幸せは一つだけ
さとみくんと恋人になってから数日後。
今日もさとみくんと一緒に帰る予定だった。けれど、さとみくんにどうしても話があるという子がやってきて、今はその子と話終わるのを待っていた。さとみくんは話を聞かずに帰ろうしていたけれど
『私はここで待ってるから、さとみくん、ちゃんと話を聞いてあげて?』
私が大丈夫だよと安心させられるように微笑みながらそう言うと
『………えるが、そう言うなら……』
少しムッとしたような顔をしながらもさとみくんはその子と話すために私から離れた。
余計なことしちゃったかな……。でも、あの子がとっても真剣な表情をしていたから、無視するのは良くないと思うし……。さとみくんには、あとで謝ろう。
なんてぼんやりと考えていたけれど……。
あの子も、告白…かな。文化祭が終わってからさとみくんに告白する子が増えたんだよね。やっぱり顔がはっきり見えるようになったからかな。あれから毎日髪の毛のセットしてるし、かっこいいって思うの私もわかるなぁ…でもやっぱりちょっと、複雑な感じもして……。さとみくんも、すごく嫌そうだったけど…。うぅ……私が話したらって言ったのにこんなこと考えちゃうなんて………これが、誰かを好きになるってことなのかな…。さとみくんとは昔からずっと一緒にいるから余計に気になるのかも……。と、そこまで考えてふとあることに気がついた。そういえばさとみくんが私以外の人と話しているのって、あんまり見たことないかも……。友達とかそういう感じの人っているのかな。小さい頃も今も……見たこと、ない……。
もしかして……私がずっと一緒にいるから─────?
そんな答えにたどり着いた時、言い知れぬモヤモヤが私の中に広がった。……なんだろう、この感じ。前に感じたモヤモヤとも違う。
私、ほんとにさとみくんといてもいいのかな……。
「える、お待たせ。…える?」
話し終わってえるの元へ戻ると
「……! さとみくん!」
なにか考えごとでもしていたのかえるの反応が少しだけ遅かった。すぐいつもの笑顔になったけど、ぼんやりしてたのはなんでだろう。
「……帰ろう。える」
「…うん」
今日もまた、恋人繋ぎをして歩いていく。まだ慣れていないのかえるはいつも顔を赤くしている。それもかわいい。けど……やっぱりさっきの表情気になる。内緒は無しって約束したから、オレの思いすごしでただぼーっとしてただけかもしれないけど。それでもさっきのは………。
頭の中にはまだぼんやりとしていたえるが残っている。気になるけどどう聞けばいいのか分からない。そんなモヤモヤを見れば忘れられると思って見つめるとえると目が合った。
「…それにしても、さとみくん人気者だね」
なにかを誤魔化すようにえるが口を開いた。
「……?」
「また告白されたって聞いたよ。……さっきの子も、そうだったんだよね?」
「あ……うん。オレにはえるがいるのに変な人達」
そのせいでえるとの大切な時間が減った。さっきだって、えるが優しいから話を聞いただけで本当は無視して帰りたかったのに。……えるの優しさも利用してる。本当に嫌いだ。える以外の全てなんて。
「ふふ、それだけさとみくんがかっこいいからだと思うよ?」
「オレ、かっこいい?」
「うん。かっこいいよさとみくん」
かっこいい。その言葉は最近他の人からもよく言われる。でも、える以外から言われても全然嬉しくなくて、えるに言われるとすっごく嬉しい。なのに……今はちょっと違う。だってえるの表情が、笑顔が少しだけぎこちないから。オレを見て笑ってくれてるのに、やっぱり何かあったんだ。またぼんやりとしたえるを見つめる。
「える、なに考えてる?」
「え……」
「何かあるって顔してる。内緒は無しでしょ」
「……あのね、私さとみくんのそばにいたらダメなんじゃないかなって……」
「なんで……そんなこと……オレのこと嫌いに………なったの……?」
「…! 違うよ!全然そんな気持ちないの。むしろどんどん大好きになっていくから……だからっ……だけど……私が、ずっと一緒にいたら…さとみくんは他の人と話せなくて…友達とかそういうのもできなくなっちゃうのかもって、思って……」
