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お前が犯人だ、その推理で世界が変わる -変遷探偵・久瀬黎司の記録-  作者: 未確定ログ
第1部 『犯人変遷篇』第1編『雨の取調室』
3/51

第3話『変わった後を覚えている者』

雨音が、やけに遠く聞こえた。


コンビニの白い灯り。


濡れた道路。


街灯の下に立つ女だけが、

現実から切り離されて見える。


「……今、なんて言った?」


久瀬黎司は低く問う。


女は白い傘を少し傾けた。


「“変わった後”を覚えてる、って言ったんです」


落ち着いた声だった。


妙に静かで、

感情の起伏が薄い。


だがその言葉だけで、

久瀬の背筋は凍りついていた。


「……お前、誰だ」


「白鐘雨音」


女は答える。


「新聞記者です」


記者。


久瀬は警戒を強める。


こんな時間。

こんな場所。


偶然とは思えない。


雨音が二人の間を埋める。


白鐘雨音は久瀬を見たまま、

ぽつりと言った。


「取調室の女の人、最初は否認してましたよね」


久瀬の瞳が揺れる。


「でも途中から、自分が犯人だったみたいに変わった」


「……」


「防犯カメラも変わった」


久瀬は息を呑む。


知っている。


この女は知っている。


白鐘は続ける。


「脅迫メッセージも、最初は存在してなかった」


「……お前」


「やっぱり」


白鐘は少しだけ目を細めた。


「あなたも覚えてるんですね」


 


沈黙。


雨だけが降っている。


久瀬は女を観察した。


嘘をついている顔じゃない。


だが。


ありえない。


これまで誰一人、

異変に気づいていなかった。


刑事も。

犯人も。

鑑識も。


全員、

“最初からそうだった”

と思い込んでいた。


なのに。


この女だけは違う。


「……どうして覚えてる」


白鐘はすぐには答えなかった。


コンビニのガラスへ視線を向ける。


そこに映る自分を、

確認するみたいに。


「三年前です」


「?」


「私は、一度“弟を失ってる”んです」


久瀬の眉が動く。


白鐘は淡々と続けた。


「正確には、“存在しなくなった”」


その言葉に、

久瀬の心臓が嫌な脈を打つ。


「最初は事故でした」


白鐘は語る。


「ビル火災。死者二人」


雨音に混じる声は、

不思議と聞き取りやすかった。


「でもある探偵が推理した。“放火犯がいる”って」


久瀬は黙って聞く。


「そのあと世界が変わった」


白鐘の目が、

まっすぐ久瀬を見る。


「弟は共犯者になってました」


 


コンビニの自動ドアが開く。


客が一人出ていく。


だが二人は動かない。


「意味が分からない、って顔してますね」


「……当たり前だ」


「私も最初はそうでした」


白鐘は苦笑した。


「でも、みんな覚えてなかった」


弟は最初から放火犯だった。


学校でもそう。

近所でもそう。


アルバムでも。

卒業文集でも。


全部そうなっていた。


「でも私は覚えてた」


白鐘は言う。


「弟は放火なんてしない」


久瀬の喉が乾く。


記憶改変。


存在改変。


もし本当に起きているなら、

今目の前にあるのは、

ただの怪異じゃない。


世界法則そのものだ。


「……なんで俺に話す」


「あなたが初めてだったから」


「?」


「変化に気づいた人」


白鐘は少しだけ笑った。


その笑みは、

安堵に近かった。


「ずっと探してたんです。同じ側の人を」


同じ側。


久瀬は言葉を飲み込む。


白鐘が近づく。


白い傘の先から、

雨粒が滴る。


「久瀬黎司」


名前を呼ばれた瞬間、

久瀬は目を細めた。


「なんで俺の名前を」


「元警視庁分析官。検挙率異常。二年前に突然退職」


白鐘は言う。


「あと」


一拍。


「あなたが関わった事件、犯人変わりすぎです」


 


久瀬の呼吸が止まる。


白鐘はスマホを取り出した。


画面を見せる。


そこには、

複数の事件記事が並んでいる。


『西荻母子殺害事件』


『青葉区通り魔事件』


『未解決だった雨宮夫妻毒殺事件』


全部。


久瀬が関わった事件。


「共通点があるんです」


白鐘が画面をスクロールする。


「あなたが推理したあと、証拠が増える」


久瀬の背中に冷たい汗が流れる。


「しかも」


白鐘は言った。


「犯人の人物像まで変わる」


 


風が吹く。


コンビニのビニール旗が揺れた。


久瀬は初めて、

自分以外にもこの異常を認識している人間がいると理解した。


そして同時に。


もっと恐ろしい可能性に気づく。


もし。


本当に。


自分の推理で世界が変わっているなら。


今まで捕まえた犯人たちは――


本当に、

最初から犯人だったのか?


 


その時だった。


白鐘のスマホが震える。


彼女は画面を見て、

表情を変えた。


「……え?」


「どうした」


白鐘は顔を上げる。


さっきまでの冷静さが消えていた。


「取調室の女の人……」


嫌な予感が走る。


白鐘が震える声で言う。


「今、“自殺した”って速報が出ました」

読んでいただきありがとうございます。

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