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お前が犯人だ、その推理で世界が変わる -変遷探偵・久瀬黎司の記録-  作者: 未確定ログ
第1部 『犯人変遷篇』第1編『雨の取調室』
23/51

第23話『観測者の差異』

資料室の空気は、これまでと違う“静けさ”になっていた。


音がないのではない。


誰かが「同じものを同じように見ていない」静けさだ。


白鐘雨音は、机に置かれた白板を見ていた。


そこには事件構造が描かれている。


だが彼女が見ている線と、有馬が見ている線は一致していない。


「……これ、違いますね」


有馬が即座に反応する。


「何が?」


白鐘は指を置く位置を示す。


「この証言の位置、私は“左”に見えます」


「でも有馬さんは“右”に見えてますよね」


有馬が固まる。


「いや、普通に左だろ」


白鐘は首を振る。


「私には右です」


沈黙。


久瀬黎司が静かに言う。


「観測位置のズレだ」


有馬が眉をひそめる。


「観測位置ってなんだよ」


久瀬は白板に近づく。


「同じ情報でも、誰が見るかで“配置そのものが変わる”」


白鐘が小さく呟く。


「つまり……同じ世界を見てない?」


久瀬は否定しない。


「近い」


その瞬間、有馬が声を荒げる。


「じゃあ俺が見てるのも嘘ってことかよ!」


久瀬は静かに答える。


「嘘ではない」


「ただ“別の成立した現実”だ」


空気が重くなる。


白鐘の手がわずかに震える。


「そんなの……一つの事件じゃないです」


久瀬は短く言う。


「一つだ」


白鐘が顔を上げる。


「でも……見えてるものが違うのに?」


久瀬は窓を見る。


「違うから一つだ」


有馬が理解できずに呟く。


「意味わかんねぇ……」


その時だった。


白板の文字が一瞬だけ“読めなくなる”。


いや、読めるのに意味が入ってこない。


有馬が顔をしかめる。


「なんか今の見えたけど理解できなかったぞ」


白鐘も同じ表情をしている。


久瀬だけが静かに見ている。


そして言う。


「観測者が揃っていない」


白鐘が震える声で言う。


「揃っていないと……どうなるんですか」


久瀬は少し間を置く。


「現実が分裂する」


その一言で空気が止まる。


有馬が小さく笑う。


「もう分裂してるだろこれ」


久瀬は否定しない。


むしろ淡々と言う。


「まだ“分裂の途中”だ」


白鐘が呟く。


「じゃあ……まだ増えるんですか」


久瀬は短く答える。


「観測者がいる限りな」


その瞬間、資料室の扉が一度だけ軋む。


誰も触れていない。


だが三人とも同時に違う方向を見た。


見えている“原因”が一致していない。


有馬が呟く。


「今の、誰が見たんだよ……」


白鐘は答えられない。


久瀬は静かに確信する。


この事件はまだ壊れていない。


だがすでに――


「現実そのものが“観測者ごとに分かれ始めている”」

読んでいただきありがとうございます。

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