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お前が犯人だ、その推理で世界が変わる -変遷探偵・久瀬黎司の記録-  作者: 未確定ログ
第1部 『犯人変遷篇』第3編『零和水族館』
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第69話『不足一名』

――不足1名


その文字は、巨大水槽のガラスに数秒だけ浮かび上がっていた。


誰も声を出さない。


いや。


出せなかった。


有馬が最初に口を開く。


「待て」


掠れた声だった。


「七人なんだろ」


誰も反論しない。


現在いるのは七人。


それは全員が確認した。


有馬は続ける。


「じゃあ不足って何だ」


沈黙。


白鐘雨音が小さく呟く。


「八人必要なんです」


有馬が振り向く。


「何にだよ」


白鐘は答えられない。


だが感覚として分かる。


この空間は。


八人を前提に設計されている。


椅子も。


展示ルートも。


配布資料も。


館内放送も。


すべてが八人を基準にしている。


なのに。


現実には七人しかいない。


だから。


世界が不整合を起こしている。


久瀬黎司は巨大水槽を見つめたまま言った。


「不足しているのは人間じゃない」


有馬が眉をひそめる。


「は?」


久瀬は続ける。


「役割だ」


沈黙。


その言葉に。


白鐘だけが反応する。


第2編で見た。


共犯者。


犯人。


観測者。


それらは人間ではなく構造だった。


ならば。


この水族館にも。


必要な構造がある。


久瀬は静かに言う。


「この空間は八人で成立する」


「今は七人しかいない」


「だから世界が不足分を探している」


有馬が吐き捨てる。


「意味が分からねぇ」


その瞬間だった。


館内の照明が一斉に明るくなる。


突然の変化に全員が目を細める。


そして。


館内放送が流れた。


『不足対象を検索します』


沈黙。


『適合者を確認』


全員が凍りつく。


『候補を抽出します』


若い女性参加者が震える声を出す。


「なに……これ」


放送は止まらない。


『観測者七名』


『不足役割一名』


『補完処理を開始』


その瞬間。


巨大水槽の奥。


深海の闇の中で。


人影が動いた。


今までは静止していた。


だが。


今度は違う。


こちらへ歩いてくる。


水の中を。


まるで陸上のように。


有馬が後退る。


「おい……」


老夫婦も息を呑む。


誰も動けない。


人影はゆっくり近づく。


顔は見えない。


輪郭も曖昧。


だが。


人間だ。


間違いなく。


そして。


その姿を見た瞬間。


久瀬の頭に激痛が走った。


知らない。


だが。


知っている。


どこかで見た。


いつか会った。


そんな感覚。


白鐘も額を押さえる。


「思い出せそう……」


有馬が叫ぶ。


「誰なんだよ!」


その瞬間。


人影がガラスの直前で止まる。


そして。


こちらを見る。


顔は見えない。


なのに。


全員が同じ感覚を抱いた。


あれは。


参加者だ。


その時。


館内放送が告げる。


『不足対象を確認』


沈黙。


『八人目を補完します』


ガラスが震えた。


ゴン。


低い音。


ゴン。


もう一度。


人影がガラスを叩いている。


そして三度目。


ゴン。


その瞬間。


ガラス越しに文字が浮かび上がった。


――あなたは誰ですか?


白鐘が息を呑む。


有馬が後退る。


若い女性が悲鳴を上げる。


だが。


久瀬だけは別のものを見ていた。


文字の下。


薄く。


消えかけた文字。


それは。


今までの放送とは明らかに違う。


誰かが残したメッセージ。


――数えるな


久瀬の瞳が見開かれる。


次の瞬間。


文字は消えた。


何もなかったように。


だが。


確かに存在した。


「数えるな」


それは警告だ。


そして。


今この水族館で最も行われている行為。


人数確認。


人数観測。


人数認識。


つまり――


久瀬は静かに理解する。


この事件。


人数を数えるたびに悪化している。


その瞬間。


館内放送が最後に告げた。


『次の人数確認を開始します』


そして。


巨大水槽の数字が変化する。


7



読んでいただきありがとうございます。

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