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お前が犯人だ、その推理で世界が変わる -変遷探偵・久瀬黎司の記録-  作者: 未確定ログ
第1部 『犯人変遷篇』第1編『雨の取調室』
21/48

第21話『推理の選択』

資料室の空気は、もう“安定”していなかった。


揺れている。


静かに、ずっと揺れている。


白鐘雨音は白板を見ながら、声を落とす。


「久瀬さん……一つ、気づきました」


有馬がすぐに反応する。


「またかよ」


白鐘は無視する。


「この事件、候補が増えてるんじゃないです」


久瀬の視線が上がる。


「どういう意味だ」


白鐘は言葉を選びながら続ける。


「“私たちが見た瞬間に、結果が分岐してる”んです」


沈黙。


有馬が眉をひそめる。


「分岐って何だよ、未来予知か?」


白鐘は首を振る。


「違います」


「“推理した内容ごとに、事件の成立条件が変わってる”んです」


久瀬の目が細くなる。


「……なるほどな」


その一言で空気が変わる。


有馬が嫌そうに言う。


「分かってんのかよそれ」


久瀬は静かに答える。


「分かっているというより、“確認した”」


白鐘が息を呑む。


「確認……?」


久瀬は資料を一枚取り上げる。


そこには事件の構造図がある。


だがその図は、見るたびに形が違う。


久瀬は続ける。


「俺が“犯人Aだ”と思った瞬間」


「この図はAを中心に再構成される」


「俺が“犯人Bだ”と思えばBになる」


有馬が固まる。


「いやそれ……ただの思い込みじゃね?」


久瀬は否定しない。


「普通ならそうだ」


だが白鐘が震える声で言う。


「でもこの事件は……違う」


久瀬は頷く。


「そうだ」


沈黙。


雨音が一段だけ強くなる。


白鐘が小さく言う。


「じゃあ……私たちの推理って」


久瀬は短く答える。


「選択だ」


有馬が顔をしかめる。


「選択って何をだよ」


久瀬は静かに言う。


「どの現実を成立させるか」


その瞬間、資料室の照明が一瞬だけ白く飛ぶ。


戻ったとき、白板の構造が変わっている。


有馬が叫ぶ。


「おい!また変わったぞ!」


白鐘は白板を見て震える。


「……今の推理、反映されました」


有馬が混乱する。


「誰のだよ!」


久瀬は答えない。


ただ自分の思考を見つめている。


“まだ確定していない世界の中で、思考だけが先に進んでいる感覚”


久瀬は静かに言う。


「この事件はもう“発見”ではない」


白鐘が顔を上げる。


「じゃあ……何なんですか」


久瀬は答える。


「選択だ」


有馬が呟く。


「それもう事件じゃねぇだろ」


久瀬は否定しない。


その代わり、窓の外を見る。


雨は同じように降っている。


だが一粒一粒が、“別の可能性”を持って落ちているように見える。


久瀬は確信する。


この事件はまだ壊れていない。


だがすでに――


「推理そのものが、現実の分岐点になっている」

読んでいただきありがとうございます。

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