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お前が犯人だ、その推理で世界が変わる -変遷探偵・久瀬黎司の記録-  作者: 未確定ログ
第1部 『犯人変遷篇』第3編『零和水族館』
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第75話『犯人候補C』

巨大水槽のガラスに浮かぶ文字。


犯人候補A:参加者


犯人候補B:館員


犯人候補C:観測者


館内が静まり返る。


誰も声を出さない。


被害者が確定したばかりだ。


それなのに。


もう犯人選定が始まっている。


有馬が吐き捨てる。


「狂ってる」


白鐘雨音も同意した。


「普通の事件じゃありません」


久瀬黎司は無言だった。


視線は三つ目の候補に向いている。


観測者。


第1編から繰り返し現れてきた単語。


第2編では世界の修正を知る者。


そして今。


犯人候補。


有馬が言う。


「館員か参加者だろ」


誰も反論しない。


それが普通だ。


人を殺すのは人間。


そう考えるのが自然。


だが。


この事件に自然は存在しない。


その時。


館内放送が流れた。


『犯人候補の観測を開始します』


全員が顔を上げる。


『候補ごとの整合性を確認』


白鐘が小さく呟く。


「整合性……」


その言葉。


久瀬には嫌な予感しかしなかった。


第2編で学んだ。


世界は真実を求めていない。


整合性を求めている。


最も矛盾の少ない物語。


それだけだ。


有馬が死体を見る。


「館員説は無理だろ」


その瞬間。


死体の胸元のプレートが揺れる。


発見場所:深海水槽


その文字が薄くなる。


館内放送。


『候補B整合率低下』


有馬が固まる。


「反応した」


白鐘も気づく。


仮説に。


世界が反応している。


有馬は顔をしかめる。


「じゃあ参加者か」


今度は死体の右手に何かが現れる。


招待状。


見覚えのある封筒。


館内放送。


『候補A整合率上昇』


沈黙。


全員の顔色が変わる。


まただ。


推理が現実を変えている。


若い女性参加者が震える。


「やめてください」


誰も振り向かない。


彼女は涙目だった。


「考えるたびに変わる」


「もうやめて」


だが。


館内放送は止まらない。


『候補A整合率48%』


『候補B整合率11%』


『候補C整合率41%』


久瀬の瞳が細くなる。


候補C。


観測者。


何もしていないのに高い。


白鐘も気づいた。


「おかしい」


有馬が聞き返す。


「何がだ」


「観測者だけ根拠がない」


沈黙。


確かにそうだ。


参加者には招待状がある。


館員には水族館との関係がある。


だが観測者には何もない。


なのに。


整合率だけが異様に高い。


その時。


館内の奥から足音が響いた。


コツ。


コツ。


コツ。


全員が振り向く。


深海展示の通路。


青い光の中。


黒いコートの男が立っている。


有馬が叫ぶ。


「お前!」


男は笑った。


「久しぶりだな」


久瀬だけを見る。


まるで他の人間など存在しないかのように。


白鐘が警戒する。


「あなたは誰ですか」


男は答えない。


代わりに。


巨大水槽を見る。


そして。


静かに言った。


「観測者を犯人にするな」


沈黙。


館内放送が反応する。


『異常発言を確認』


男は笑う。


「ほらな」


有馬が前へ出る。


「意味分かるように話せ」


男は有馬を見た。


その瞬間。


有馬が顔をしかめる。


まるで頭痛に襲われたように。


男は淡々と言う。


「観測者は犯人じゃない」


「観測者は装置だ」


白鐘が息を呑む。


装置。


それは人間ではない。


役割だ。


構造だ。


第2編の共犯者と同じ。


男は続ける。


「犯人候補Cを選んだ瞬間」


そこで言葉を切る。


そして。


初めて深海水槽を見る。


その視線には。


わずかな恐怖が混じっていた。


久瀬は見逃さない。


この男が初めて恐れた。


男は小さく呟く。


「出てくる」


沈黙。


館内放送。


『候補C整合率52%』


数字が跳ね上がる。


有馬が振り向く。


「おい」


白鐘の顔から血の気が引く。


整合率が上がっている。


男が否定したのに。


むしろ上がった。


久瀬は理解した。


この世界では。


否定も観測になる。


考えた時点で。


認識した時点で。


現実は固定される。


その時だった。


深海水槽の奥。


今まで真っ暗だった場所に。


巨大な影が現れる。


魚ではない。


人でもない。


輪郭すら定まらない。


ただ。


そこにいる。


全員が本能的に理解した。


見てはいけない。


影はゆっくり動く。


まるで。


こちらを見ているように。


館内放送が静かに告げた。


『観測者を確認』


沈黙。


そして。


初めて声色が変わった。


まるで歓喜するように。


『犯人候補Cの観測を受理しました』


黒いコートの男が舌打ちする。


「遅かったか」


久瀬が問いかける。


「お前は何を知っている」


男は答えない。


だが。


一つだけ言った。


「次に消えるのは被害者じゃない」


沈黙。


男の視線が。


久瀬に向く。


「観測者だ」


その瞬間。


巨大水槽のガラスに新しい文字が浮かぶ。


観測者候補一覧


その一行の下に。


ゆっくりと。


一つ目の名前が現れた。


久瀬 黎司

読んでいただきありがとうございます。

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