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お前が犯人だ、その推理で世界が変わる -変遷探偵・久瀬黎司の記録-  作者: 未確定ログ
第1部 『犯人変遷篇』第1編『雨の取調室』
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第9話『現れるはずのない証人』

懐中電灯の光が揺れている。


資料室の闇の中で、

黒いコートの女だけが異様に“浮いて”見えた。


有馬が声を荒げる。


「おい……出てこい! 何してんだ!」


だが女は動かない。


ただ久瀬黎司を見ている。


まるで最初から、

そこに立つ理由が“久瀬にしかない”みたいに。


 


白鐘雨音が小さく呟いた。


「……やっぱり」


久瀬は横目で彼女を見る。


「知ってるのか」


白鐘は答えない。


その代わり、

ゆっくりと前に出た。


「あなた……“残響”ですね」


 


その言葉に、

女の笑みがわずかに深くなる。


有馬が困惑する。


「残響? なんだそれ」


白鐘は目を離さずに言う。


「改変が繰り返された事件にだけ残る、“矛盾の痕跡”です」


久瀬の眉が動く。


「痕跡……?」


「完全に上書きできない情報があるんです」


白鐘は続ける。


「何度世界が変わっても、“そこにいたことになる存在”」


 


女が初めて口を開いた。


声は静かだった。


「久しぶりですね」


 


有馬が一歩引く。


「喋った……」


女は有馬を見ない。


久瀬だけを見ている。


「黎司くん」


 


その呼び方に、

久瀬の脳が反応する。


知らない。


だが。


どこかで聞いたことがある。


いや。


“知っているはずのない記憶”の奥で。


 


白鐘が鋭く言う。


「久瀬さん、その人に近づかないでください」


「理由は」


「それは“元の事件の中心”です」


 


空気が凍る。


有馬が叫ぶ。


「は? 元の事件って何だよ!」


白鐘は答えない。


ただ、

女を睨み続ける。


 


女はゆっくり一歩前に出た。


ヒールの音が、

静かな資料室に響く。


コツ。


コツ。


 


「あなたは覚えていない」


女は言う。


「でも私は覚えている」


 


久瀬の視界が揺れる。


頭痛。


まただ。


記憶の奥が、

何かを引きずり出してくる。


 


女の声が続く。


「あなたが最初に“推理”した日」


 


久瀬の息が止まる。


 


――推理?


 


白鐘が息を呑む。


「……やめて」


女は止まらない。


「あなたは言ったんです」


 


静かに。


淡々と。


 


「“この事件の犯人は、まだ世界に定義されていない”って」


 


その瞬間。


久瀬の頭の奥で、

何かが弾けた。


 


視界が一気に白くなる。


 


――暗い部屋。


――子供の声。


――泣き声。


――崩れた壁。


 


そして。


 


誰かの声。


『じゃあ、決めようか』


 


久瀬の膝が崩れかける。


「……違う」


掠れた声。


「そんなこと……言ってない」


 


だが。


女は静かに言う。


「言いましたよ」


 


その瞬間。


資料室の壁が、

ミシリと音を立てた。


 


有馬が叫ぶ。


「な、なんだこれ!」


壁の一部が“ズレる”。


そこにあったはずの窓が、

一瞬だけ消える。


次の瞬間には戻る。


 


白鐘が震える声で言った。


「ダメ……ここ、干渉されてる」


「干渉?」


「強い起点が出てる」


 


女が久瀬に近づく。


久瀬は動けない。


体が重い。


思考がまとまらない。


 


「あなたが始めたんです」


女は優しく言う。


「“推理で世界が変わる”なんて、気づいてしまったから」


 


久瀬の喉が鳴る。


「……俺は」


 


女は微笑む。


「最初の“変遷探偵”です」


 


その言葉が落ちた瞬間。


 


世界が一瞬、静止した。


 


音が消える。


雨も止む。


有馬の動きも固まる。


白鐘の呼吸だけが、

かすかに震えている。


 


そして。


 


久瀬だけが動ける。


 


いや。


“動けてしまう”。


 


女が静かに言った。


「あなたが推理した瞬間、世界は最初に壊れた」


 


久瀬の視界に、

別の映像が重なる。


 


――黒い部屋。


――机の上の事件資料。


――自分の声。


 


『犯人は、まだ決まっていない』


 


 


次の瞬間。


 


資料室の時間が再び動き出した。


 


有馬が叫ぶ。


「うわっ……今の何だ!?」


壁は元に戻っている。


時計も正常。


全てが“何も起きていない”状態。


 


だが。


そこにいた女だけが、

消えていた。


 


白鐘が呟く。


「……また、戻された」


有馬が混乱する。


「え? 何が?」


久瀬は答えない。


ただ、


手の震えだけが止まらなかった。


 


そして気づく。


 


さっきの女の言葉だけが、

頭から離れない。


 


『あなたが最初の変遷探偵です』


 


久瀬はゆっくりと目を閉じた。


 


雨音が、

再び世界に戻ってくる。

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