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お前が犯人だ、その推理で世界が変わる -変遷探偵・久瀬黎司の記録-  作者: 未確定ログ
第1部 『犯人変遷篇』第1編『雨の取調室』
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第2話『証拠はあとからやってくる』

「……久瀬さん?」


刑事の声で、我に返った。


久瀬黎司はゆっくり資料を机へ戻す。


指先が冷えていた。


「どうしたんすか。そんな顔して」


「……いや」


声が掠れる。


女はまだ泣いていた。


「私がやりました……本当に、ごめんなさい……」


その懺悔は、

数分前まで必死に否認していた人間のものとは思えなかった。


いや。


違う。


“そういう人間に変わっている”。


久瀬の脳裏に、

ありえない考えが浮かぶ。


だが。


それ以外に説明がつかなかった。


刑事が立ち上がる。


「とりあえず自供取ります。久瀬さん、助かりました」


助かりました。


その言葉が妙に遠く聞こえた。


久瀬は女を見つめる。


女はもう、

自分が犯人であることを疑っていない。


まるで最初から、

そうだったみたいに。


 


取調室を出る。


廊下は静かだった。


夜の署内特有の、

湿った空気が漂っている。


久瀬は歩きながら、

頭の中で何度も整理した。


最初、脅迫メッセージは存在しなかった。


爪にも血は付いていなかった。


供述も違った。


なのに今は全部ある。


自然に。


矛盾なく。


まるで世界が、

“犯人である証拠”を後から埋め込んだみたいに。


「……ありえない」


小さく呟く。


すると背後から声がした。


「久瀬さん」


振り返る。


若い刑事だった。


名を有馬という。


まだ二十代後半。


捜査一課に配属されたばかりの男だ。


「映像、確認します?」


「映像?」


「マンションの防犯カメラっすよ。さっき解析終わったんで」


久瀬の心臓が跳ねた。


防犯カメラ。


彼は取調室へ入る前、

既に一度その映像を見ている。


そこには、

女が慌ててマンションを出る姿しか映っていなかった。


凶器も。

返り血も。

犯行動作も。


何もなかった。


 


解析室。


薄暗いモニタールームで、

有馬が映像を再生する。


「ここです」


画面にマンションのエントランスが映る。


時刻は二十時五十七分。


女が現れる。


コート姿。

俯いた顔。


そして。


久瀬の呼吸が止まる。


女の右手。


そこに。


血の付着した金属バットが握られていた。


「――っ」


思わずモニターへ近づく。


有馬が怪訝そうに眉をひそめる。


「どうしました?」


ありえない。


そんなもの、

映っていなかった。


久瀬は目を凝らす。


女は周囲を確認し、

バットをバッグへ押し込んでいる。


完全に犯人の動きだった。


有馬が言う。


「決定的でしたね」


決定的。


久瀬の背中を汗が伝う。


「……この映像、いつ回収した?」


「え?」


「いつだ」


「一時間くらい前ですけど」


久瀬はモニターを見つめる。


映像の日付も、

データ番号も自然だ。


改竄の痕跡はない。


有馬が苦笑する。


「久瀬さん、今日変っすよ」


変。


その言葉が妙に引っかかった。


変なのは世界だ。


久瀬じゃない。


そう言いかけて、

飲み込む。


言えるわけがない。


 


署を出る。


雨はまだ降っていた。


深夜一時。


アスファルトが濡れて光っている。


久瀬はコンビニの軒下へ入り、

煙草を取り出した。


火を点けようとして、

止まる。


指が震えていた。


昔からだった。


理解できない現象に遭遇すると、

身体の方が先に異常を察知する。


久瀬は煙草をしまった。


代わりにスマホを開く。


被害者・倉橋慎吾。


検索。


ニュース記事が出てくる。


『女性トラブルか』


『交際相手から脅迫相談』


久瀬の目が止まる。


脅迫相談?


そんな情報、

取調室に入る前は存在していなかった。


記事の日付を見る。


昨日。


背筋が冷える。


昨日から存在していることになっている。


「……なんだよ、それ」


雨音が強くなる。


久瀬はスマホを握り締めた。


その時だった。


不意に、

後ろから声がした。


「その顔」


女の声。


久瀬が振り返る。


コンビニの明かりの外。


街灯の下に、

一人の女が立っていた。


白い傘。

長い黒髪。

細い目。


年齢は二十代前半くらい。


知らない顔だ。


だが。


女は久瀬を見て、

静かに言った。


「あなたも、“変わった後”を覚えてるんですね」


久瀬の心臓が止まりかけた。


読んでいただきありがとうございます。

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