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お前が犯人だ、その推理で世界が変わる -変遷探偵・久瀬黎司の記録-  作者: 未確定ログ
第1部 『犯人変遷篇』第1編『雨の取調室』
30/51

第30話『雨の確定点』

記録室の空気は、もう“揺れていなかった”。


揺れが止まったのではない。


揺れ方そのものが、変わってしまった。


白鐘雨音は、静かに言う。


「……落ち着いてます」


有馬が周囲を見回す。


「いや逆に気持ち悪いんだけど」


久瀬黎司は、机の上の黒い紙片を見ていた。


もうそこには“黒”すら薄れている。


ただの「境界」だけが残っている。


久瀬は静かに言う。


「ここが終点だ」


白鐘が顔を上げる。


「終点……?」


久瀬は頷く。


「最初の推理が、現実を上書きしきった場所」


有馬が眉をひそめる。


「結局それ何だったんだよ」


久瀬は答えない。


代わりに紙片に指を置く。


その瞬間――


視界が完全に白に切り替わった。


音も、雨も、部屋も消える。


そこにあるのはただ一つの場面。


――暗い部屋。

――机。

――誰かの声。


そして、少年の久瀬黎司。


その“もう一人の久瀬”が、静かに言う。


『じゃあ、決めようか』


白鐘の声が重なる。


「これ……最初の事件……」


有馬の声が遠くで響く。


「いや、これ今の俺らじゃねぇのか……?」


久瀬は理解する。


これは記録ではない。


回想でもない。


“確定前の世界そのもの”だ。


少年の久瀬が、ゆっくりと顔を上げる。


その視線が、こちらに向く。


『犯人は、まだ決まっていない』


その瞬間――


世界が一度、完全に静止した。


そして次に動き出したとき。


記録室は元に戻っていた。


雨もある。


机もある。


白鐘も、有馬もいる。


だが黒い紙片は消えていた。


白鐘が呟く。


「……終わったんですか」


有馬が息を吐く。


「終わったっていうか、何もわかんねぇままだろ」


久瀬黎司はゆっくり目を閉じる。


そして静かに言う。


「いや」


「確定した」


白鐘が顔を上げる。


「何がですか」


久瀬は短く答える。


「犯人は“変わる”」


沈黙。


有馬が呆れる。


「それ最初からじゃねぇか」


久瀬は否定しない。


ただ続ける。


「だが今は違う」


「変わることが“前提として確定した”」


白鐘が小さく息を呑む。


「じゃあ……この事件は」


久瀬は窓を見る。


雨はいつも通り降っている。


だがその雨はもう、“どの現実の雨でもあり得る状態”だった。


久瀬は静かに言う。


「第一編は終わった」


有馬が呟く。


「やっとかよ……」


白鐘が問いかける。


「じゃあ次は……?」


久瀬は振り向かずに言う。


「変わり続ける現実のほうだ」


そして、静かに扉へ向かう。


その背中に、もう揺れはない。


だが確かに分かる。


これから始まるものは、もう“事件”ではない。


――現実そのものの変遷だ。


(第1編『雨の取調室』 完)

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