↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
13/32

第13話 リアルドの光、盾の目覚め

1. 巫女の聖域「ソラス」、燐光の記憶


 軍事国家メリディウスの、鉄と硝煙が混じり合う殺伐とした空気とは対照的に、聖都ソラスは眩いほどの光と水の祝福に包まれていた。


 天を突く白亜の宮殿と、その間を縫うように流れる、青く輝く運河。黄金の装飾が施された壮麗な門をくぐれば、そこには幾千もの花びらが舞う開放的な聖域が広がっている。


 かつてジークが駆け抜けた石畳には、陽光が作り出すプリズムのような光が踊り、人々の賑わいすらも清らかな調べとなって反響する。ここは、闇とは無縁の時間が流れているような場所であった。


 その神秘的な道を進みながら、ジークはふと足を止めた。


「……なつかしいな。またここに来ることがあるとはな……」


 普段の軽薄な調子を消したその声には、隠しきれない深い感傷と、祈りのような響きが混じっていた。


「なにか言った?」


 エリーゼが不思議そうに首を傾げると、ジークは一瞬だけ肩を震わせ、すぐにいつもの食えない、飄々とした笑みで取り繕った。


「何でもないぜ、気にすんな。ほら、先を急ごうぜ。この先は『人食い』の魔物が出るって評判だ。観光は後にしてくれよな、お嬢様」


 彼は誤魔化すように足早に歩き出したが、その視線は時折、巨木の合間に見える苔むした古い石碑や、かつて自分が知っていたはずの景色をなぞっていた。眩しく輝くソラスの街並みが、まるで過去を呼び起こすようにジークへと語りかけてくる。


「そういえば、ジーク。あなた、昔ここに来たことがあるって言ってたわよね? すっごい綺麗じゃない!」

「ああ、でもそんなことより、お嬢さん。リアルドが目的地だろ? のんびりしてる暇はないぜ」

「……あら、何そんなに急いでるのよ。ちょっとくらい大丈夫よ?」

「いや、まあなそうだな……。ま、しがない詐欺師の俺にとっちゃ、こんな『綺麗すぎる』所は少しばかり居心地悪い、ってところなのさ。さあ、行こうぜ」


 ジークにとって、この聖域はどのような場所だったのか。かつてここで何を得て、何を捨てて「詐欺師」を名乗るようになったのか。その問いに踏み込む間もなく、彼の背中に促されるようにして一行はソラスを後にした。


 次に目指すはリアルドの隣町、ハロウゲイト。聖域の奥から吹く冷涼な風が、彼の過去を封じ込めるように背中を撫で、通り過ぎていった。


2. エリーゼの自覚と「証」の継承


 霧深いハロウゲイトの村に入ると、一人の老人がエリーゼの姿を見て立ち止まった。しばらく訝しげに眺めていたが、突然手に持っていた杖を落として目を見開いた。


「おお……その目元、その凛とした佇まい……そしてその美しいエメラルドの髪……。まさか、リアルドの……。あの日、火を逃れた小さなお嬢様なのか……!」

「……まあ!私を……知ってるの?」


 老人は震える手でエリーゼの手を取り、彼女の両親がいかにこの村を愛し、守り抜いたかを、堰を切ったように語り始めた。


「わしはあの日、リアルドにいたんじゃ。あの人たちはな…、決して名声や富のためには戦っていなかった。ただ隣で笑う誰かの笑顔を守るために盾を掲げていたんじゃ。あんたのその力も、きっとそのためにあるはずじゃ」


 その言葉は、エリーゼの胸に激しい波紋を広げた。そして、やがて感情が溢れ、自然と涙がこぼれ落ちた。


 これまでの彼女にとって、魔力とは「力」そのものだった。周囲を圧倒し、バカにされないための武器、あるいは破壊するための衝動。それは自らの証明だった。そしてこれまで、その特殊な能力を自分のために使ってきた。


 しかし、本来はそうではない。これは大切なものを「守る」ために天から授かった光だったのだ。その確かな自覚が、浮ついていた彼女の魂に、ずしりとした重みと形を与え始めた。


 ハロウゲイトからリアルドまでは、もう目と鼻の先だ。一行は西に広がる「迷いの森」へと足を踏み入れた。ここを抜ければ、そこはもうリアルドである。


 途中、意思を持つかのように大樹が道を閉ざす森の最深部で、エリーゼがガレットから託された「星の羅針盤」が反応した。


 エリーゼはその針の指し示す方向に向け、星の羅針盤を高く掲げると、羅針盤が眩く明滅する。


 古の封印が解けるように巨大な根が地響きを立ててほどけていき、その先には、何百年もの間、主を待ち続けていたかのように整理された小部屋があった。


 中央の祭壇の上。そこには、一点の曇りもない「聖なる指輪」が置かれていた。ガレットが愛する孫娘のために、そして「光の英雄」の末裔としての真実を示すために、残しておいた証であった。


