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お前が犯人だ、その推理で世界が変わる -変遷探偵・久瀬黎司の記録-  作者: 未確定ログ
第1部 『犯人変遷篇』第3編『零和水族館』
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第68話『七人目』

巨大水槽のガラスに浮かんだ数字。


8


そして。


7


館内から音が消えた。


誰も動かない。


誰も呼吸をしていないように見える。


白鐘雨音が最初に声を出した。


「今……」


掠れた声だった。


「数字が変わりました」


有馬が首を振る。


「見間違いだ」


だが。


その否定には力がなかった。


有馬自身も見ている。


確かに見た。


巨大水槽のガラスに浮かぶ数字を。


大学生の男が後ずさる。


「ふざけるなよ……」


顔が真っ青だった。


「なんなんだよここ」


誰も答えない。


答えられない。


その時。


館内放送が流れる。


『人数確認を行います』


静かな女性の声。


感情のない声。


『現在の参加者は七名です』


沈黙。


有馬が叫ぶ。


「まだ八人いるだろ!」


その瞬間だった。


大学生の男の表情が固まる。


全員が振り向く。


彼は何かを思い出そうとしていた。


必死に。


だが。


できない。


「俺……」


声が震える。


「誰を忘れたんだ?」


沈黙。


「誰が消えた?」


答えられない。


そして。


久瀬は見た。


男の輪郭が。


わずかに揺れた。


白鐘も気づく。


「久瀬さん」


久瀬は頷く。


有馬だけがまだ理解できていない。


大学生の男は続ける。


「さっきから変なんだ」


「自分の記憶が……」


言葉が途切れる。


輪郭が薄くなる。


まるで存在そのものが不安定になっているように。


若い女性参加者が悲鳴を上げる。


「顔!」


全員が見る。


大学生の男の顔が。


ぼやけている。


写真のピントがずれるように。


輪郭だけが揺らいでいる。


有馬が息を呑む。


「おい……」


大学生の男は自分の手を見る。


「なんだよ」


「なんだよこれ」


恐怖。


混乱。


理解不能。


白鐘が小さく言う。


「違う」


有馬が振り向く。


「何がだ」


白鐘は震える声で答えた。


「消えるんじゃない」


沈黙。


「最初から存在できなくなってる」


久瀬の視線が鋭くなる。


その表現は正しい。


第2編では消失だった。


だが今回は違う。


現実の方が先に修正される。


だから。


存在が消えるのではない。


存在できなくなる。


館内放送が続く。


『認識不良を確認』


『対象を修正します』


大学生の男が顔を上げる。


「対象?」


その瞬間。


照明が落ちた。


完全な暗闇。


誰かが叫ぶ。


誰かが息を呑む。


数秒。


いや。


体感ではもっと長かった。


そして。


照明が戻る。


静寂。


有馬が周囲を見る。


白鐘。


久瀬。


老夫婦。


若い女性。


スーツ姿の男。


中年男性。


七人。


沈黙。


有馬の顔色が変わる。


「……どこだ」


誰も答えない。


大学生の男がいない。


だが。


もっと恐ろしいことに。


誰も彼の名前を知らない。


白鐘が額を押さえる。


「思い出せない」


有馬が震える。


「俺、さっきまで話してたよな」


久瀬は静かだった。


彼だけが覚えている。


大学生の男がいたことを。


だが。


名前は思い出せない。


顔も曖昧になっている。


記憶そのものが侵食されている。


その時。


巨大水槽の向こう側。


深海展示の闇の中。


また人影が現れる。


今度は五人。


全員こちらを見ている。


動かない。


ただ見ている。


まるで。


参加者の減少を待っているように。


白鐘が呟く。


「久瀬さん」


「なんだ」


「もし最後まで減ったら」


沈黙。


久瀬は答えない。


答えは分かっている。


だからこそ言えない。


館内放送が最後に告げた。


『観測は正常に進行しています』


『次の確認を開始します』


そして。


巨大水槽のガラスに。


新しい数字が浮かび上がる。


7


その数字の下に。


初めて文字が現れた。


――不足1名


久瀬の瞳が細くなる。


七人なのに。


不足一名。


つまり。


この空間はまだ。


八人を前提にしている。


誰かが消えたのではない。


まだ消える予定の誰かがいる。

読んでいただきありがとうございます。

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