「オレに友達なんていらない。オレにはえるがいればいい」
「さとみくん………でも…………」
その時何かを言いかけたえるがはっとしたような顔をしてから少し俯いた。
「……私、不安なのかも。さとみくんが注目されるようになって……いろんな人に出会っていったら…いつか……いつか、さとみがいなくなっちゃうじゃないか………って」
「…!えるそんなこと───」
「分かってるの……。さとみくんはいなくならないって。さとみくんの気持ちだってちゃんと分かってて…でも……不安に思うの。もし、これから先もっとたくさんの人と出会ったら、離れちゃうんじゃないかって。……不安で、怖くて…。さとみくんが好きだから、恋人になったから……前よりもずっと、一緒にいたいって……そう、思うの……」
そっか…えるはオレのことが好きだから、離れてほしくないから、怖くなったんだ。絶対に訪れないことでも。
繋いだ手をぎゅっと握ってえるを抱き寄せた。
「大丈夫だよ。オレはえるのそばから離れないから。オレには、オレの世界にはえるだけいればいい。えるだけいてほしい。える以外何も要らないから」
「……さとみくん………ありがとう。……私、考えすぎちゃってたみたい。さとみくんはこんなに私のこと思ってくれてるのに……変なこと言っちゃってごめんね……」
「ううん。えるはなにも悪くない。不安にさせたオレが悪い」
「そんなこと─────」
オレがもっと伝えてたら。不安なんて感じないくらい、そんな時間を与えないくらい伝えてたら不安なんて感じなかった。だから……。
「もうそんな気持ちには絶対させない。不安なんて感じないくらい沢山愛してるって伝える。これから先もずっと、オレはえると四六時中そばにいたいから。一分一秒たりとも離れたくない。不安も他のやつが付け入る隙も与えないくらい一緒にいる」
「さとみくん………。私も沢山伝えるね。さとみくんのこと大好きって」
「……! いっぱい言って。えるの言葉はオレを幸せにするから」
えるはオレの幸福で、オレの命だから。
「うん…!ふふっ、好きになると色んな感情がぐるぐるして色々考えちゃうんだね」
「他に何考えてた?」
えるの不安はオレしか取り除けないものだ。そして、オレが抱かせたから。全部排除しないと。
「…えっと、さっき話したのは待ってる間に考えてたことで、さとみくんに言ってるうちにさとみくんが私を好きなのは、幼馴染で私とずっと一緒にいて…私しか知らないからなのかな…とか……」
少し視線を逸らしたえるの表情がほんの少しだけ曇った。こっちを見てほしくてえるの頬にそっと触れる。大丈夫。オレが全部取り除いてあげるから。
「オレがえるを好きなのは幼馴染だからじゃない。えるだから好き。今までもこれからもずっと同じ。…えるもそうでしょ?」
オレの世界にはえるだけいて欲しい。える以外何も要らないから。
「さとみくん……。うん…!私もさとみくんだから好き!」
あぁ…本当に同じなんだ。ほんの少しだけオレたちの間にあったモヤモヤが完全に消えていく。何よりもえるの笑顔がそれを証明していた。心配も不安も全部なくなったって思えるくらいのかわいすぎる笑顔。
「……える………」
嬉しくて、たまらなくて抑えられない。家まで、えるの部屋まで我慢しないといけないのに。えるが笑ってくれたから。同じ好きをくれるから。
「……キス、したい」
「…!でも、ここ学校だよ…?」
「…………ダメ……?」
「……一回、だけだよ?」
学校でキスをしたのは初めてだ。今度はちゃんと我慢しないと。だってこのえるはオレだけが見ていいえるだから。
「…早く帰ろう」
「うん…」
部屋についたらもっと沢山キスしていいよね。もっともっと、えるに触れていいよね。
まだ顔の赤いえると手を繋いで帰り道を歩いて行く。あぁ………早く、えるを抱きしめたい。たくさん好きって伝えて愛し合って、恥ずかしがるえるも見たい。どんなえるも大好きで、ずっと幸せ。そう、えるといれば幸せで……えるがいないと生きてないのと同じで、だから……────全部、無視しよう。えるの優しさには悪いけど利用する方がいけないんだ。
それに、この時間を減らすなんてあってはいけないことだから。




