第六話「書類のこと」
男の書類は、減らなかった。
届けるたびに、また増えた。
届けた先で、新しい書類を渡された。
そういうものだと、分かってきた。
書類は、届けるものではなく、持ち歩くものだった。
ある日、女にそのことを話した。
「書類が減らないんです」と言った。
「そうですね」と女は言った。
「あなたの地図も、増え続けているんですか」
「増え続けています」と女は言った。「この建物がある限り、増え続けます」
「終わらないということですか」
「終わりません」と女は言った。「でも」
「でも?」
「終わらないことが、悪いとは思っていません」と女は言った。
男はその言葉を聞いた。
終わらないことが、悪いとは思っていない。
「なぜですか」と男は言った。
「終わったら、上へ行く理由がなくなるので」と女は言った。
「地図が完成したら、来なくなるということですか」
「そうかもしれません」と女は言った。「だから、完成しなくていいとも思っています」
男は書類を見た。
分厚かった。
まだたくさんあった。
「俺も、そう思うことにします」と男は言った。
「減らなくていい、ということですか」と女は言った。
「減らなくていい」と男は言った。「持ち続ける理由になるので」
女は少し間を置いた。
それから、地図に何かを書き足した。
「何を書いたんですか」と男は言った。
「今日の会話のことを」と女は言った。
「地図に会話を書くんですか」
「大事なことなので」と女は言った。
(第六話 了)




