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お前が犯人だ、その推理で世界が変わる -変遷探偵・久瀬黎司の記録-  作者: 未確定ログ
第1部 『犯人変遷篇』第2編『消える共犯者』
38/51

第38話『存在の証明不能』

資料室の机の上に、古い写真が一枚だけ置かれていた。


白鐘雨音はそれを見て、息を止める。


「これ……昨日の現場写真です」


有馬が横から覗く。


「ただの集合写真だろ」


白鐘は首を振る。


「違います」


「“昨日の捜査メンバー全員が写っているはずの写真”です」


沈黙。


久瀬黎司が写真を見る。


そこには確かに数人の人物が写っている。


だが――一部の顔が“曖昧”だ。


ピントが合っていないのではない。


顔という概念だけが抜け落ちている。


有馬が眉をひそめる。


「なんだこれ、加工ミスか?」


白鐘は即座に否定する。


「違います」


「さっきまで“この人がいた”って分かってました」


白鐘は指を写真の端に向ける。


そこには“人の形だった余白”がある。


だが今はただの背景だ。


久瀬は静かに言う。


「証明できない状態だな」


白鐘が顔を上げる。


「証明……できない?」


久瀬は頷く。


「存在は残っている」


「だが証拠が消える」


有馬が苛立つ。


「それもう詰んでるだろ」


久瀬は否定しない。


だが続ける。


「詰んでいるのは“証明の構造”だ」


沈黙。


白鐘が写真を見つめる。


「じゃあ……この人は本当にいたんですか?」


久瀬は少し間を置く。


そして言う。


「いた」


有馬がすぐに言う。


「証拠ねぇじゃん」


久瀬は写真を机に戻す。


「証拠が消えるのは、この事件の仕様だ」


白鐘が震える声で言う。


「じゃあどうやって……真実を決めるんですか」


久瀬は一言だけ答える。


「決められない」


沈黙。


その瞬間、写真の中の“空白部分”がさらに広がる。


有馬が声を荒げる。


「今、また消えただろ!」


白鐘も頷く。


「顔の形が……崩れました」


久瀬は目を細める。


「証拠が成立しない」


白鐘が呟く。


「じゃあ……何が残るんですか」


久瀬は静かに言う。


「観測だけだ」


有馬が呆れる。


「またそれかよ」


久瀬は窓を見る。


雨は変わらない。


だがその雨粒は、写真の“空白”と同じ形で落ちているように見える。


久瀬は確信する。


この事件はまだ壊れていない。


だがすでに――


「存在の証明という概念そのものが、成立しなくなり始めている」

読んでいただきありがとうございます。

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