成感で三人の表情は清々しく、笑顔での凱旋であった。一行はそのまま休むこともなく、ルネの元へと向かった。


「それは……、まさしく光の盾……!」


 ルネは大きな目をさらに大きく見開き、驚きとともに喜びの表情で三人を迎えた。そして、三人は伝承の守り手であるルネの導きに従い、その足である場所へと向かった。辿り着いたのは村の最果て、荒波が牙を剥く断崖絶壁の直下であった。


「……ここです。言い伝えによれば、この場所が、伝説の古代船『光の船』の眠る場所……。光の剣と光の盾が共鳴する時、大いなる祝福が姿を現す……」


 海風が吹き荒れ、白波が岩肌を噛む音だけが響く中、アルトリウスが「光の剣」を抜き放ち、覚醒したばかりの「光の盾」を高く天へと掲げた。


「……何かを感じる」


 アルトリウスが感じた気配に呼応するかのように、海底から眩い白光が噴き出し、入り江全体を包み込んだ。


 ゴゴゴゴゴ……と、心臓を揺さぶるような地鳴りが響き渡る。静かだった海面が、あたかも巨大な生物が浮かび上がってきたかのように半球状に盛り上がり、やがて海を割って、数百年もの永きにわたり海底の砂に埋もれていた『古代船』が、大量の飛沫と輝く水柱を上げながらその雄姿を現した。


 それは失われた超技術の結晶であった。船体は夕日の中で左右にゆっくりと揺れながら、三本のマストはまるで周囲の魔力を吸収しているかのように自ら輝いていた。


「……嘘みたい。本当に、おじい様の古文書にあった通りの船が……」


 崖の下から見上げるエリーゼは、ただただ言葉を失っていた。この船ならば、荒れ狂う海さえも容易く乗り越えて世界のどこへでも行けるはずだ。三百年の眠りを破り、伝説が現実となった瞬間。船体からは、周囲を祝福するような柔らかな光が静かに溢れていた。


2. 故郷の灯と、ガレットへの想い


 そして一行は、古代船へ静かに乗り込んだ。アルトリウスがエリーゼに手を伸ばすと、エリーゼはその手をしっかりと握りしめ、これから始まる航海の旅に決意を新たにした。


「ルネ、ありがとう……」

「ううん、エリーゼも、気をつけて」


 船がゆっくりと岸を離れていく。ルネはいつまでも手を振っていた。エリーゼは甲板から、次第に遠ざかっていく故郷の灯りを見つめながら、お気に入りの帽子を被り直す。そして、一度空を見上げると、二人の方に向き直った。


「ねえ、アルトリウス、ジーク。今回の旅、成り行きでここまで来ちゃったけど……」


 彼女の脳裏に浮かぶのは、辺境の村ウィンダミアで自分を待っているはずの祖父、ガレットの顔だった。最初は自分の爆破テロ容疑を晴らすための、逃避行のような旅だった。それがいつの間にか伝説の盾を覚醒させ、古代船を手に入れ、世界の命運を握る旅へと変わっていた。


「ちょっと、おじいちゃんが心配なの。お酒好きだし、今頃寂しくて泣いてるかもしれないわ……不健康な生活をしてないかしら。この船なら、すぐに戻れるわよね?」


 エリーゼの心細げな問いに、マストの魔導点検をしていたジークが、白い歯を見せてニカっと笑った。


「おう、もちろんだぜ、お嬢様!この『光の船』なら、ウィンダミアなんてあっという間のひとっ走りさ。……ま、ガレットじいさんが寂しがってるか、それともあんたがいなくて伸び伸びしてるか……。フハハ、そうだな、これ幸いとお宝の酒を飲み尽くしてる、ってほうに賭けてもいいぜ?」

「なんですって!?……まったく。おじいちゃんはそんな人じゃないわ!勝手なこと言わないで。でも寂しくしてなければ良いけど」


 エリーゼは頬をリスのように膨らませて怒ってみせたが、その瞳の奥には、祖父への深い愛情と、無事に帰ってこれまでの冒険譚を自慢したいという、優しい家族の光が宿っていた。


