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お前が犯人だ、その推理で世界が変わる -変遷探偵・久瀬黎司の記録-  作者: 未確定ログ
第1部 『犯人変遷篇』第3編『零和水族館』
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第66話『存在カウントの崩壊』

照明が戻る。


館内は静まり返っていた。


誰も動かない。


誰も喋らない。


ただ全員が同じ違和感を抱いている。


――何かがおかしい。


中年男性が周囲を見回す。


「今……減ったよな?」


誰も即答できない。


老夫婦も。


大学生たちも。


スーツ姿の男も。


全員が顔を見合わせている。


有馬が低く呟く。


「誰がいなくなった」


沈黙。


答えられない。


顔が思い出せない。


名前も思い出せない。


だが。


確実に。


誰かがいた。


白鐘雨音が参加者用のパンフレットを開く。


「待ってください」


声が震えている。


「これ……」


久瀬が覗き込む。


参加者一覧。


そこに書かれている人数は。


――参加者9名


有馬が息を呑む。


「は?」


白鐘がページをめくる。


何度見ても同じ。


九名。


最初に見た時は十一名。


その後十名。


そして今。


九名。


数字だけが減っている。


有馬が声を荒げる。


「ふざけんなよ!」


周囲の参加者たちもざわつく。


大学生の男が言う。


「最初から九人ですよね?」


隣の女性も頷く。


「そうですよ」


有馬が振り向く。


「違う!」


だが。


その勢いは途中で止まる。


なぜなら。


自信が持てなくなっている。


十一人だった。


十人だった。


九人だった。


どれが正しい?


思い出そうとすると頭が痛む。


白鐘が静かに言う。


「人数そのものが修正されています」


久瀬は頷く。


「第2編とは違う」


有馬が振り向く。


「どう違うんだ」


久瀬は巨大水槽を見たまま答える。


「前は人間が消えた」


「今回は人数が消える」


沈黙。


誰も意味を理解できない。


だが。


久瀬だけは分かっていた。


第2編では人間が先だった。


だから違和感が残った。


だが今回は違う。


人数という概念が先に修正される。


だから人間が消えるのではない。


人数に合わせて現実が再構成される。


白鐘が息を呑む。


「じゃあ……」


久瀬が続ける。


「十一人いたから十人になるんじゃない」


「十人になったから一人が消える」


静寂。


その理屈に。


白鐘の顔色が変わる。


有馬も理解してしまう。


原因と結果が逆転している。


その時だった。


館内放送が流れる。


『人数確認を行います』


全員が顔を上げる。


『現在の参加者は九名です』


『認識を統一してください』


『認識の不一致は危険です』


沈黙。


有馬が吐き捨てる。


「危険って何だよ」


放送は答えない。


代わりに。


巨大水槽の照明が点灯する。


青い光。


深海エリア。


誰もいなかったはずの水槽奥。


そこに。


人影が立っていた。


全員が凍りつく。


男だ。


スーツ姿。


年齢は三十代くらい。


だが。


誰も知らない。


大学生の女性が叫ぶ。


「誰!?」


その瞬間。


人影がこちらを見る。


そして。


館内放送が重なる。


『参加者は何名ですか』


静寂。


誰も答えられない。


人影はゆっくり口を開いた。


ガラス越しなのに。


声だけが聞こえる。


「十人だ」


その瞬間。


館内の照明が落ちた。


一秒。


二秒。


三秒。


再び光が戻る。


人影は消えている。


そして。


参加者の一人だった大学生の女性も。


消えていた。


沈黙。


誰も悲鳴を上げない。


上げられない。


なぜなら。


誰が消えたのか分からないからだ。


ただ。


人数だけが変わったことを知っている。


白鐘が震える声で言う。


「今……」


久瀬は静かに答える。


「ああ」


白鐘が息を呑む。


「人数が先に決まった」


久瀬は頷く。


そして初めて確信する。


この事件には犯人がいない。


少なくとも人間の犯人はいない。


世界そのものが。


人数を調整している。


そして彼らは。


その過程を観測させられている。


巨大水槽のガラスに。


一瞬だけ文字が映る。


誰も気づかない。


久瀬だけが見た。


そこにはこう書かれていた。


――観測継続中


そしてその下には。


小さく。


――残り8名

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