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お前が犯人だ、その推理で世界が変わる -変遷探偵・久瀬黎司の記録-  作者: 未確定ログ
第1部 『犯人変遷篇』第1編『雨の取調室』
28/54

第28話『最初の推理』

黒い紙片は、机の上に置かれた瞬間から“重さ”を変えた。


物理的な重さではない。


空間そのものが沈むような感覚だった。


白鐘雨音は息を呑む。


「これ……ただの紙じゃないです」


有馬が顔をしかめる。


「見た目は紙だろ」


白鐘は首を振る。


「“見た目として成立していない紙”です」


沈黙。


久瀬黎司がゆっくりと手を伸ばす。


その動きだけが、この空間で唯一“安定している”ように見える。


紙片に触れた瞬間。


視界が揺れた。


――暗い部屋。

――机。

――誰かの声。


久瀬の記憶ではない。


しかし“久瀬が見たことになっている記憶”が流れ込む。


『……じゃあ、決めるしかないな』


その声。


白鐘が息を呑む。


「今の……聞こえました?」


有馬は首を振る。


「何も」


白鐘の顔が強張る。


「私だけ……?」


久瀬は紙片から手を離す。


「違う」


「“観測の差”だ」


沈黙。


紙片は机の上で静かに存在している。


だがその周囲だけ、空気の密度が違う。


久瀬は静かに言う。


「これは最初の推理だ」


白鐘が顔を上げる。


「最初の……?」


久瀬は続ける。


「この事件の起点で行われた“最初の確定行為”」


有馬が呟く。


「確定行為って何だよ」


久瀬は答える。


「誰かが“犯人はこうだ”と決めた瞬間だ」


白鐘が震える声で言う。


「それが……これ?」


久瀬は頷く。


「これが残響だ」


その言葉で空気が一段重くなる。


有馬が苛立つ。


「つまり昔の推理が残ってるだけだろ?」


久瀬は否定しない。


「だが問題はそこじゃない」


白鐘が小さく問う。


「じゃあ……何が問題なんですか」


久瀬は紙片を見る。


そして静かに言う。


「この推理が“まだ終わっていない”」


沈黙。


白鐘が顔をしかめる。


「終わってないって……どういう意味ですか」


久瀬は続ける。


「結論が確定していない推理は」


「観測するたびに“別の犯人を生む”」


有馬が固まる。


「は?」


白鐘の声が震える。


「じゃあこれ……」


久瀬は短く言う。


「犯人の原型だ」


その瞬間、紙片に一瞬だけ文字が浮かぶ。


――A


すぐに消える。


有馬が叫ぶ。


「今見えた!」


白鐘も頷く。


「でも……Aじゃありませんでした」


久瀬は目を細める。


「まだ揺れている」


白鐘が呟く。


「じゃあ……これを見続けたら」


久瀬は静かに答える。


「犯人は増える」


有馬が息を呑む。


「逆じゃねぇかそれ……」


久瀬は紙片を見つめる。


そして確信する。


この事件はまだ壊れていない。


だがすでに――


「最初の推理そのものが、現実を生成し始めている」

読んでいただきありがとうございます。

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