3. 船上の告白、「君のための騎士」


 夕日が海面を燃えるようなオレンジ色に染め上げ、その中を滑るように進む古代船の甲板。


 アルトリウスは一人、舳先に立ち、盾と共鳴して幾分輝きを取り戻した「光の剣」を見つめていた。まだ完全に本来の力は取り戻せてはいないが、これまでいくつもの戦いでアルトリウスを救ってきた曇りのない剣身には、かつて王宮で磨き上げられた剣技の残響が宿り、静かに脈打っている。


「エリーゼ。……まだ、全ての記憶が戻ったわけじゃないんだ」


 背後から、静かに忍び寄るようなエリーゼの気配を感じ、彼は剣を鞘に収めると、意を決して彼女の方へと向き直った。


「今回の、シルヴァという凄腕の剣士との戦い……。そして、君の故郷で盾が目覚めた瞬間に感じたあの懐かしさ……。それらを通じて、僕は確信した。僕は……エグザルティアの王子、エリオスだ。それを少しだけ…、ほんの少しだけだけど、思い出したんだ。あの日、アシュベリーという街で裏切られ、すべてを失ったのは……僕だったんだ」


 エリーゼは一瞬、息を呑んで立ち尽くした。最初に出会った時の、泥まみれで自らの名すら失っていた男が、本当に伝説の血を引く王子であったという衝撃。しかし、それ以上に彼女の心を揺さぶったのは、その後のアルトリウスの言葉だった。


「でも、今僕がここにいて、こうしてみんなと一緒に空を見上げることができるのは……他でもない、君が僕を拾ってくれたからだ。君が僕を『アルトリウス』と呼んで、この旅に連れ出してくれたからだ」


 アルトリウスは、一歩も引かずにエリーゼの瞳を真っ直ぐに見据えた。


「だから、ここでは僕はアルトリウスだよ。君のために、君の騎士として戦うよ」


4. アクセサリーの騎士と、満月の夜


 あまりに真剣で、あまりに甘いその騎士の誓いに、エリーゼは言葉を失った。心臓がうるさいほどに鳴り、顔が火照って真っ赤になる。


「……な、なによ。改まって真面目な顔して、急にバカなこと言わないでよ!」


 彼女は耐えきれなくなり、照れ隠しにバシッと、彼の白銀の甲冑の背中を全力で叩いた。パァンと高い音が甲板に響き渡る。


「いい?みんな自分のために戦っているの!勘違いしないでよね!あんたも、私の持ち物……そう、ただの『アクセサリー』なんだから!私の許可なく勝手な誓いなんて立ててないで行くわよ!」


 彼女は顔を伏せ、耳まで赤くしたまま、逃げるように足早に舳先を離れていった。だが、その足取りはどこか弾むように軽く、アルトリウスもまた、彼女が叩いた背中の熱さを心地よく感じながら、その背中を追った。


「……へっ、聞いてらんねえぜ。お熱いのは勝手だが、帆の調整くらいは手伝えよな、『騎士様』と『お姫様』」


 少し離れた甲板の上で、ジークが肩をすくめてため息をついた。


 それぞれの胸に秘めた想いを乗せ、古代船は夜の海を滑るように、そして力強く進む。目指すは、全ての物語が始まった地、ウィンダミア。そこには、邪神に呑まれたウィルの脅威を打ち破り、真実を掴み取るための新たな扉が待っているはずだった。


 日は完全に沈み、三人を祝福するように満月の明かりが辺りを白銀に照らす。かつての絶望を希望へと塗り替えるための航海が、今、加速していく。アルトリウスの盾に刻まれた紋章が、月明かりの下で美しく瞬いていた。


ご覧いただきありがとうございました!

次回の第15話は、この後【18:40】に更新予定です。

■第15話 (幕間)亡国の叔父と血塗られた祈り


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