 エリーゼが震える指でその指輪をはめると、これまで体内で暴れていた魔力が、穏やかな聖歌を奏でるように安定し、清らかな力が四肢にみなぎるのを感じた。


「……待ってて。私、自分の役割が……この力を使う意味が、ようやく見えてきた気がする」


3. ルネとの再会、リアルドの希望


 ついに辿り着いた故郷、リアルド。潮風の香りと、瑞々しい新緑の匂いが混じり合う村の入り口で、三人を待っていたのは一人の少女、ルネだった。


 ルネは村の伝承を語り継ぐ家系であり、代々エリーゼの一族と共に歩んできた運命共同体であった。幼くして村を去ったエリーゼとは面識はなかったが、ルネはエリーゼの指先に光る指輪を見た瞬間、抱えていた籠を落とした。果物が地面に広がり、ルネは驚愕に立ち尽くした。


「……その指輪……本物なのね。リアルドの光が……私たちの希望が、帰ってきたんだ……!」


 ルネの瞳に浮かんだ大粒の涙と、村を挙げての温かな歓迎に、エリーゼは自分が本当の意味で「帰るべき場所」へ戻ってきたことを悟った。


 歓迎の宴が終わり、夜の静寂が訪れる。そして、ルネは村に伝わる三百年前からの秘められた言い伝えを、静かに、震える声で語り始めた。


「光の剣と光の盾が共鳴する時、海を往く古代船が再びその帆を上げると言われています……」


 エリーゼたちは静かにルネの言葉に耳を傾けていた。


「光の盾は、西の岬の奥深く、試練の洞窟『レリック・ヴェイン』に祀られています。でも、そこは……。今では守る主を失った守護者が、侵入するものを無差別に襲う大変危険な場所となってしまっているのです……」


 ルネの言葉は、かつての英雄たちが残した重い使命と、それに伴う危険を伝えていた。だが、今のエリーゼに迷いはない。彼女はルネの手を強く握りしめ、言った。


「ルネ、安心して。私がみんなを守ってあげる。それに、今はこんなにも心強い仲間もいるのよ」


 かつて両親が愛し、命を賭けて守ったこの村の平穏を、今度は自らの手で守り抜くことを静かに誓った。外では、潮騒の音が彼女たちの再会を祝うかのように、優しく、そして力強く響いていた。


4. 試練の洞窟レリック・ヴェイン


 一行は、ルネから受け取った「魂の鍵」を手に、西の岬に巨大な口を開ける洞窟「レリック・ヴェイン」へと足を踏み入れた。


 最深部。波の音が不気味に反響する巨大な祭壇の間で待ち受けていたのは岩石の巨体、古代の守護者「ゴーレム・ヴェイン」であった。守るべき主を失った守護者は、容赦なく侵入者に襲いかかってきた。


 アルトリウスの鋭い剣技も、ジークの電光石火の短剣も、守護者の強固な魔法装甲に火花を散らすだけで、無情にも弾き返される。


「くそっ、こいつ、メリディウスの戦車より硬え!」

「アルトリウス、下がって!」


 絶望が漂う窮地。アルトリウスが次の一撃に備えて身を低くした時、エリーゼが二人の前に真っ直ぐに飛び出した。その拳に宿ったのは、かつての周囲を威圧するだけの荒々しい熱量ではなく、眩いばかりの、そして温かな「浄化の光」であった。


「私が……もう二度と、誰も失わせない。みんなを……守る!」


 彼女の純粋な「守りたい」という祈りが、聖なる指輪、そして体内の魔力と完全に共鳴した。


 眩い閃光が爆発し、守護者の巨体を優しく、しかし抗いようのない力で包み込み、その荒ぶる闘争本能を鎮めていく。


 やがて、守護者は静かに膝をつき、認めたかのように道を開けた。祭壇に封じられていた、重厚な意匠の『光の盾』。アルトリウスが剣を、エリーゼが指輪を掲げた瞬間、三つの光が一点に収束し、盾が三百年の眠りから目覚めて白銀の輝きを放つ。


「光が…、光が共鳴してるわ……」


 溢れ出した聖なる光が、三人を優しく包み込み、辺りの静寂と共にその空間全体を神聖な空気で満たした。それは、海へと漕ぎ出す新たな叡智、古代船の再誕を告げる、希望の産声であった。


ご覧いただきありがとうございました!

次回の第14話は、この後【12:10】に更新予定です。

■第14話 月下の告白、アクセサリーの騎士


面白いと思ってくださったら、ぜひ【ブックマーク登録】や評価の【★】で応援をよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。