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お前が犯人だ、その推理で世界が変わる -変遷探偵・久瀬黎司の記録-  作者: 未確定ログ
第1部 『犯人変遷篇』第1編『雨の取調室』
24/51

第24話『正しさの不在』

資料室の白板は、もう“図”として成立していなかった。


線はある。

文字もある。


だが、それらが「意味」を持たない。


白鐘雨音は、ゆっくりと息を吐いた。


「久瀬さん……これ、読めません」


有馬がすぐに反論する。


「いや、普通に読めるだろ」


白鐘は首を振る。


「私は“事件として”読めません」


沈黙。


久瀬黎司が白板の前に立つ。


そして一言。


「正しさが消えている」


有馬が顔をしかめる。


「正しさってなんだよ」


久瀬は振り向かない。


「どれが正しいか判断する基準だ」


白鐘が小さく呟く。


「でも……さっきまでありましたよね」


久瀬は頷く。


「揺れていた」


有馬が苛立ったように言う。


「揺れてるとかじゃなくて、もう全部バラバラじゃねぇか」


白鐘は机に手を置く。


その手の感覚すら、少し遅れている気がした。


「……私、これ全部違う世界を見てる気がします」


久瀬が静かに言う。


「違う」


白鐘が顔を上げる。


久瀬は続ける。


「同じ世界だ」


「ただし“正しさが固定されていない世界”だ」


有馬が呟く。


「それもう意味ないじゃん」


久瀬は否定しない。


むしろ淡々と続ける。


「意味はある」


白鐘が息を呑む。


「あるんですか……?」


久瀬は窓を見る。


雨は変わらない。


だが、その雨の一粒一粒が“別の落ち方をしているように見える”。


久瀬は言う。


「正しさがない状態でも、結果は出る」


有馬が首を振る。


「いやそれ矛盾だろ」


久瀬は短く答える。


「矛盾ではない」


「まだ確定していないだけだ」


白鐘が震える声で言う。


「じゃあ……この事件はまだ終わってないってことですか」


久瀬は頷く。


「終わる条件がない」


その瞬間、白板の文字が一瞬だけ“全て消える”。


次の瞬間、また現れる。


だが内容が違う。


有馬が叫ぶ。


「おい!今消えたぞ!」


白鐘も頷く。


「でも今戻った内容……さっきと違います」


久瀬は静かに言う。


「正しさが消えると、比較ができなくなる」


白鐘が呟く。


「じゃあ……何が残るんですか」


久瀬は答える。


「観測だけだ」


有馬が苛立つ。


「それもう意味ないじゃん」


久瀬は初めて有馬を見る。


「意味がないのではない」


「意味が“確定できない”だけだ」


その言葉で空気が沈む。


白鐘が小さく言う。


「この事件……どこに向かってるんですか」


久瀬は少し間を置く。


そして静かに答える。


「収束だ」


有馬が即座に言う。


「どこがだよこれで」


久瀬は窓の外を見る。


雨は確かに降っている。


だがその雨は、見るたびに“別の世界の雨”に変わっている。


久瀬は確信する。


この事件はまだ壊れていない。


だがすでに――


「正しさそのものが消え、観測だけが残り始めている」

読んでいただきありがとうございます。

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