第九話「てっぺんに近づいたこと」
十二階に着いた。
窓が、さらに多くなっていた。
廊下の壁の半分以上が、窓だった。
光が、たくさん入ってきた。
先生たちが、少なかった。
静かだった。
女が地図を見た。
「ここより上は、来たことがありません」と言った。
「初めての階ですか」
「そうです」と女は言った。「だから」
地図を出した。
書き始めた。
男は廊下を見渡した。
窓の外に、空が広がっていた。
雲が近かった。
下の階より、雲が近かった。
「上へ行きますか」と男は言った。
「行きます」と女は言った。地図を書きながら言った。「少し待ってください」
「急ぎません」と男は言った。
女が書いた。
几帳面な字で、廊下の形を書いた。
窓の位置を書いた。
雲が近かったことを書いた。
「書きましたか」と男は言った。
「書きました」と女は言った。
「全部書けましたか」
「全部は書けません」と女は言った。「でも、大事なことは書きました」
「何が大事でしたか」
女は少し考えた。
「雲が近かったことと」と女は言った。「あなたが急がないと言ってくれたことを」
男は女を見た。
「地図に書いたんですか、そんなことを」
「大事なことなので」と女は言った。
また上へ向かった。
廊下が、明るかった。
傾きは、まだあった。
しかし、光の中だった。
(第九話 了)




