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お前が犯人だ、その推理で世界が変わる -変遷探偵・久瀬黎司の記録-  作者: 未確定ログ
第1部 『犯人変遷篇』第3編『零和水族館』
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第67話『観測対象』

――残り8名


その文字は、一秒も経たずに消えた。


巨大水槽には再び魚たちだけが泳いでいる。


だが久瀬黎司は確かに見た。


「残り8名」


それは予告ではない。


結果でもない。


進行状況だ。


白鐘雨音が顔を上げる。


「久瀬さん」


久瀬は水槽から目を離さない。


「見えたか」


白鐘は首を振る。


「何かあったんですか」


久瀬は答えなかった。


言葉にした瞬間、それが確定する気がした。


有馬が苛立ったように周囲を見回す。


「人数数えろ」


誰も動かない。


「いいから数えろ!」


その怒声で、ようやく参加者たちが動き始める。


中年男性。


老夫婦。


大学生の男。


スーツ姿の男。


若い女性。


そして久瀬たち三人。


全員で八人。


沈黙。


有馬の顔色が変わる。


「……八人」


白鐘も数える。


間違いない。


八人。


さっき放送が「九人」と告げた直後に、一人消えた。


そして今は八人。


久瀬は静かに言う。


「減少と現実の同期が早くなっている」


有馬が睨む。


「日本語で言え」


「世界の修正速度が上がっている」


沈黙。


白鐘が理解する。


第2編の消失は時間差があった。


違和感が残った。


記憶も残った。


だが今回は違う。


消えた瞬間に世界が再構築される。


だから証明できない。


だから反論できない。


その時だった。


館内放送が再び流れる。


『観察を継続してください』


誰も反応しない。


『観測対象は正常です』


沈黙。


有馬が顔をしかめる。


「観測対象?」


放送は続く。


『観測対象8名』


『異常なし』


空気が凍る。


白鐘がゆっくり言う。


「対象……」


久瀬は目を閉じる。


そして静かに呟いた。


「俺たちだ」


有馬が振り向く。


「は?」


久瀬は館内を見渡す。


巨大水槽。


通路。


展示。


監視カメラ。


館員。


何もない。


それなのに。


確かに感じる。


見られている。


事件を捜査しているのではない。


自分たちが観察されている。


有馬が低く言う。


「誰にだよ」


久瀬は答えない。


その時。


老夫婦の妻が小さく手を上げた。


「すみません」


全員が振り向く。


「さっきから気になってたんですけど」


彼女は震える指で通路の奥を指差した。


「なんで椅子が九脚あるんでしょう」


沈黙。


全員が見る。


休憩スペース。


そこには確かに椅子が九脚並んでいた。


だが人間は八人。


一脚だけ余っている。


有馬が呟く。


「またかよ……」


白鐘の表情が固まる。


久瀬は理解する。


空間はまだ九人を前提にしている。


現実だけが八人になっている。


そのズレが残っている。


そして。


ズレは必ず修正される。


その時。


大学生の男が突然立ち上がった。


「ちょっと待ってください」


全員が振り向く。


彼は青ざめていた。


「俺……」


言葉が震える。


「俺、隣にいた人の顔が思い出せない」


沈黙。


彼は続ける。


「彼女じゃないです」


隣の女子学生を見る。


「その前です」


誰も答えない。


「さっきまでいたんです」


「絶対いたんです」


額から汗が流れる。


「でも……」


言葉が止まる。


思い出せない。


名前も。


顔も。


性別も。


何一つ。


白鐘が小さく呟く。


「始まった」


久瀬は頷く。


今までは人数が減っていた。


だが次の段階に入った。


人数だけではない。


存在の痕跡まで削除され始めている。


その瞬間。


館内の照明がゆっくり暗くなる。


完全な停電ではない。


深海展示用の青い光だけが残る。


薄暗い館内。


巨大水槽の向こう側。


そこに。


人影が並んでいた。


一人。


二人。


三人。


四人。


全員こちらを見ている。


参加者ではない。


だが人間に見える。


有馬が息を呑む。


「……誰だ」


誰も答えない。


すると館内放送が流れた。


今までと違う。


初めて感情が混じっていた。


『観測を確認』


『対象は認識段階へ移行』


『次の減少を開始します』


沈黙。


そして。


巨大水槽のガラスに。


ゆっくり数字が浮かび上がる。


8


その数字が。


ゆっくりと。


7


に変わった。

読んでいただきありがとうございます。

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