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お前が犯人だ、その推理で世界が変わる -変遷探偵・久瀬黎司の記録-  作者: 未確定ログ
第1部 『犯人変遷篇』第2編『消える共犯者』
39/51

第39話『覚えている異常者』

資料室の空気が、明らかに変わっていた。


白鐘雨音は久瀬黎司を見て、言葉を選ぶように口を開く。


「久瀬さん……少し、いいですか」


久瀬は視線だけを向ける。


「何だ」


白鐘は一瞬ためらってから続ける。


「あなた、ずっと“いない人”の話をしてます」


沈黙。


有馬がすぐに反応する。


「は? 何それ」


白鐘は続ける。


「共犯者Aとか、証拠の写真とか……」


「でも私たち、そんな人物見た記憶がありません」


有馬がうなずく。


「そうだな」


久瀬は黙っている。


白鐘は一歩踏み込む。


「なのに久瀬さんだけが、全部“ある前提”で話している」


沈黙。


空気が一段冷える。


有馬が眉をひそめる。


「お前さ、それマジで大丈夫か?」


久瀬は静かに答える。


「何がだ」


白鐘は目を逸らさずに言う。


「あなたのほうが、間違っている可能性です」


その言葉で空気が止まる。


有馬が小さく息を吐く。


「言っちゃったなそれ」


白鐘は続ける。


「私たちの記録にも、証言にも、その人たちはいません」


「でも久瀬さんだけが“覚えている”」


久瀬は少しだけ目を細める。


「それが異常だと言いたいのか」


白鐘は即答しない。


だが、静かに頷く。


沈黙。


有馬が呟く。


「正直、俺もちょっとおかしいと思ってた」


久瀬は有馬を見る。


有馬は肩をすくめる。


「だってよ、誰も知らねぇ話をずっとされてんだぜ?」


白鐘が小さく言う。


「でも久瀬さんは“確信”しているように見えます」


久瀬は答えない。


その沈黙が、逆に重い。


白鐘は続ける。


「その確信って……どこから来てるんですか」


久瀬はゆっくりと資料室を見渡す。


消えた証拠。

欠けた記録。

曖昧になる写真。


そして言う。


「記録だ」


白鐘が首を振る。


「でも記録は消えてます」


久瀬は静かに言う。


「俺の中には残っている」


その一言で空気が変わる。


有馬が小さく笑う。


「それさ、逆に怖いんだよ」


白鐘も視線を落とす。


「……もし、それが全部“思い込み”だったら?」


沈黙。


久瀬は即答しない。


だが、否定もしない。


その代わりに言う。


「それでも構わない」


白鐘が顔を上げる。


「構わないって……」


久瀬は静かに続ける。


「この事件は、誰が正しいかでは成立しない」


「何が残るかで決まる」


その瞬間、ホワイトボードの文字が一瞬だけ揺れる。


有馬が目を見開く。


「また動いた!」


白鐘も見える。


だが今度は、何も残らない。


“揺れた痕跡だけ”が残る。


白鐘が呟く。


「……今のも、私たちで見え方違いましたよね」


有馬は黙る。


久瀬は静かに確信する。


この事件はまだ壊れていない。


だがすでに――


「“覚えている者”が異常として扱われ始めている」

読んでいただきありがとうございます。

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