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お前が犯人だ、その推理で世界が変わる -変遷探偵・久瀬黎司の記録-  作者: 未確定ログ
第1部 『犯人変遷篇』第3編『零和水族館』
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第73話『第一観測』

死体の顔が固定され始める。


輪郭の揺らぎが止まる。


曖昧だった特徴が定着する。


胸元の名札も少しずつ形を持ち始めた。


だが。


まだ読めない。


まるで現実そのものが迷っているようだった。


館内放送が流れる。


『第一観測を記録』


『被害者候補A』


『館員』


沈黙。


有馬が舌打ちする。


「館員なんて見た覚えねぇぞ」


若い女性が反論する。


「受付にいた人じゃないですか?」


老夫婦も頷く。


「いたような気がする」


有馬は顔をしかめる。


「気がする、ばっかりだな」


誰も返せない。


久瀬は死体を見ていた。


館員。


その仮説は危険だ。


なぜなら。


すでに現実が寄り始めている。


白鐘が死体のポケットを調べる。


職員証。


鍵束。


館内地図。


どれも館員らしい。


だが。


さっきまではなかった。


白鐘が低く言う。


「増えてます」


有馬が振り向く。


「何が」


「持ち物です」


沈黙。


全員が気づく。


職員証はなかった。


鍵束もなかった。


だが今はある。


現実が補強されている。


久瀬は静かに言う。


「観測が証拠を生んでいる」


誰も否定できない。


その時。


館内放送が再び流れた。


『第二観測を募集します』


空気が凍る。


有馬が叫ぶ。


「募集って何だよ!」


放送は無視する。


『被害者の特定を進めてください』


『観測が不足しています』


白鐘の顔色が変わる。


「不足……」


その単語。


第68話で見た。


不足一名。


今度は。


不足観測。


久瀬は理解する。


この事件は推理を要求している。


考察を。


仮説を。


認識を。


そして。


それを与えるほど現実が固定される。


若い女性参加者が恐る恐る言う。


「館員じゃないかもしれません」


全員が振り向く。


「どういう意味ですか」


女性は死体を見る。


「この人」


「招待客だった気がする」


沈黙。


その瞬間。


死体が揺れた。


全員が息を呑む。


職員証の文字が滲む。


鍵束が消えかける。


代わりに。


胸ポケットから招待状が覗いた。


有馬が後退る。


「おい……」


館内放送が反応する。


『第二候補を確認』


『被害者候補B』


『参加者』


死体の顔が変わる。


今度は少し若く見える。


三十代。


館員には見えない。


だが。


参加者には見える。


白鐘が唇を噛む。


「変わった」


有馬も見ている。


確実に。


変わった。


その時だった。


老夫婦の夫が言った。


「違う」


全員が振り向く。


老人は震える声で続ける。


「この人は」


「最初から死んでいた」


沈黙。


館内の空気が止まる。


白鐘が顔を上げる。


「何を言ってるんですか」


老人は額を押さえる。


苦しそうだった。


「思い出した」


「入口で見た」


「水槽の中にいた」


誰も理解できない。


だが。


老人だけは本気だった。


館内放送が流れる。


今度は少し速い。


『第三候補を確認』


『被害者候補C』


沈黙。


そして。


死体の顔が完全に崩れた。


職員証も。


招待状も。


すべて消える。


代わりに。


濡れていた。


まるで。


最初から水槽の中にいたように。


白鐘が息を呑む。


「そんな……」


有馬が後退る。


「なんだよこれ」


館内放送が告げる。


『観測回数三回』


『確定処理へ移行します』


その瞬間。


久瀬の脳裏に。


黒いコートの男の言葉が蘇る。


「三回だ」


沈黙。


三回。


仮説は三回。


そして。


その後に確定する。


久瀬は初めて理解する。


この事件のルールを。


被害者は最初から存在しない。


観測によって候補が生まれる。


三回観測される。


そして。


世界が最も整合的な死を選ぶ。


館内放送が静かに告げた。


『被害者を確定します』


全員が息を止める。


その瞬間。


死体がゆっくり目を開いた。

読んでいただきありがとうございます。

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