チョコより甘い時間を君と
今日は付き合ってから初めてのバレンタイン。
昔からチョコは貰ってたけど恋人になったからか前よりずっと特別に感じる。今年はどんなチョコが貰えるかな。……楽しみ。
そう朝までは思っていた。
……もう、昼なのに…えるからのチョコがない……。それなのに隣にいるえるは楽しそうに昼ごはんを食べている。あいつらには渡してたのに……。オレには、無いの……?いつ渡したのかは分からない。けど朝は持っていた袋が無くなっていたからきっと渡したんだ。
……今年は…貰えない…………?
心臓が潰されて、世界が遠ざかっていく。オレだけ、どこかに取り残されたみたいに、苦しくて…寂しい。
「さとみくん今日も私の部屋に来るよね?」
「……うん。行く」
「ふふっ良かった」
えるはどうしてそんなに楽しそうなの?朝からずっと、にこにこしてる。
……かわいいのに、オレはずっと苦しいよ────。
えるの部屋にいて、全てがえるで満たされてるのに今すぐうずくまりたい。……いつもならもっと嬉しいはずなのに。チョコが、ないから……。
「私の部屋で少しだけ待っててね」
「……わかった。待ってる」
そんなオレを置いてえるが部屋からいなくなる。
えるどうしたんだろ。いつもより楽しそうで……かわいい。……じゃなくて、チョコ……欲しい。
「……恋人になれたのに、今年は無し……───」
一人肩を落としていると少しだけドアが開き、えるがちょっとだけ顔を出していた。
「さとみくん。少し間だけ目を瞑っててほしいなって思ってるんだけど……いい、かな…?」
「……うん」
言われた通り目を瞑るとえるの足音が近づいてくるのがわかった。
「────目、開けていいよ」
その声を聞いてすぐに目を開けると、そこには
「──────! える、これ」
「───────さとみくん、いつもありがとう。大好きだよ」
どんなチョコよりも甘くて可愛いえるがいた。さっきまでの全部が吹き飛んで、嬉しさだけが心に残る。たまらなくなってえるに抱きついた。
「える────オレも、大好き」
「わっ、ふふ」
えるが優しく頭を撫でて抱きしめ返してくれる。ぎゅっと密着しているとえるからチョコの香りがして、オレのために作ってくれてるえるの姿が頭に浮かんできた。
「える好き。大好き。……好き、好き、好き好き好き好き───大好き」
「さ、さとみくん。そんなに言われると恥ずかしいよ……」
頬を染めながら上目がちでえるに見つめられ、心臓がおかしくなっていく。
「それに、チョコ!食べてほしいな。今日は恋人になって初めてのバレンタインだから……今までと違うことがしたくてチョコレートケーキ作ったんだよ」
改めてテーブルに置かれたケーキを見るとハートの形をしていた。……これがえるの気持ちなんだ。毎日満たされていく。どれだけ大きな瓶でも足りないくらいの幸せで。
「……食べる。えるも一緒に食べよ」
「いいの?……実はね、一緒に食べれたら嬉しいなって思ってたの。今まではさとみくんが食べてるところを見てたけど、恋人になったし…一緒に食べたりしたら二人の楽しい思い出が増えるかなって」
そう言ってはにかみながら笑うえるを見てオレの口角も自然と上がっていく。
「オレも同じ。だから、一緒に食べよえる」
「うん…!」
嬉しそうにぱあっと明るく笑って楽しそうに頷いて。その姿を見て朝から楽しそうだった理由がようやく分かった。えるはずっと、オレのこと考えてたんだ。好き同士のバレンタインだから。
……えるだけだ。こんな幸せをくれるのは────。
「さとみくん、あーん」
「…! あーん。ん……おいしい」
初めてえるからあーんをしてくれた。バレンタインっていい日。永遠に刻んでおかないと。今日という特別なバレンタインを。チョコだけじゃない幸せをくれた日として。
「えるも……あーん」
「え、わ……私は────」
「ダメ。あーん」
「……あ、あーん…………」
えるの顔、真っ赤だ。かわいい。
「おいしい?」
「うん……!とってもおいしい!」
「………。──────チョコ、ついてる」
えるの口元についたチョコをそっと舐めた。
「……!」
「ん、おいしい」
でも、足りない。オレが欲しいのはチョコじゃなくて─────。
「…………!ん…………」
ぽかんと少し空いたえるの口を塞ぐ。
こっちの方が、甘くておいしい。
「…さとみくん………」
熱を帯びた潤んだ瞳。恥ずかしいのか少しだけ伏し目がちになっている。
もっとキスがしたい。……でもその前にちゃんと言わなきゃ。内緒は無しって約束したから。
「…オレ、悲しかった」
「え…?」
「えるから…チョコ貰えないかもしれないって思ったから」
「……!ご、ごめんね……。…今年はいつもと違うことがしたくて…私、浮かれすぎて…さとみくんのこと傷つけちゃったよね……。……でも、来年からはさとみくんに一番に渡すからね…!約束!」
そう言いながら差し出された小指にオレのも絡めたら、絶対的な幸せの約束が結ばれる。
「…えるのそういうところ好き」
「ふふっ…ありがとう」
あぁ……もっと欲しい。
頬に手を当てて顔を近づける。重なった唇からチョコの味がした。えるとチョコが混ざりあって、一つになってえるを食べてるみたい。もっと、もっと欲しい。
……える、これはオレからのプレゼントだよ。
チョコより甘くて、とろける時間をオレと過ごそう───────。




